2016 再開祭 | 紫蘭・結 前篇

 

 

ノックもなしに大きな音で開いた扉。
驚いて振り向いて、そこに立ってる顔を確かめた瞬間
「どうしたの?!」

息を弾ませて立ってるあなたに駆け寄って、その額に当てようと伸ばした手がそっと掴まれる。
拒否されたのか心配で顔を覗き込むと、あなたの黒い真剣な瞳がじっとこっちを見て、低い声が尋ねた。

「何を隠しておるのです」

お昼に来なかったから、何があったのかって思ったら。
「隠してなんかいないわよ、なんにも」
安心させるように笑って椅子に戻ろうとする私の手は、それでも放してもらえなかった。

「イムジャ」
あなたは私の手を掴んだまま、小さく呼んだ。
「隠さずに」
「隠してなんてないってば。どうしたの?」
私の言い訳にじれったそうに、あなたが唇を噛み締める。
「嘘は結構」
「だから、嘘なんて」
「何故王妃媽媽が泣かれるのです。何故王様があれを御存知なのですか」

乱暴に掴まれてるわけじゃない。 だけどあなたは私を離さない。
そのまままっすぐにそう聞かれて、私の方が頭が混乱してしまう。
「待って、ヨンア。媽媽が泣かれたって、どういう事?王様が何を知ってるの?」
「そんな事より」

ようやく逃げないって分かったんだろう。
あなたの大きな手が私から離れると、その指先が大きなフレームを作って、顔の前で構えた。
「憶えておられますか」
「・・・それはね、ヨンア」
「かめらですね」
「知ってたの?」

そこから覗く黒い瞳に問い掛けると、指のフレームが下ろされる。
フレーム越しじゃないあなたの瞳が強い決意を映して光っていた。
「あの時、何を隠していたのか。今何を隠しているのか。
何故王妃媽媽が泣かれたのか。何故王様が御存知なのか。
教えてくれ」

察しがついてる様子のあなたに言われて、次は私が唇を噛む番。
だって、どうやって説明すればいいの?
ないない言うのは好きじゃない。それこそ私が、あなたと出逢って学んだ一番大切なこと。
カメラも何もなくていい。もう二度と、オンマにもアッパにも、友達にも会えなくても、あなたがいれば生きて行ける。
ウエディングフォトがない分、あの日の思い出は胸に焼き付けた。そう思ってる気持ちに嘘なんてない。

カメラに残せないあなたの笑顔を一生そばで見続けたいから、私はこうやって戻って来たんだもの。

誰だって選んでる。生きてく道はいつだって目の前で左右に分かれてる。
そしてどっちの道を選んだって、求める全てを手に入れる事は出来ない。

右を選ぶなら左の道にあった全てを。
左を選ぶなら右の道にあった全てを。
そしてそれが何だったのかも、きっと一生知る事なんて出来ない。

だからその時の精一杯の決断を。後悔だけはしない道を。
逆の道に何があっても、それ以上に幸せになれる道を選ぶ。
その分かれ道をたくさん経験して、今あなたとここにいる。
それが私の幸せで、後悔はしていない。きっとこれからも。

ただ、あなたと2人の姿が残せれば・・・いつかあなたと私に家族が増えた時、その子に見せてあげられると思った。
あなたをどれだけ愛しているか、私がどれだけ幸せなのか、口だけじゃなく、見せてあげられればと思っただけ。

あの時もう逢えないかもと、祈るように切ったシャッターと違う。
今の私が残したいのは、これから積み重なっていく思い出の形。
それをきちんと伝えられる自信がなくて、困った顔であなたの瞳をじっと見る。

あなたはそんな目で見られてもっと戸惑ったように瞬きしながら、黙って私を見つめ返した。

 

*****

 

「では・・・」

話の後、少しだけ安心したみたいにやっと少し浮かんだ笑顔。
最初に部屋に入って来た時は怖い顔だったから心配したけど。

「かめら、で残す姿はしゃしん」
「うん」
「それは・・・大切な、忘れたくない笑顔や思い出」

それだけじゃないわ、思わずそんなムードぶち壊しな余計な一言が飛び出しそうになるのをグッとこらえて、私は頷いた。
「うん。私はいつだって、あなたの事を忘れたくないもの。データで保管しておくと、好きな時に見ることが出来る。
紙に描いた絵みたいに変色したり、劣化したりしない」
「すまほ、やぱそこん、で」
「やっぱり私の旦那様は天才だわ。そう、その通り!」

そのほめ言葉に、あなたが複雑な顔をする。
「では、王妃媽媽が泣かれたというのは」
「・・・それは、私にも分らないけど・・・」

もしかしたら、媽媽は描き直したいのかもしれない。
あの時拝見した、王様と少しだけ隙間の空いた御婚儀の時の絵を。
「あのね、ヨンア」
「はい」
考え込んでたあなたは、私の声に視線を上げた。

「結婚式を挙げた後もね、天界ではいろんな記念日があるの」
「記念」
「うん。1年目が紙婚式、2年目が綿婚式、3年目が革婚式・・・って」

首を傾げるあなたに向かって
「それでね、これはする人も、しない人もいるんだけど。なかには記念日のたびに、記念日の思い出にってウエディング写真を撮り直すカッ・・・えーっと、旦那さんと奥さんもいるの」
そう言った瞬間、あなたはギョッとした表情を浮かべる。

「イムジャ」
「なあに?」
「その度に、まさかあの婚儀衣装を」
「そうよー。もちろん全員じゃないけど、中にはそんな人たちも」
「したいのですか」
「え?」
「再びあれを・・・」

あなたのギョッとした顔の理由が分かって、私は思わず笑いだす。何度でもあなたと結婚式を挙げ直すのは大歓迎だけど、それより。
「ううん、そうじゃなくて」
私が首を振ってみせると、とたんにホッとした顔をされてしまう。
「そんなにイヤなの?」

私が思わずほっぺを膨らませかけると、大好きな手のひらが膨らむより早くそれを包んだ。
「はい」
そう言って困ったみたいに眉を寄せて。
「厭です」
「そんなハッキリ言わなくたって・・・」
「生涯一度。二度はない」
「そんなつもりじゃないわよ、それに今回は写真と絵のことで」
「尚更です。絵師があなたを見る」

分かってないのはあなたの方よ。
ほっぺを包まれたまま、嬉しくてもう一度笑ってしまう。
私がもしカメラを持ってたら、絶対に今のあなたを写してる。
悔しそうに結んだ唇。うっかり口にしちゃった告白に困ってるみたいな、あなたの一瞬の表情を。

いつまでそんな風にヤキモチ妬いてくれるか分からないもの。
いつかあなたが私が何をしても無関心になったら、きっと懐かしく思い出す。
そしてあなたに見せるわ。ほら、あの頃はこんな風に妬いてくれたのにって。

「そうじゃない。私たちじゃないのよ、ヨンア」
ほっぺを包まれたまま笑って首を振ると、温かい大きな手の平が離れた。

 

 

 

 

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