2014-15 リクエスト | 瑞雪・4

 

 

「さ、むーーーい!」

王様と王妃媽媽を主殿へお送りし、渡回廊の向こうの殿の部屋に入った途端。
歯の根もあわぬ震え声でこの方は言い、床にぺたりと尻をつく。
確かに唇は先程よりも一層青い。
降り始めた雪に濡れずに済んで何よりと、俺は息をつく。

腕を伸ばし寝台の毛布を剥ぎ取ってその体へぐるりと巻くと、小さい体を腕へ抱き込み摩る。
鎧が邪魔で仕方ない。これでは熱が伝わらんと、それにばかり気を揉みながら。
「大事ないですか」
腕の中、鎧越しにも小さな体の震えを感じる。
「大丈夫だけど寒かった。あなたは大丈夫?」
そう言ってこの頬に当てる小さな手の方が、どれほどか凍えている。

「はああ、あったかい」
俺の頬で暖を取るような仕草に思わず笑う。
「心ゆくまで暖まって下さい」
笑いながら言うとようやく温みを戻した掌を返し、次に氷のような手の甲を頬に当てながらあなたが笑う。
「なんかごめんね、カイロ代わりみたい」
「俺はこうしていれば温かい」
腕の中の体を抱き直して伝えると、血の気を失っていた頬がようやく朱を帯びる。
温みが戻ったか、それとも照れたか。

すぐに行かねばならん。
迂達赤の詰所へ行き、温宮滞在中の予定の詳細を纏め。
歩哨の立位置を決め、役回りの当番を定め、王様の外出時間を途を決め、護衛を決め。
ただ今だけはこの方を温める。他の何をも考えず。
そう思い静かに眸を閉じる。

まっさらだ。まっさらなこの場所で、思い出が出来る。
この方を鎧の腕に抱き、この雪の中、温宮の居室で温めたこと。
こうして新しい場所で、思い出を作っていく。
暗かった思い出も、ひとつひとつ明るい色に染め変えながら。
全て染まればその時は、あの頃の事も静かに思い出せるだろう。

「ねえ、気がついた?」
腕の中、あなたが嬉し気に訊いた。
「何をです」
「王様と媽媽」
「御二人に何か。重要な事ですか、御体調に何か」
「あ、ううん、違う違う」
つい詰問口調になったこの声に首を振りながら、この方はうーーん、と溜息を吐いた。

「何ですか」
「いえいえ、男性は気付かないんだなあと思っただけよ」
「・・・何をおっしゃっているのか」
小さな体を摩りながら首を傾げると、この方は あ、と言った。
「ねえヨンア。せっかくなのに悪いけど」

 

「おっ風呂ーーー!!」
「・・・イムジャ」
騒がないで頂きたい。水音をあまり派手に立てるな。
誰が何処で聞き耳を立てておるやらだ。
武閣氏も、迂達赤も、此度の滞在中は俺たちと同じ殿に部屋を設える。
武閣氏も、迂達赤の詰所も、この殿中に置く事になる。

周囲を大きな岩に囲まれ、その上に目隠し代わりに竹を編んだ高い垣で囲ってはある。
しかしその向こうには声が、音が、全て筒抜けなのだ。
派手な叫び声を上げる、水音を立てるではいろいろと・・・
いろいろと、掻き立てられるではないか、周囲の皆も。

岩へ上がり垣の周囲を見渡し、外より人の出入りの出来ぬ事を確かめた。
宛がわれた部屋の裏扉より直接つながっているからこそ、この方一人での入浴を許したが。
しかしそれは垣越し、屋外の大きな温泉とつながっている。
今の刻、兵は全員役に就いている。暢気に風呂を使う奴はおらぬにしろ。
「問題ないですか」
部屋の扉の内側、ややもすれば怒鳴るような大声で、背を向けた扉の外のあなたへと声を掛ける。
「なーい!」

・・・だから、声を顰めてほしい。
俺が怒鳴るのは構わぬ。あなたの大声は困るのだ。
「では、俺は参ります。本当にお一人で問題ないですか」
「なーい!ヨンアも帰って来たら入るといいわよ。すっごく気持ちいい!」
それは何よりだ。芯まで冷えていた体も暖まろう。だから声を顰めてほしい。
「判りました、すぐに戻ります」
居室を出ながら、心に決める。
迂達赤の居室は一纏めにし、殿の逆側にせねば。
そしてどいつも、あの垣越しの温泉を使う前には一声掛けさせねば。

 

「媽媽と王様の脈診を」
主殿の王様と媽媽のお部屋の前に立ち、入室をお願いする。
扉の横の迂達赤と武閣氏のお姉さんがそれぞれ、私を見てぺこんと頭を下げる。
そしてお部屋に向かい
「医仙がいらっしゃいました」

その声に扉はすぐに開かれ、中からドチさんが顔を覗かせる。
「こんにちは、お昼の脈診です」
「畏まりました」
ドチさんの声と同時に、扉は大きく開かれる。
中に入ると媽媽は王様と共に、差し向かいで卓に腰掛け、横にはチェ尚宮の叔母様が控えている。
「王様、媽媽、もう温泉はお使いになりましたか?」
「いえ、まだです。医仙はお使いですか」
媽媽がおっしゃいながら首を振る。

「ええ、いいですよ。この辺りの温泉は天界でも有名です。
この頃からあったんですねー。皮膚にも良いし、成人病にも良いです。
お2人にはどちらも症状はないですが、リラックスできますよ」
世間話で和んで頂きつつ、まずは王様の脈を拝見する。
うんうん、昨日よりは楽そう。
今日は一緒にお部屋に入れて頂いた薬員に昨日と同じ薬湯をお願いして、次に媽媽を診脈する。

ああ、いいな。ちゃんとゆっくり、しっかり落ち着いた脈。
詰まりもせず、途切れもせず。深すぎも浅すぎもしない。
「突然ですが、叔母様」
媽媽の手首を離してお袖を直し、私は媽媽の横の叔母様に声を掛ける。
「はい、医仙」
叔母様が私に目を当てる。
「ここの、王様のお風呂は内風呂ですか?」
「うち、風呂とは」
あれ?この時代はそう言わないの?
「えーーっと、建物の中にありますか?それとも外?」
「主殿の温泉は、どちらも用意がございます。外のものには無論、屋根と垣がついてはおりますが」
「そこ、ちょっとだけ見てもいいですか?」
「・・・は?」

私の突然のお願いに、叔母様は目を丸くして媽媽を見遣る。
「構わぬ、お見せせよ」
媽媽が笑って頷くと、叔母様は仕方ないというように息を吐き
「こちらです」
と先に立ってお部屋を横切り、裏扉へと案内してくれる。

裏扉を開けると、まず内風呂。
浴室は排水もしっかりしてるし、外の風が入るような隙間もない。
温泉の湯気が室内にほわほわ充満してあたたかい。これなら風邪をひく心配もないわね。
私は失礼して、浴槽にそっと指を入れて湯温を確かめる。
うんうん、45度ってとこかな。ちょっと熱い。

その先に伸びるもう1つの扉を、叔母様が指差す。
「この先に、もう一つ温泉がございます」
「そっちも見ていいですか?」
「はい」

叔母様は先に立ちその扉を開ける。途端に吹きつける雪交じりの風。
うわあ、やっぱり寒いわ。このヒートショックは心配ね。
まだお若い王様と媽媽だから、大丈夫だとは思うけど。

でも、外の温泉の方が温度がいい。多分40度ちょっとくらい。
外気が冷たくても、ゆっくりつかるならこっちね。
東屋みたいに屋根で覆われて、周囲にはしっかりした垣根も立ってる。

「ありがとうございました」
私は叔母様に頭を下げて、部屋へ戻る。
「いかがでした、医仙」
戻った私に、媽媽が聞いて下さる。

「先に内風呂で御用を済ませて、少しあったまって、外の温泉でのんびりして。
お部屋に戻る前に内風呂で肩までしっかりあったまるのが、一番いいかと思います。
でも慣れないうちは逆上せたり湯あたりするといけないので、少しずつ時間を伸ばしてくださいね。
本当なら入浴前に茶碗1杯、入浴中も室温くらいのお水を持って行って、飲みながら入るといいんです。
で、入浴後にもう1杯。
1回の入浴でだいたい800mlくらい汗をかくので、そのままにしておくと血がドロドロになっちゃいますから。
あ、でもお酒は逆効果ですから、あくまでお水で」

勢い込んでそこまで話した後、私は声を顰めて媽媽にお伝えした。
「お2人ともお時間があるなら、ご一緒に入るのもいいですよ。
1人で入るとどうしても退屈だし、お相手がどうしてるか気になって早風呂になっちゃいますから。
ゆっくりあったまるなら、のんびり話でもしながら、お2人で入るといいんです。
湯帷子を着てれば、問題ないですよね?」

私の提案に、媽媽は顔を赤くして小さく頷かれた。
いざとなればソッチマやソッチョゴリやパジでも麻か絹だから、湯浴み着代わりの素材としても問題ないだろうし。
要はゆっくり入って体があったまって、リラックス出来ればそれで当初の目的は達成よ、うん。

面会は時間制にした、お2人の時間を作って頂く、お風呂は確認した。
後はのんびりするにしても、お外に出るにしても。
「あとは、お好きな事をしてお過ごしください。一緒にご飯を召し上がって、ゆっくりされて。
お外に出る時はお2人きりってわけには行かないかもしれませんが、その時はダブルデートしましょう!」

私の声に、媽媽が不思議そうに首を捻ってこちらを見る。
「だぶる、でーと」
「あ、そうです。王様と媽媽、あの人と私、2組のカップルで一緒にお出かけするのを、ダブルデートって。
ここにいる間はダブルデートですね、お邪魔かもしれませんが」
「邪魔などとんでもない。楽しみです」

媽媽は本当に嬉しげに王様を見て、そして私を見て、珍しく声を立ててうふふとお笑いになった。
「そうではございませんか、王様」
「そうだな」

王様は嬉しそうな媽媽のご様子に目を細めて頷きおっしゃった。そして私を振り返り
「大護軍と医仙には面倒かもしれぬが、ここにおる間外出の供を頼むことも多かろう」
「構いません、楽しみです。開京ではなかなかできませんから」
私の声に、お2人が微笑んで頷いた。

 

 

 

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23 件のコメント

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    いかん、いかん、さらんさん!
    あいも変わらずニヤニヤが・・・(^^;
    そして、ダブルデートぉぉぉっ!!
    うふー♪ キーワード出現!!
    ワンビママも楽しそうで嬉しい~^^

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    ダブルデート❗️幸せそうで暖かそうで羨ましいですね~。
    何事もなく今回は甘い四方を観ていたいです。ヨンとウンスの甘いやりとり楽しみにしています。
    いつもありがとうございます。

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    医者として しっかりお仕事してますが…
    何故だろう 着々と ウンスの
    思惑通りになってる?
    ムフフ( ´艸`)顏が見える…
    やっぱり ウンスが寒がってると
    先にも後にも暖めちゃう!
    お役目なかったら くっ付いてる…ず~と。 

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    うふふ、だぶるでえと、いいですわね。
    温泉もあるし、王様カップル・ヨンカップルの幸せなひと時、あたたかいです。(^^)

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    めでたい予兆の雪?‥瑞雪って言うんですね
    勉強になるわ~
    一時でも、お二人でのんびり、過ごして頂きたい、そして、お二人のもとに鸛さんが来てくれたらなお嬉しいけれど(^^)
    お話を読んでると温泉に行きたくなりますねぇ
    ウンス同様、寒いのは苦手だけど、冬の温泉、雪景色は(o^-')b !
    勿論食事も( *´艸`)

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    さらんさん! いよいよウンスが温泉に入れましたね!
    (≧∇≦)
    朝から、ほんわか笑顔になれるお話をありがとうございます。
    相も変わらず、ヨンは優しいなあ~。
    さらんさんの描くヨンは、本当に優しくてステキ…❤︎
    目は口ほどにモノを言う…と言いますが、無口だけれど、きちんと態度や行動で愛する人を護っているヨンが、さらんさんのお話の中で生き生きと描かれていて、うっとりします。
    近々、ウンスと二人で温泉に入れるのでしょうか。
    美味しいご馳走も食べられる?
    ウンスのきびきびとしたアドバイスもかっこいい…。
    さらんさん、また今夜、ここでお目にかかれるのを楽しみにしていますね。
    お風邪をひかれませんように❤︎

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    さらん 様
    こんばんは(*^ー^)ノ♪
    えーっと
    大護軍様(;゜∀゜)
    垣根越しに繋がっているとはいえ、あなた様の大切な女人の入浴姿を覗こう。
    なんて、命知らずは高麗中探してもおりませんですよ( ・∇・)
    ええ、間違いありません。
    ああ、成る程。
    入浴中の気配を感じ取られるのもお嫌であると。
    成る程。
    水音すらも聞かせらぬと。
    はいはい。
    分かりました。
    もう、好きに心配しちゃってくださいませ
    (^w^)

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    心も身体もポカポカしてきますね?
    さらんちゃん この2日間私は
    タブレットを肌身離さず・・・花男観てました!
    なのでPCから離れて今さらんちゃんとこへ
    やってきたら・・・なんと4話もΣ(~∀~||;)
    完全出遅れ・・・でも一気読みも良いですね(笑)
    外は凍てつく寒さでも王様と王妃様
    ヨンアとウンス4人の心は温かだと嬉しい。
    ダブルデート私は凄く好きでした^^
    気心の知れた友人とお互いの相手を
    褒めながら、どことなく彼自慢しながらの
    おしゃべりが楽しかったなぁ(遠い目)
    今日は本当に寒い!
    さらんちゃんもどうぞ風邪などに気をつけて
    まだまだ巷はインフル残ってますから(^O^)/

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    ほんわかムードが漂って、暖かな湯けむりさえ感じます。
    男の人って、分からないんですね。まあ、すぐ察せられても恥ずかしいと思うのですが(笑)それもヨンらしいです。
    鎧を付けたままでもウンスを温めてあげたい。自分の頬でも暖が取れるのなら自分の熱を全て与えようというに甘い雰囲気を感じました。
    今宵は王と王妃はしっぽりと混浴でしょうか。
    ダブルデート。楽しみですね。

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    >★sachi★さん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    ふふふー、大護軍も嬉しはずかし温泉旅行です。
    なかなかWデートにならないところが、自分の経験のなさを
    露呈していますが・・・爆
    もう暫し、続きます❤

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    >のりちゃんさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    甘いかなー?どうでしょう。
    医仙もプロとして随行しているし、ヨンに至っては
    役目大事が度を越しているのか、照れてるのか( ´艸`)
    頑張って、甘々させます❤

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    >くるくるしなもんさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    そうなんですよね・・・
    役目がなかったら、くっついてますw
    たださすがに、ウンス程割り切れないようで・・・
    先日惜しまれつつ亡くなった偉大な俳優さんの有名な一言
    「自分、不器用ですので」
    が、頭を過ります…ヨンも、たいがい不器用ですので…

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    >pivoine22さん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    温泉、行きたいなー。
    書いてて行きたくなってきました。
    この間、近くまでは行ったのですが、入浴には至らず。
    それで尚更、これを書きたくなったのかもw

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    >えみりんさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    私は寒さはわりと平気なのですが、あったかい温泉に浸かりながらの雪が
    どうもヒートショックを起こしそうで・・・σ(^_^;)
    食事は旅の醍醐味ですね❤ああ、旅行に行きたくなってきた(除:出張)!

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    >muuさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    半ばウンスに押し切られ、初の混浴wも体験したヨンですが・・・(爆)
    ウンスは多分、ヨンよりON/OFFの切り替えが上手で
    遊ぶ時と、お仕事の時、しっかり分けられそうです。
    まあ、護衛なんてそのON/OFFがなくて当然、というような
    職務だとは思いますが(;^_^A
    今日は晴れています@横浜
    muuさまも、体調を崩されませんように・・・❤

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    >まろんさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    ヨンたちも大勢の皆に守られていますが、
    このやんごとなき御二人にも、大勢の守りが。
    幸せになって頂きたいなー…と思います❤

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    >まりあさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    今回は、何事もなく静かに・・・❤
    でないとまたしても、どえらく長編に(爆

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    >mamachanさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    嗚呼、その呟きこそまさに書きながら私が呟いた
    それそのままの呟きでした(爆
    もうさー、いいから。勝手にしていいから。と。
    この後は、ヨンの制裁、有るや無しやww

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    >victoryさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    おおお、花男一気観とは!
    いいんです、たとえこれでジフ先輩が好き、となっても・・・w
    あの楽しさをvictoryさまに知って頂けただけで!
    ヨンの方は、温泉でのんびりですw
    ジュンピョの華麗さはありませんが、こちらは野生の大人の魅力(え
    やはり無敗の完全帝王、チェ・ヨンです。

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    PASS:
    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    さすがに媽媽と王様の混浴は書けませんでしたが、
    ウンスがお風呂の温度まで確かめて細かく指示を出したので
    きっと…(〃∇〃)キャ❤
    ヨンの場合はもう、はいはいそうですね(棒読み)的なw

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