2014-15 リクエスト | 為虎添翼・4

 

 

駆け込んでくる気配に顔を上げる。

窓外の樹上にいたテマンが真先に気付き、枝の上で身を翻すと幹をするりと滑り降りた。
同時に兵舎の庭からチュンソクの声が響く。
「大護軍!!」

兵舎の私室の窓の外から聞こえて来たチュンソクの喉が裂けるほどの大声。
俺は鬼剣を握り締め、身を翻し私室から駆け出た。
いつもなら礼を人一倍重んじる奴が、窓の外より大声で叫びながら駆け込んでくる。
その様子に只ならぬものを感じて。

階を一足飛びに下り吹抜けを走り、勢いのまま扉から庭へと飛び出すと
「何だ!」
此方へ向かって走る奴に向かい、声を張る。

康安殿の守りに立つ奴が此処まで駆け戻ったのだ。
何か起きたに違いない。急襲か、王様の異変か。
チュンソクは駆けて来たせいで赤い顔のまま、息を切らしながら大声で続けた。
「すぐに康安殿へ、王様がお呼びです」
「何があった」
その胸座を掴み上げるほど寄った俺に、チュンソクは真直ぐ真剣な目を返す。
「天門が、開きます!!」

 

典医寺よりトクマンが攫うように連れて来たあの方と、駆け込んだ康安殿にて合流する。

「見よ」
王様が御手より急いで 此方へ下さったのは、天門の見張役よりの文だった。
「村人よりの伝えにて、天門開く予兆有り。至急のお知らせ参らせる」

変わりなしと書かれた文を数年見慣れてきた。
普段より長い文は待ち望んだ報せの筈が、狐に抓まれたようにも思える。
「まずは行け、大護軍」
「しかしこれほど急に」
王様の御声に初めて逡巡の思いが沸く。

「急いでください、大護軍」
あの方を連れて来たトクマンが地団太を踏むよう足を踏み鳴らす。
「それほど易い事か。俺が急に抜け守りは如何する。
万一北か南から急襲があれば」
その声に返して、
「大護軍、自分たちはそれほど頼りないですか」
チュンソクが声を張る。

「何の為に、大護軍に死ぬほど鍛えられたのか。
大護軍が戻るまで必ずや王様を、高麗を守ります。
迂達赤だけでなく、武閣氏も禁軍も官軍も国境隊も。
ですから一刻も早く行き、一刻も早くお戻りを」

その声に、トクマンとテマンが一斉に頷く。
「大護軍、早く!!」
叫ぶテマンの声に、俺は横のこの方を見る。
「参りましょう」

この方が俺の眸を見つめ返し、確りと頷く。
王様へ眸を戻せば小さく頷かれ、執務机の上の荷を渡して下さった。
「高麗王名代の号牌、そして道中資金だ。
急ぎ参れ。そして必ず二人で無事に戻れ」
「王様」

そこまではして頂くわけには行かん。
俺の身勝手な此度の決断にそこまでのご厚意は。
お伝えしようとした声を押さえるよう、王様は此方をご覧になった。
そして短く息を継ぎ大きく声を張られた。
「迂達赤大護軍チェ・ヨン、王命である!」

其処にいたこの方を除く俺たち全員は、御声に膝まづき一斉に頭を下げた。

「しかと受け賜りました!」

 

******

 

チュンソクを王様の守りに殿内へと残し駆け出た康安殿の外、回廊を早足で抜ける。
テマンとトクマンが駆けるように後ろに従う。

飛び出した皇宮の大門外の脇には既に野営道具を載せた馬が二頭。
その場に並んで牽かれて待っている。俺達はそれぞれの馬に跨った。
馬上から下の二人へ目を落とす。
「お気をつけて!」
トクマンがこの目を見て言う声に頷く。
「絶対に無事に!」
テマンが大きく笑う。その笑顔に僅かに笑みを返す。

「王様と媽媽をお守りせよ」
「しっかりと、確実に、お守りします」
トクマンが言って、強く頷く。
「チュンソクを助けてくれ」
「しっかりと、確実に、お助けします」
テマンが真直ぐに俺を見る。

「頼む」
「はい!!」
返るその二人の声を聞き、最後に横の馬に跨るこの方を見遣り、俺は馬を出した。

駆け抜ける路の景色は、驚くほどの速さで後へ飛ぶように流れ去っていく。
緑の木立も村落の中の立ち並ぶ家々も、全てが流れ去るぼやけた線になる。
気を抜けば、この方の馬との距離が開く。
なるべく抑えながら横のこの方を見遣る。
「まだ行けますか」
そう声を掛けると、この方は俺を見て、花の咲く笑みを浮かべて下さった。
「全然平気、急ごう」

お元気な方だ、相も変わらず。
何も変わっていないのかもしれん。
歯車の狂いなど己の杞憂かもしれん。
こうして笑みを一つ見るだけで、これ程愛しさが溢れるのだから。

俺は速度を少し上げる為、馬の脇腹を軽く蹴った。

 

 

 

 

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25 件のコメント

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    さらんさん、おはようございます
    前回のコメントより…
    パラレルでも悶々としたものがスッキリしたのでありがたいです♪
    二次は二次として受け止めて読んでますし(*^_^*)
    さらんさんなりの解釈でもスッキリ爽やかにさせていただけます(笑)
    いよいよ。開きました!
    もう、次が楽しみです!
    いつもありがとうございます(*^_^*)

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    いよいよですね~!
    チャン先生(#^.^#)
    どうなるのかしら?
    天門をくぐる前からの気持ちのズレはどうなるのでしょうか?
    ドキドキです(*^_^*)

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    やっと天門が開きましたね。良かったです。このまま開かなかったらどうなるかと・・・。
    無事?ふたりで両親の承諾を貰って帰ってきてね。

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    続きが気になります。
    ヨンの一度決めたら突き進む性格
    それがじれったい グイグイ行けよ!
    と思うことも多々
    さて続きがどうなることか
    あっ現代に行くってことは服装とかどうするのかな?
    先ずは現代に扉は開いてるのかしら?
    楽しみにしています。

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    ついにですね!!
    今日のお話をドキドキしながら、チェヨン達の馬が走るような勢いで読んじゃいました((o(^∇^)o))
    周りの人達の優しさが染みます(ToT)

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    とうとう天界ですね(≧∇≦)
    どーなるのかわくわく過ぎてコメントしちゃいました‼
    毎日楽しみです~(*/□\*)ありがとうございますm(._.)m

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    さらんちゃん 開くのですね?
    必ず戻るってわかっているつもりですが
    緊張しますね?(笑)
    何かある・・・・でも想像力全開しても
    わからないのが悔しいような嬉しいような^^
    ワクワクできるって本当に楽しいものですね~

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    >★sachi★さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    はい、いよいよ開きました。天界ですね。
    ここまでで既に4話。ぐったりですw
    もうもし次に天門使う時は、さっくり開けます(爆
    楽しんで頂けると嬉しいです❤

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    >ルカさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    気持ちのズレ、どうなるのでしょう。
    相変わらず言葉の足りない二人です。
    しかし今回は【都忘れ】ほど時間はなく、
    二人で解決して頂くしかありませんwという大人の事情。
    続きを読んで頂けると嬉しいです❤

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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    それもアリですねー、開くと見せかけてからの~なw
    ヨンは漁師でもして暮らすから大丈夫とは思いますが( ´艸`)
    なるべく早く許可を・・・!取って頂きたいです(;´▽`A“

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    >あいちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    楽しみにして頂けたら嬉しいです❤
    少し長くなりそうな気配ですが・・・よろしければ また覗いてみて下さい♪

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    >ポチッとなさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    開くのでしょうか、そしていつ。
    実は私も書く時、毎回一番悩むのはそこです。
    自動ドアじゃあるまいに、そんなたびたび開くの?と
    開くなら、最初の高麗の一年、あの二人のジレジレは
    一体何だったのだー!とσ(^_^;)
    さすがにパラのリク話で開かないと・・・ですがw

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    >あじのひものさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    いろいろ考えて頂いているご様子、ありがとうございます❤
    ヨンの場合は性格ですので、あればっかりは・・・爆
    続きもヨンで頂ければ嬉しいです( ´艸`)

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    >まりあさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    周囲も、たいがいにしろと思っているのでしょうw
    もういい加減ここで結婚しないと、こいつらまずくね?くらいに
    思っているかもしれません…私なら思いますσ(^_^;)
    素敵、馬の駆ける速度で読んで頂ければ嬉しいです(*v.v)。

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    >トマトさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうですね。今まで書いてきた中で、今回のリク話が
    最年長のヨン&ウンスなのです、実は。
    本編二次よりも3歳近く年上です。あららら。
    ラブラブくらいは出てほしいものです…❤

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    >naomiさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    わくわく過ぎて頂いて嬉しいです❤
    もう二次は、ワクワクして頂いてなんぼと思うので(●´ω`●)ゞ
    楽しみながら読んで頂けますように、頑張りますφ(.. )

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    >victoryさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    わーい、嬉しいです❤
    妄想は日々の暮らしの原動力。
    そして気付けばBS12・TBSに加え、Gya*でも
    始まりました【信義】再配信。
    まずい、やばいです。幸せすぎます。
    いつどこでもヨンと一緒、もう悔いなし。二次書いて来て
    ここまでまた信義が盛り上がれば、もういつ辞めても悔いなしです~~!

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    >よっしーさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    コメ順、変わってしまって済みませんm(_ _ )m
    いつもヨンで頂き、ありがとうございます。
    今回リクなのに、長編でないのに、なんだかなーな長さになりそうです・・・
    呆れずお付き合い頂えれば嬉しいです❤
    よろしければ また覗いてみて下さい♪

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    PASS:
    さらん様、こんにちは❤
    王様の一声、恰好よいです(●^o^●)
    いよいよ物語が動き出しましたね。
    久し振りのチュンソクとテマナそれにトクマニ。
    皆が待ち望んでいた天門の兆し。
    それもこれも、ヨンとウンスに少しでも早く
    婚儀をあげさせたいとの思いからでしょう。
    ヨンの受難が予想されますが、
    今はただただ嬉しいです❤

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    >夢夢さん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    チュンソク、なんか走り込んで来ておいしいとこ
    持ってっちゃいましたけど(●´ω`●)ゞ
    ガタガタ言う迂達赤には王命は鶴の一声ですね。
    反射反応です、きっとw

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