2014-15 リクエスト | 瑞雪・6

 

 

滞在の2日目、雪の中を出掛けて媽媽がくしゃみをした時はちょっと心配になったけど。
戻って来て脈診しても乱れもないし、風邪をひいたご様子もない。

驚いたのはその時の、媽媽と王様の仲の良さ。
皇宮の中では媽媽の襟巻を直したりできないだろうし、媽媽もそうされるために歩み寄ったりできないだろうし。
考えると辛くなる。どうにかならないかなって思う。
でもさすがに、皇宮の中でも面会時間を決めるのは、私の権限でどうにかなるものじゃないわよね。

媽媽はこの2日で驚くくらいお肌がピカピカになった。
よく美容雑誌に内側から輝くって載ってるけど、ピーリングやレーザーや注射でどうこうじゃない。
きっと温泉の効果も、王様と過ごしていらっしゃる効果も、どっちも出てるんだろうなと思う。女性だものね。

脈診を終えて部屋に戻ると、あの人は珍しく部屋で本を読んでた。
扉を入る私に振り向いて笑って
「王妃媽媽は」
そう言って席を立つ。
「うん、大丈夫」
答える私に頷くと
「何よりです。詰所に顔を出して参ります」
それだけ言って、部屋を出て行こうとする。
「え、そうなの?」
「ええ、特に何もなくばすぐ戻ります」

うーん。むしろいつも一緒にいられないのは私たちの方かもね。そんな風にちょっと思いながら
「分かった、行ってらっしゃい」
笑って手を振って、その背中を見送る。

 

今日拝見した王様と王妃媽媽のご様子には安堵した。
迂達赤からも特に異常や警備の不備は報告されていない。
抜き打ちで歩哨の配置を確認しに回っても、問題は見当たらん。
離宮の為、非番の迂達赤が鍛錬に使用できる開けた場所はない。

温宮に到着して一日半、ほぼする事がないまま長閑に過ごしている。

あまり頻繁に王様へのご拝謁はしたくない。
チュンソクたちからの報告は信用している。
何より己が常日頃から伝えているのだ。刻が空けば体を鍛えるか、休めるかしろと。

臨時の詰所に足を向けながら思う。
ならばあと二日半、このままゆるりと過ごすか。
いつまた役目に忙殺されるかもしれぬ。
ならばあの方の望み通り共に長閑に過ごすとするか。

「大護軍」
「変わりないか」
詰所に顔を出した俺を見つけ、チュンソクが駆けてくる。
「ありません。何かあれば必ずお伝えします。それまでは休んで下さい」
そう言って
「せっかくの温宮なのですから、どうか長閑に。
でなければ他の兵も温泉に浸かるどころではありません。
大護軍が役目に立っておられるのにと」

確かにな。チュンソクの言葉に頷いて
「そうする」
部屋で目を通していた、手にした書物をチュンソクへと渡す。
「過去の温宮での警備配置の軍議記録だ。
暇があれば読んでおけ。あと二日半残っている」
チュンソクは頷くと、その書物を手に取った。
俺はそのまま詰所を出る。

 

大護軍は、突然降って湧いた暇を持て余している。そう思いながら息を吐いた。
頻繁に周囲を確認し、臨時の詰所へ顔を出し、俺やトクマンを質問攻めにする。
テマンに聞けば、温泉をお使いの様子もないという。
のんびりされれば良いのに。あの頃の寝太郎ぶりが嘘のようだ。

他の兵も大護軍に配慮し、なかなか休めずにいる。
書物を書庫から引張り出す刻があるなら、ゆっくり休んで頂いた方が良い。
俺は大護軍から預かった記録簿を手に、その表紙を眺めた。

 

「戻りました」
声を掛けつつ居室へと踏み入ればあの方が振り返り
「お帰り、ほんとに早かったのね」
此方へ足を運びつつ驚いたように言って、俺の頬へと手を当てる。
目を覗き込み、脈を見て
「うん、大丈夫。もうのんびりできるんでしょ」
その声に頷き、
「そうするしかなさそうです。チュンソクにも、俺が動くと他の兵が休めぬと小言をもらったので。
風呂にでも入ります」

そう言って、先般この方に渡された湯浴み着を手に取る。
嬉しげに頷いたこの方の次の言葉は予想が付く。
「私も!」
そう言ってあの足を晒す、恐ろしく短い湯浴み着を手に取る姿に、仕方ない、と俺は諦めて笑った。

衣をつけて下さるだけましと思おう。

 

「お留守かな」
俺は扉を叩く手を休め、首を傾げた。
共にいる非番の他の迂達赤の奴らも頷く。
「お出かけになったんじゃないか」
「そうかな」

大きな外湯を使う前には、声を掛けろ。
ここに到着した初日に大護軍にそう言われ、声を掛けに来たが。
先刻からいくら扉を叩いても、返答がない。
医仙と共にいたらと考え、遠慮してうんと小さく叩いたせいか。
しかし返答がなければ仕方ないなと、俺は首を振る。
「お留守なら仕方ない。入ろうぜ」

湯浴み着を着ているせいか。
この方はのびのびと湯の中で手足を伸ばし、時折爪先で湯を蹴ったり、俺に向かって手で掬って跳ね飛ばしたり。
そんな幼子の川遊びのような様子を眺めて笑う。
「気持ちいいわ」
「ええ」
「今日は、さすがにあなたも気づいた?」
「王様のご様子ですか」
「うん」

その問いに頷いた。
御顔の血色も良く、王妃媽媽と居られる際の楽しげな御様子に安堵したのは本当だ。
「ああやっているだけで、お幸せそうよね」
「ええ」
確かにこの束の間で王妃媽媽とのご関係は、より一層親密さを増されたご様子。
王妃媽媽の着衣を御自ら整えられ手套を渡された御姿。
それは畏れ多くも我ら市井の男と変わらぬ、細やかな情に溢れていらっしゃる。

だからこそ思う。
国と国とを結んだその婚姻の、複雑さの一端が分かるからこそ。
あの元より戻る折、御二人の冷え切ったご様子を知るからこそ。
その中で御二人がどれ程の困難を超え絆を結ばれたかを。その道程を。

「ずっと仲良く暮らすのよ、王様と媽媽は」
この方は湯に浸かったまま、静かに頷く。
此方に聞かせるというより、自らに言い聞かせる様に。
「そのためにも、私は高麗で医術を学んでるはずなんだもん」
「そうなのですか」
「うん、それも理由の1つ、だと思いたいな」

その不思議な声に首を傾げる。
この方だけが知る天の記録簿があるのだろう。
俺は頷いて、湯の中のこの方の手を握る。

公州の瑞雪は、まだ空よりひらひらと落ちてくる。

 

 

 

 

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22 件のコメント

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    湯浴み着なんて、脱いじまえっ!って思うのはきっと私だけじゃないはず(笑)
    私は、湯浴み着を着ないとヨンの前には出られませんけど(T_T)(笑)
    王妃ママもお肌スベスベ♪
    チュナもきっとご満足ですね~♡
    もう暫し、4人の様子を楽しませていただきます(*^^)v

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    今日も朝からニヤけてます(σ≧▽≦)σ
    読む前から「今回は何やらかすかな?ウンスさん」と、つい期待してしまう私です。まだ温泉ですから、この後いよいよ外出するのかな?ますます目が離せません♪
    いつも思う事ですが、さらん様のお話はどれも情景描写が素敵で、その世界感がとても好きです♥ 今話の
    『時折爪先で湯を蹴ったり…』とか、うわ~そこまで描いて下さってありがとうございます!って感じです。個人的に毎回必ずツボが有って、もう一種の中毒です(*^^*ゞ
    続き楽しみにしてます♥

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    何やら露天風呂で何か起こりそうな感じでしょうか?
    ウダルチが外湯に入るお伺いに行ったけど、ウンスたちは入浴中…何か起こる予感が(≧∇≦)

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    さらん 様
    こんにちは(^∇^)
    鍛練する場所が無いのに、死なぬ程度の鍛練をやりたくなるような展開に一人でニヤリとしています(-_☆)
    そうよね。
    大切なウンスの入浴中は部屋に居る予定だったのよね。
    混浴しちゃうなんて夢にも思わず(ノ´▽`)ノ
    でもね。
    今回だけはお伝えするわ。
    トクマニは遠慮がちではあるけれど、扉も叩いて入浴の連絡に来てるのよ~~~
    湯船で雷功は使えませんことよ∑(-x-;)
    あれΣ(・ω・;|||
    トクマニで良かったかしら?

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    さらんさん、今朝も心がホカホカするような、素敵なお話をありがとうございます。
    堅物で真面目なヨンも、ようやくのんびりする覚悟を決めましたね~(≧∇≦)
    重要なポストという立場や、これまでの厳しい体験が、今の彼をつくってきたのかもしれませんが、さらんさんのおっしゃるようにスイッチをOFFに切り替えさせてあげたいものです。
    今回の温泉物語、二人の良い思い出になるでしょうし、ヨンにとってはウンスが同行したことでON/OFFの切り替えを覚えるきっかけにもなるでしょうか?
    さらんさん、今日はいくぶん暖かいですね。
    美味しいランチをはさみつつ、お仕事頑張ってくださいね!❤︎

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    普段からヨンは気を張り詰めて忙しく任務に当たっているだろうから,する事が無くなると手持ち無沙汰なんでしょうね。
    ドラマ本編でも,ウロウロして次に何をすれば?みたいなシーンあったし( ´艸`)
    この時代の温泉って湯浴み着を着るんですね。
    それは混浴だからかな?
    最初にヨンが1人で入った時は着て無かったみたいですもんね。
    ヨンは最初抵抗していたから,夫婦でも一緒に入るのは考えられない時代なのかな~
    お屋敷のお風呂はどうなんだろ。
    仲の良い夫婦は天界では一緒に入るのよ~なんてウンスは言って,背中を流してあげそうです(笑)
    迂達赤達が入って来ましたが,隣の浴場なのかしら?
    もしかして,ウンスとヨンの会話が聞こえちゃう?(〃∇〃)
    次はほっこりWデートかな。
    又楽しみにしています♪

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    ほんのちょっと出て行っただけでも戻ったら体調チェックするのですね。ウンス慎重だー。
    混浴慣れてまいりました。慣れてまいりましたら余裕がでてきて何かウンスに対して行動しないのですかチェ・ヨンさん。
    おかしいなー、正常な男ならあれやこれや…
    はい、すみません!

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    折角共に旅に出ているのに、なかなかお役目から引き揚げてくれないヨンでしたが、周りの後押しにやっとウンスとの時間を持ってくれたようで良かったです。
    ウンスは今でも、自分がこの高麗に生きる理由を一つでも多く見つけたいのですね。
    そんなウンスを見てヨンは何を思うのでしょう。
    あと2日、ゆったりとした二人だけの時間を過ごすことが少しでも長くありますように。

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    いつも楽しく拝見してます。前回は大人の胸が苦しく辛いお話でしたが(でも凄く良かったです)今回はまた全然違うもので…改めて、さらんさんの凄さを感じてます。これからも、色々なヨンとウンスに会わせてくださいませ。andお体にはお気をつけくださいね。

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    >くるくるしなもんさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    いやーな予感wこんな感じでした。
    取りあえず、トクマンは悪くないと思います。
    すまんね・・・トクマン氏・・・

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    >★sachi★さん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    湯浴み着は、脱いじまえ…ですか…w
    皆さまやはり考える事は同じです( ´艸`)
    まあ、あの頑固で堅物なヨンが脱ぐとは思えませんがw

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    >ユーちゃんさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    あははは、ありがとうございます。
    そう言う中毒もアリなのでしょうか(●´ω`●)ゞ
    これからもツボを探して頂けるよう頑張ります❤

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    >ツマ吉さん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    今回は、哀れなトクマンの動画でも張ろうかと思いましたが
    哀れすぎて、止めましたw
    トクマン、みあなだー!

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    >まろんさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    此度は目から火花がwトクマン、でも一応は
    断りにも行ってるわけで・・・可哀想すぎる・・・
    トクマニ、そしてトクマンぺんの皆さま、みあなだです。

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    >mamachanさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    ええ、もうこれは、完全にお前が悪い!と
    ヨンに突っ込んでやりたくなりましたw
    八つ当たりですw自分がいろいろできないからって
    男のヒステリーっていやーね。ってやつですヽ(;´Д`)ノ
    そうです。トクマンくんです。

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    >muuさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    今日は午前明けのフレックス、午後から2.5連休でウキウキです❤
    週末の遊びに備え、今からお話練り&格納。
    しかし最近動画作りに目覚めてしまい・・・
    時間はないわ、観たいDVDは溜まるわ、本は溜まるわ
    仕事は年度末控えて恐ろしいことになってるわ…
    こうして忙殺され、書き手は岐路に立つのだなと
    嫌な実感がしみじみ押し寄せるさらんです(°д°;)
    最後は若干、真面目で堅物なヨンも変わりました。
    ただこの人の場合、変わるまで「歩みが遅くて」
    そこをすっ飛ばすわけにいかない私としては、
    無為に話が長くなるという悪い癖が・・・(-"-;A
    最終話もお読み頂けると嬉しいです。

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    >すんすんさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    結局碌にダブルデートが駆けぬままお話は終わりました(爆
    偏に書き手に経験がないが故に・・・
    だぶるでーとって、何をするのでしょう?
    それを知るのが、まず重要だったのに
    私の周囲にも、よく判る人がおらず(爆
    うりそんべ、皆さま肉食。
    最終話まで、ヨンで頂ければ嬉しいです❤

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    >あみいさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    あ、これは多分ヨンとウンスがすれ違っちゃったので、
    ようやく二人で一緒になれた時点での脈診です。
    いやー、我が家のヨンは「歩みが遅くて」
    自覚が出るまで、すこーし時間がかかるのです( ´艸`)
    此度は手を握りました。いっぱいいっぱいー!かもしれませんw

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ままちゃんさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    生きる意味や目的は、常に探すもの。
    暗いものも含めて思い出は、常に抱くもの。
    リク話とはいえそのあたりは変わらず、人生哲学恐るべしです…
    最後はゆったり、風呂の中。ヨンもいろいろ考えたようです。
    紡がれる思い出のその先も。
    明るい未来を描いているようで、たえぎだー!

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    PASS:
    >ヒロさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    いろいろなヨンとウンス、これがまたw
    前回のソンジンに悩まされ、少しばかり息抜きに走りましたが・・・
    凄いなどと言って頂くと身に余りますが、廃人の自覚はありありということでw
    ヒロさまも暫しの季節の変わり目、ご自愛くださいませ❤
    そして最終話もヨンで頂けると嬉しいです(*v.v)。

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