「着替え、置いておくね。 分からなかったら声かけてね」
そう声を掛けると、バスルームからがたん、ごん、と物凄い音がした。
「だ、大丈夫?!」
「・・・・・・・・・はい」
長い沈黙の後やっと返って来たその声に吹き出しそうになりながら、堪えてドアを閉めた。
リビングでコーヒーを飲みながら待ってると、着替えたあの人が頭をタオルで拭きながらリビングへ入って来た。
服は普通に着られてる。問題ない。
「じゃあ私も入って来ちゃうね。 終わったらすぐ買い物に行こう。両親に会うのに、さすがにスウェットじゃ」
「イムジャ」
飲んでたコーヒーをカウンターに置いてそう言って寝室に着替えを取りに行こうとした私は、背中の声に足を止めた。
さすがに鈍い私にも、緊張した時のこの人の声くらい聞けばすぐにわかる。
「何を隠していた」
振り返ると真っ直ぐな目で聞かれた。 私は息を深く吸ってあなたの目を見た。
そう、隠してた。私はこの人に隠してた。
「座って」
私がリビングのソファを目で示すと、この人は黙ってそこまで歩き、どさりと音を立てて腰を下ろした。
「どうして隠してたって」
「イムジャ」
この人は溜息をついて、自分のスウェットの胸元を指先で軽くつまんだ。
「この衣はイムジャのものか。にしては大きすぎるが」
そうよね。
恋人からいきなり男物の服を出されれば、警戒するのはいつの時代の男も一緒よね。
「気づくべきだった。イムジャがご両親にお許しを得たいと言った折に」
この人は、々したように拭いていたその頭のタオルを膝に下ろす。
そしてそのタオルの両端を、両掌でぎゅっと強く握り締めた。
「婚儀のお許しを頂くのは至極当然。待ったことにも悔いはない。
こうして天界へ来られたのだから何ら問題ない、但し」
その真っ直ぐに向いた目が痛い。痛くて、怖い。
私が告げた瞬間にどんな色に変わるのか、判らないから。
「それが俺達二人だけの問題であれば。他人が絡んでいれば話は別だ」
「てじゃ」
ピン ポ──────ン
その瞬間に鳴り響いたドアのチャイムの電子音に、条件反射なのだろう。
この人はソファの横に立て掛けてあった鬼剣を取りあげて、瞬間的に身構える。
「大丈夫だから」
私は慌てて、それを身振りで止める。
ピン ポ──────ン
「ウンスヤ、いるのか」
玄関のドアの外からリビングまでの短い廊下を抜けて聞こえてきた声に、私は目を見開く。
そしてソファの前。
どうにか剣を下ろしたこの人が信じられないという目で、立ち尽くしたまま私を見ている。
ドアの外から聞こえてきた男性の声。 ジェウォンオッパの声を聞きながら。
「今は、出たくない」
私はドアに背を向けて、この人に向かって首を振る。
「先に全部、あなたに話したい」
ピン ポ──────ン
ばんばんばんというドアを叩く音が、チャイムの音に重なって響いた。
「ウンスヤ、いるのかウンスヤ!」
その声を聞きながら黒い瞳がどんどん冷たさを増しているのが分かる。
「出て下さい」
「隊長」
「出ろと言っている」
「だって」
その声を聞き終らないうちに、この人は鬼剣をもう一度握り直して玄関へ歩き始めた。
この人にとっては、ほんの数10歩の距離。
私は慌ててその背中を追って、どうにかその背中が玄関に出る前に掴んだ。
「お願い、剣だけは駄目。相手は武士じゃない。この世界では誰も武器なんて持ってない」
懇願するとあなたはドアを睨んだまま、玄関のシューズボックスの上のデコレーションスペースに鬼剣を置いた。
そして次の瞬間その長い腕を伸ばして、がちゃりと音高く玄関のロックを外した。
「ウンスヤ!」
外にいたジェウォンオッパが、開いたドアに声を掛ける。
最初に見たのはきっと私の前に無表情に立つこの人の顔。
この人の影になって、私は碌に見えないはず。
そしてこの人の表情は、背中にいる私には見えない。
ただ背の高いジェウォンオッパの顔だけが見える。
その表情はドアが開いた安心感、次にこの人を見た驚きを浮かべる。
そして最後にオッパは囁くように、不思議な事を言った。
「何故ここに」
さっきまで大きな声を上げてドアまで叩いたとは思えない、低くて、静かな声で。
誰だ、なら分かる。
何故男が、でも分かる。
何故ここに、は意味が通らない。
「どういう意味だ」
言われたこの人も、少し戸惑うように訊ね返す。
まさかジェウォンオッパ。知り合い?
瞬間的に頭を過った馬鹿な質問を自分で笑う。
高麗のチェ・ヨン将軍とジェウォンオッパが顔見知りなら、私だって文定王后あたりとお近づきになれるわよ。
囁いたジェウォンオッパ自身も驚いたように、無言で頭を振っただけだった。
自分でもに毒気を抜かれたのか、オッパはこの人に向かって、もう一度 しっかり目を見て、問い直した。
「ウンスと直接話したいのですが」
その声に私の前の壁のようなこの人の背中が半回転して、ドアと水平になる。
護ってくれる背中をなくした私は、正面からオッパと向き合った。
いつもの穏やかな優しい、心配そうな目が見えた。
「携帯がつながらなくて、病院に連絡したんだ。
そうしたら昨日COEXで騒ぎに巻き込まれたと聞いて」
「そうだったの。心配かけてごめんなさい」
「無事なら良いんだ。ただ」
そこで言葉を切ると、オッパは真っ直ぐにドアを押さえて立ったままのあなたへと目を当てた。
「彼は、誰なんだ?」
今回の言葉は正しい。彼は誰なんだ? 答えなきゃいけない。もう先送りにはできない。
「立ち話できない。入って」
そう言うとこの人も扉から身を翻し、シューズボックスの前にさりげなく立つ。
その広い背中で鬼剣を隠しながら、オッパが玄関を上がった後、音を立てずに剣を持ちあげる。
そしてわざと少し遅れて、リビングまで戻って来る。
その時リビングドアの外に目立たないように剣を立てかけるのを、私は横目で見つけていた。

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ひゃーΣ(゚∀゚)
ヨン恐い((((;゜Д゜)))
わからないでもないけどね!
落ち着いて話あってね(>_<)
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初コメで失礼いたしますが、我慢できず。
続きが、気になりすぎるーー!!
更新、心よりおまちしていますっ!!!
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現代でもヨン、鋭いっ!
男物だと気づいたのですねー(*_*;
そしていよいよのご対面★
はぁ、ドキドキ…ドキドキ…ドキドキ…
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新しい人、登場!
誰でしょう?
って、やっぱり騒ぎになってますね。
ご両親と会えるのかな。
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あぁもう、ハラハラさせられるぅ(>人<;)
でも濡れ髪スウェットのヨンを想像してドキドキしてる自分も居たりして(-。-;
完全にさらんマジックにハマってます☆
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俗に言う・・・・修羅場ってやつでしょうか?さらんちゃん!
「話は別だ」ってヨンア?怖くない?
冷静に冷静に、話せば・・・・・・・・・わか・・るかなぁ?(苦笑)
ウンスも冷静に。愛しているのはただ一人だよ。
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おはようございます。さらん様。
「ヨン頑張って!」←口で負けそう(^_^;)でも剣はダメよんと思いながらドキドキしてます。
スウェットでくつろぐヨンも見てみたい(///∇//)
それどころじゃないのに…
先日限定記事が読めないとお騒がせしてしまいましたが、少し待ってみたら無事復活しました。
本当によかったです!!
お騒がせしてすみませんでした。そしてアドバイスありがとうがざいました!
これからもお話楽しみにしています。
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こんにちは!さらんさま
お風呂からタオルで頭拭き拭き、スェット姿だって かっこいい~♡
あのオッパはあの人ですね、さらんさまのお好きな(^^*) あードキドキしてきました!
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遂に御対面ですね、話が拗れなければ良いのですが、又 次をお待ちしてます。
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もう、ドキドキ心臓が止まりません!!
ハラハラしながらのウンスもそうですが、チェヨンの気持ちを考えると…(|| ゜Д゜)
どうなってしまうのーーー!!!
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ウンスが説明する前に出会ってしまいましたね。
どきどきします。
ヨンは冷静に様子をうかがってますが、心中はいかばかりかと。
この後、ウンスはどのように話すのかとても気になるところです。
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>モモさん
こんばんは❤コメありがとうございます
ううむ、これは斬ろうとしたというよりは、条件反射で
やはり見知らぬ余所の地、剣を離すわけには行かず(゚ー゚;
話し合うのか・・・どうか・・・w
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>テクヨンチョアさん
こんばんは❤初コメありがとうございます
今回はもう、お話の下ができているので
そこに肉を乗っけてくだけなのですが・・・
ええ、明日はちょっとばかり(゚ー゚;
もうしばしお付き合い頂けたら嬉しいです❤
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>★sachi★さん
こんばんは❤コメありがとうございます
この後何とも、書いても驚きの展開になりました。
ああ、まあそうかーでもありますが。
結局この三人は、こんな感じかなーと(゚ー゚;
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>ポチッとなさん
こんばんは❤コメありがとうございます
もう最初に時点でタネ明しされているリク話なので
皆さん誰か知ってる分、どういうふうに繋げて行くかが(゚ー゚;
ぼちぼち終了に向かわないと、これいつまでもずるずる書きそうで・・・長編のお約束ではないので
キリがなくなりそうです(;´▽`A“
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>トマトさん
こんばんは❤コメありがとうございます
濡れ髪スウェットw
ミノ氏のイメージじゃ無いなーと思いつつ、
リク話なのでお許し下さいませ・・・σ(^_^;)
しかしそろそろ終わらせねば・・・本気で焦っています。
【長編】は付けられない・・・!
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>victoryさん
こんばんは❤コメありがとうございます
ウンスは、もう言う気満々ですが。
むしろヨンの方が、退いちゃってますね・・・
そりゃ、時空を超えて追っかけてくればヒくわーです(;^_^A
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>のんこさん
こんばんは❤コメありがとうございます
ああ、よかったです❤
どうなったかなーと心配だったので・・・
あの前後は、他の方のページでもアメンバーページが
見られなかったようなので、システム障害ですかね(;^_^A
お話の方は、もう暫しお付き合い頂けると嬉しいです❤
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>わいやーさん
おはようございます❤コメありがとうございます
そうです、私の好きなw
でもヨン曰く、姿形は違うと。がっくし↓(x_x;)
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>海月さん
おはようございます❤コメありがとうございます
ご対面。相変らずの立ち位置のあの方は、
ウンスを信じ、出て行きました。
もうね…どう書いてもあの方はあの方、って感じでした(;^_^A
一歩が足りないのは、あの方の方では!
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>まりあさん
おはようございます❤コメありがとうございます
ヨンは、不思議な感慨に浸っています。
そりゃあ時代を超えてくればね・・・
でも、それで勢いついちゃってるから、あの方も
罪な事を、というか、結局そう言う立ち位置?というか。
却って可哀想な気もします(ノ_-。)
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>ままちゃんさん
おはようございます❤コメありがとうございます
いやあ、ヨンの場合、これは冷静にならざるを得ず、
変な感慨に浸っていますね・・・
ウンスに問い質すこともなく、己を省みるのみ。
大人設定のヨン、なかなか渋いですw
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さらん様、こんにちは❤
こういうの大好きです(*^_^*)
嫉妬に怒っているヨンも...❤
本編冒頭、占いで運命のひとを探していた様だったので、婚約者がいた設定は考えませんでした。
でも、これはリク話、読み手には嬉しいです。
替えのスウェットを用意していたあたり、使用する機会は無かったみたいですが、婚約者と言う事は、おとなの関係だったんでしょうか?
韓国事情としては、そういうの駄目なのかな?
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>夢夢さん
こんばんは❤コメありがとうございます
この二人に関しては、兄妹ですね。
同じベッドで寝ても、絶対に何も起きない関係だったと思います。
ウンスゆえに、そしてチャン先生の転生故に。
胸が痛みますが・・・(iДi)