馬を休める川岸の木の下へ腰を下ろし、この後の道中を案じていた。
如何する。このまま突走り一刻も早くあの門まで抜けるか。
すれば二日と半で着くだろう。
しかし不眠不休はこの方には無理だ。何処で野営を張る。
二人きりであれば幾らでも自由は利く。
その時感じた脇の気配に眸を上げた。
腰を下ろした木、その少し横にあの方がもの言いたげに立っている。
どうした。俺は眸で問う。
あの方は何も返さず首を傾げる。木の下で腰掛ける此方に向かい。
何処かで見たことはなかったか。
頭の中共に過ごした季節が巡る。ようやく思い当り、ああと息を吐く。
傍にいない事に慣れるのが怖い、近くにいれば安泰だと思っていた己。
いつの間にか日々の些末事に紛れて 大切な事を見失っていなかったか。
今こうして共にいる事こそ奇跡ではないか。
あの時木の下で、この方の頭を肩に感じながらその肩を抱き寄せた時。
目の前に見えていたのは別れだけだった。
追手から護り無事に逃がし、安全に天門をくぐらせたいとの一心だった。
それがどれ程辛い別れでもと。
慣れてしまうのを恐れるべきは、この方が傍にいない事ではない。
傍にいてくれる事だ。
傍にいてくれる事に慣れてはならん。
こうして何度でも巡り逢える事、幾つも思い出を積み重ねられる事。
時として忘れかける俺を、この方はこうして引き留め思い出させる。
何故あなたに出逢ったか。
何故無理に連れてきたか。
何故此処で共に過ごしたか。
何故目が離せなくなったか。
何故あの時、天界の薬瓶に黄色い花をしまったか。
いつでも遅すぎる俺の歩みに合わせこの方は待っていてくれる。
それは繰り返される。奇跡のように。
もの言いたげな瞳は、まだ此方を見ている。
その瞳を覗き込む。
そして左肩を叩くと
「此処へ」
それだけ静かに伝えた。
この方の瞳がようやく三日月に笑んだ。
******
言わなきゃいけない事がある。隠しておくわけにはいかない。
それを何年も言えずに、この人に隠している。
その罪悪感がこの人との間に隙間を作った。
広げる腕の中に飛び込むのをためらわせた。いつだって傍にいたいのに足を止めさせた。
時が経つごとにどんどんそうなって行った。ごめん、ごめんねと心で言いながら。
天門が開くと報せを受けて、この人と馬に跨って。
早くケリをつけたい、もうそれしか考えられない。
寝なくたっていい、休まなくたっていい、早くこの人を楽にしてあげたい。
誰にもやましい気持ちを抱かずに言いたい。
この人を愛してる、だからどこにでもついて行く。
この人と一緒にいると、大きな声で堂々とはっきり言いたい。
オンマ、アッパ、だから分かって。私はあの人のところには行かない。
あの人と結婚なんて絶対できない。あの人は、私の運命の人じゃない。
やっと思い出してくれたこの人の肩に頭を載せる。
自分の居場所に戻れた安心感に大きく息を吸い込んで、この人の懐かしい香りを思い出す。
ここしかない。この肩でしか休めない。
目を上げて、こっちを静かに覗き込む黒い瞳を、じいっと見つめる。
この瞳しかない、この瞳しか見えない。
チェ・ヨンという、この人しかいらない。だから分かって。
*****
天門への丘へ差し掛かると、一目瞭然の異変が目に飛び込んできた。
空が赤い。夕焼けや日光の反射じゃない。山の一部に本当に赤い霧がかかっている。
この世界では、こんな風になるのね。
あの時、奇轍に連れ去られた時はどうだった? 思い出せずに首を振る。
あの時は丘に残したあなたの事しか考えられなかった。周りのことなんて見えなかった。
前の世界の時はどうだった?どうやってここに戻って来た?
そうだ。この人に逢いたい、何度でも巡り逢える、そう信じて私は祈った。
私たちが運命の二人ならどうか導いて、あなたのところへ戻してと願った。
横を歩くあなたの手を握る。
どうしたと問いかける目に伝える。
「愛してる」
その天界の言葉に、この人が首を傾げる。
伝わってなくても構わない。ただ口に出して伝えたいだけ。
「あなたを愛してる。私たちは何度でも巡り逢う。絶対に離れたりしない。
それだけ覚えてて。私を信じてて」
その手を繋いだまま、丘を過ぎて天門へまっすぐ歩く。
その門のすぐ横に、前にはなかった小ぶりの建物が見えてくる。
その前に、鎧姿の人が何人か立っているのが見えた。
彼らはそこに向かう私たちに気付いて、一斉に頭を下げる。
「大護軍」
「開いたか」
足を止めずにその人たちの前を通り過ぎながらあなたが聞く。
「いらっしゃるとほぼ同時に」
その声に、間違いじゃなかったともう一度自分の気持ちを確かめる。
愛してる。あなたしかいない。お願い、同じように思っていて。
「行く」
「お気をつけて!!」
この人は短く言って、私たちはみんなが見守る中で石垣の角を曲り、目の前の天門を見る。
3年ぶりの蒼白い光の渦。そこに向かって吹き込む強い風。
風に髪をなぶられ、光に目を眇めて、あなたが私を見つめる。
私はあなたに向かって1度だけ頷く。
「信じて」
その手をぎゅっと握り返して、あなたがその目許を綻ばせる。
「信じる」
私たちは足を止めずに真っ直ぐ進み、そのまま光に身を委ねた。
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さらんさんこんばんは♪
ヨンとウンスがつがいに戻っていく感覚
そばに…
くぅ…いいねぇ(*≧艸≦)
そうこなくっちゃ
またまた楽しみでしかない!
素敵なお話ありがとうございます(*^^*)
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天門を潜る前に 二人の想いが通じて良かった。
予測出来ない展開に ハラハラしてました。
リクエスト話と わかってるのに のめり込んでしまいますね。
いよいよ天界へ 長編いいじゃないですか。
さらんさんは 大変かもしれないけど 先を楽しみに待ってまーす。
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このあとの展開、ドキドキしてしまう。
ハラハラしますが、見守っています。
さらんさん、いつも素晴らしいお話ありがとうございます。
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あ~ 行っちゃった(T_T)
仲良く 帰ってきてね~
ううう ちょと寂しい気がしますが
これからの展開を楽しみに
(;´▽`A“
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いよいよ現代へ。
お父さんとお母さんは、チェヨンくんとの結婚を許してくれるでしょうか?
恋人として、女性の両親に挨拶に行く時、チェヨンくんでも、緊張してしまうのでしょうか?
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もう、ドキドキがとまりません。
二人の想いが強いから、きっと大丈夫とは思ってても。
早く続きが読みたいよ~。
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何が起こるのかわからないのに2人が絆を信じて向かって行く姿に胸を打たれました^ ^
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一瞬の迷いと隙間が時を違えてしまう天門だからこそ、同じ気持ち「信じる」を心に強く願って欲しいです。
門にくるまでの道中はとても大切な物を思う出させてくれる必要な道のりだったようですね。
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>愛知のひとみさん
こんばんは❤コメありがとうございます
今回は、どんな現代になるか・・・一回首爾2012を書いているので
それとの違いを楽しんで頂きたいです❤
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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>チェヨン1さん
こんばんは❤コメありがとうございます
いやあもう、今回は約束破りにも程があるよね的長編です。
さすがにこれの短編は無理でした・・・
この二人、私の書いてきた中で一番の年上カップルとなりましたが
今回はそのせいか…はい、大人なかんじです。
この後も楽しんで頂けると嬉しいです❤
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>まのあさん
こんばんは❤コメありがとうございます
ドキドキして頂けると嬉しいです❤
今回は、別の意味でもドキドキ、はらはらがあると良いなあ、と
思いつつ、書いています。
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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>くるくるしなもんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
まずは旅立ちです。
仲良く帰って来てほしいです~❤
きっと大丈夫だと思います。旅行は往々にしてカップルの距離を縮めますが、
今回は時間旅行ですから、もうそれはそれは親しくなって
帰って来る・・・はず・・・( ´艸`)
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>ポチッとなさん
こんばんは❤コメありがとうございます
許してくれるでしょうか…でもその前に超えるべき難関が。
この後のお話は、もしかしたら、ちょっと想像とずれていくかも、な
心配もあったりもしますが・・・
もしかしたら、意外と意外に挨拶は緊張しなかったりするかもです。
楽しんで頂けると嬉しいのですが( ´艸`)
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>ぴよたろうさん
こんばんは❤コメありがとうございます
そうですね、二人の絆、今回はいろいろと固く、強くなります。
障害を乗り越えるにはそれが一番。
続きも楽しんで頂けると嬉しいですヾ(@°▽°@)ノ
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>Akiさん
こんばんは❤コメありがとうございます
この二人の場合はもう「信じて」「信じる」で成立している関係ですが、
シンプルだけど、それが一番大事かなと。
ただ単純故に、拗れると面倒なので、拗らすなよー、と
書きながら、ドキドキです(;´▽`A“
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>ままちゃんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
そうなんです、私も不思議なのは、もしあの天門の中で
二人の気持ちがずれたら、別の場所に出てしまうのでは、と
その事なのでした。
だからこそ、同じ気持ちで。ウンスは天門経験がヨンより多い分、
その辺を感じて、ヨンに「信じて」というのかなと(*v.v)。
良い旅にしてほしいです・・・❤
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さらん様、こんにちは❤
歩みが遅すぎて...(●^o^●)
あの歌が聴こえて来そうです。
画面のヨンにも何度も泣かされましたが、
あの歌の効果は絶大でした。
大好きです❤
天門...開きましたね。
あの門は、開いていれば誰でも通れる訳では
無いのですよね。
キチョルは、何度トライしても駄目だったし。
天に選ばれた人だけが通る事の出来る奇跡の門。
ワクワクします❤
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>夢夢さん
おはようございます❤コメありがとうございます
私の中であの門をくぐれるのは、もう自分の為でなく
自己犠牲というか、人の為にというか
そう言う人だけなのかな、と思います。
でたさらん設定!
しかしヨン…今回は、朝から…
不埒なσ(^_^;)