「医仙」
囁き声が聞こえたのは、この人がうとうと眠りはじめてしばらく後の頃だった。
この人が腰に回していた手をそっと外して、私は寝台を立った。
寝室の扉を静かに開けて、声の主を確認する。
さっき典医寺に走ってくれた見張りの立ち番の人と一緒に、テマンが寝室前の廊下に立っていた。
「テマナも来てくれたの?ごめんね、遅いのに」
「そんな事は構いません、大護軍は」
テマンは自分の方がどこか悪いんじゃないかと思うくらい辛そうな顔をして、兵さんと一緒に立っている。
私は静かに寝室の扉を閉めて、2人を手招きして居間まで歩く。
居間に入って扉を閉めて、ようやく3人で息をつく。
あの敏感な人だから、起きたかもしれないけど。
「お俺、今まで大護軍がびょ病気なんて」
テマンはよっぽど気が動転してるんだろう。顔を歪めて、しきりに寝室の方を気にしている。
「大丈夫よ、ただの風邪だと思う」
そう言って私がその手をポンポンと軽く叩くと、安心したようにはあっと息を吐いて、ようやくテマンは頷いた。
テマンがこんなに動揺するほど、あの人は病気しなかったのね。
「それでこ、これ、典医寺から」
居間の卓の上にごとりと、薬湯の煎じ壺が置かれた。
「キム先生が、明日朝来るって言ってました。トギ連れて」
「トギも?」
そのテマンの言葉に驚いて問い返す。何で二人で?
「はい、大護軍診て、もし何か必要なものがあったらすぐ取りに行ってもらうから、って」
うーん、と私は首を傾げる。すごーく重病扱いだけど、たぶんただの風邪。
悪くてインフルエンザってとこだと思う。少なくとも脈診では、気血や腎に異常はなかったし。
それがここまで大騒ぎになるって言うのも、どうなの?
よっぽど元気だったのね、あの人今まで。
今回はまさに、鬼の霍乱ってやつかしら。
「分かった。テマナ、悪いんだけどもしかしてイン・・・ああ、 悪い風邪ならしばらく役目に出られないかも。
あの人は行きたがるだろうけど、周りにうつしちゃうから」
私が噛んで含めるようにそう言うと、テマンがこくこく頷いた。
高麗時代の風邪予防の感覚がどんなものか分からないし、全員が頻繁に脈診を受けてるわけじゃない。
もし迂達赤みたいな共同宿舎でインフルエンザが蔓延したらあっという間に感染拡大しそうだものね。
「明日キム先生にも言うけど、もし迂達赤で急に体が痛くなって高い熱が出た人がいたら、教えてくれる?
それからみんなに、塩水でうがいして、せっけんでしっかり手を洗って、って」
「塩水、うがい、せっけん・・・伝えます」
テマンは指を折って頷いて言って、椅子から立ち上がった。
「俺も明日、トギたちと一緒に来ます」
「無理しちゃ駄目よ、テマナはいつもあの人と一緒だから風邪がうつってるかもしれない。ちょっと手を貸して」
素直に差し出された手首で脈を測る。問題なし。促脈も動脈も、特には感じない。
でもあの人も今日の夕方まで、特に変わりはなかったし。
潜伏期だと、どんな脈なのかな。今日までの脈診で見逃したことが悔やまれる。
もっと早く気付いてれば、あんなに辛くさせずに済んだかも。
でももう発熱しちゃっている以上正確な脈診はできないし、発症後のあの人をもう一回脈診しても意味がない。
私は気分を切り替えようと、テマンの手首を離して頷く。
「今は風邪の前兆はなさそう。だからなおさら、きちんとうがいと手洗いしてね?」
「はい」
一緒にいた見張りの兵さんの脈診も、異常はなし。
たまたまあの人だけって事かな。
そう思い私も立ちあがる。薬湯を飲ませなきゃ。
「じゃあ医仙、また明日来ます」
「お邪魔しました、医仙様」
そう言って、テマンと見張りの兵さんが玄関を出るのを見送って、急いで居間に戻る。
薬湯と白湯の入った茶碗の2つを持って寝室へ帰ると、扉をそっと開けた途端、寝台の上から怠そうな声がする。
「テマナが」
やっぱり気づいてたのねと苦笑する。
部屋に入り扉を閉めて茶碗をナイトテーブル代わりの小卓の上に置き、寝台の端っこに腰掛ける。
「うん、見張り兵の人と一緒に、典医寺から薬湯を持って来てくれたの。明日また来るって」
「そうですか」
「そうよ、まずは薬湯飲もうか。ちょっと待って」
私は寝台の上の枕を全て集める。そしてこの人の首の後ろに手を入れて
「ちょっとだけ頭起こせる?私の首に掴まれる?」
そう訊くと布団の中からいつもより熱い腕が伸びてくる。
「しっかり掴まって。頭起こすから」
そう言うとあなたは言われるままに腕を私の首に回し、後ろでしっかり絡めてくれた。
でも何故かその上半身を起こそうと力を入れるのに、全然頭を上げてくれない。
「よ、ヨンア?」
「うん」
「すこーしだけ、頭を起こしてくれると助かるかな」
「いやだ」
・・・はい?
「薬飲むのに、寝たままだと誤飲するから。少しだけ。頭あげるだけ。起きるのつらい?」
その腕を首に絡めたまま、とても近い距離で訊いてみる。
これだけ大きい人は、協力がないとなかなか起こせない。
辛いなら紐で介助してあげようと考えて
「分かった。じゃあ紐使って起こしてあげる。一回、腕ほどいていいわよー」
そう言ってみるけど、何故か首の後ろで絡んだ腕はほどけない。
それどころか腕に力が篭って、私の顔はこの人に近付いていく。
「・・・んー、ヨンア」
「わざと」
「そう、でしょうね」
「ええ」
満足げに熱っぽい目で笑うと、その腕は熱が40度近くある患者とは思えない力で、私の首を優しく引き寄せた。
ああ、でもやっぱり熱は高いままだ。その唇はいつもより乾いていて、とても熱いから。
「・・・伝染る」
散々我儘をした後に、やっと唇を離してそう言ったって。
「知らない、もう遅いんじゃない?」
私は呆れて苦笑いをした。

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いやだ… わざと… たったこれだけの台詞で 萌えまくってます( *´艸`)
うつるのわかってて我儘言うヨンが 可愛いすぎます(#^.^#)
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熱っぽいヨンの顔を想像すると眠れないかも( *´艸`)
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いや~~ん!もっと甘やかしてください!
ラブラブアマアマ大好き!日頃とのギャップいいですね!
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ヨンが寝込むって一大事なのですね。今までは同じ状況でもウンスがいなかったから無理していた・周りが気付かなかった、でしょうか?
病人のくせにうつるかもしれないのに口づけなんてしてはダメですよ、と言いたいですが甘えたいなら仕方ないですね。
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うつる(笑)で、今度はヨンが看病ですね(≧∇≦)これじゃあ、ずっと移しっこになってしまうし\(//∇//)\(笑)
弱っている時は、人間素直になりますよね、ヨンも同じですね
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ヨン。
いつもはめちゃくちかっこいいヨン。
かわいいヨンは何だか新鮮ですね。
もっとウンスに甘えちゃって~
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>あみいさん
こんばんは❤コメありがとうございます
そもそも、ヨンの場合、チャン侍医が本篇で
「内功が優れており、刺し傷を負っても自力で治した」的な
そんなことをおっしゃっていたので・・・
ヨンが倒れたら、そりゃあもう皇宮は上を下への大騒ぎ?ですかね?
そんなヨンのウィルスは、普通の人が感染したらもう!でしょうかw
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>mirukuさん
こんばんは❤コメありがとうございます
意外と人間、気を張っている時は倒れない気がします。
気が抜けた時が危ないですね・・・ウンスも医者の不養生にならぬよう
気をつけてもらわねば!
嫌ですからね、二人でピンポン感染・・・経路バレバレで(爆
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>kacotanさん
こんばんは❤コメありがとうございます
普段の男前度を覆し、理想を崩壊させる
恐ろしき甘ったれ振りですが(w
風邪の時はもう仕方ないねと、寛大にお目こぼし頂ければ嬉しいです❤
どう甘えるやら、ですが( ´艸`)
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これだけ 大人しかったら
ず~と看ていたい ( ´艸`)
でも厄介かも
この甘えんぼさん…
こんな献身的に看病されちゃ~
ヨン ウンスに惚れ直しちゃう
ますます 愛しちゃう (///∇//)
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もう、しっかりお子ちゃまなみの甘えっぷりですね(笑)
ヨンが倒れたというだけで、皇宮では大騒ぎになるほどまれな事なんですね。
それほどレアな事だから、思いきりこの時ばかりと甘えてもいいですよね❤
「うつる」
の一言なのに照れちゃいます。
ウンスうつっちゃうのかな~ ?
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うつしちゃうかも、てわかってても、わがまましたかったのね。うふ。甘ったれちゃんのヨンもかわいい。
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>くるくるしなもんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
甘えん坊なヨンも、まあごくごくたまには良いかもですw
始終これでは、無理ですが。いやその前に、始終これでは
救いようがないですが(爆
少なくとも、お互い惚れ直したことは間違いなさそうです・・・❤
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>ままちゃんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
ヨンの場合本編でチャン侍医が「刺し傷も
内功が優れているので自力で治した」と
言うくらいなので、病に倒れるのはなかったのでは・・・と思います。
甘えていい、と言うより甘えるがお題なので、ここはもうw
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>p172172さん
こんばんは❤コメありがとうございます
もう此度のヨンは、リクお題が「甘える」だったので
ここぞとばかりに、甘えっこの駄々っ子ですw
書いててもえーーー!と思いましたw