2016 再開祭 | 紫蘭・結 中篇

 

 

今日二度目にご拝謁を願い出た康安殿の大卓。
王様は怪訝な御顔で、玉座から並ぶ俺達をご覧になった。

横に朝の歩哨のチュンソクの姿はなく、代わりにチョモが立ってお守りしていた。
そして内官長は再度の御拝謁の意味が判らぬという顔で、俺達を不思議そうに見ている。

そんな中、この方だけがいつもと変わらず明るく言った。
「お久しぶりです、王様。キム先生とはご体調についてカン・・・えぇと、いつでも話し合って万全の体制は取ってますが、お元気そうで安心しました!」

この方はいつもそうだ。王様の御前では何故か必要以上に活き活きとした顔をする。
今も俺の横、満面の笑みで無遠慮な程に王様を拝見している。例え視診が医官の役目とはいえ。
「・・・医仙」

少し控えろとは言えずに呼ぶが、この方は俺の声など何処吹く風と右から左へ聞き流し、王様に向けて笑み掛けた。
「媽媽とはいつもお会いできますが、王様のお顔を拝見するのがお久しぶりで。御顔色もいいし、とってもお元気そうです」
「医仙にそう言って頂けるとは、何より嬉しい事だ」

宮中は医女が、そして王様は侍医が。
この不文律が在る限り、医仙とはいえ王様に御目に掛かる事はそう多くはない。
それで良い。この方の粗相に肝を冷やす必要がない。
何より王様を通じ、この方を余計な重臣らの目に触れさせずに済む。

そんな些細な事で一喜一憂する俺を御存知なのかそうでないのか。
王様は不思議そうに此方をご覧になった。
「大護軍とはつい先刻会ったが、お聞き及びであろうか」
「はい。それでこうして、無理を承知で伺ったんです」
「確かに次回はお二人で、とは申し伝えたが・・・」

先刻頂いたもののまだこの方には伝えていないその御声。
この方が不思議そうに俺を見詰め、そして王様の御声にからかうような響きが加わる。
「成程。それを口実に、医仙を見せびらかしにでも参ったか」
「・・・王様」

とんでもない事だと、俺は小さく顎を振る。
そんな事をする訳がない。
例え相手が天上の方とて、出来るならこの方を隠しておきたい気持ちは変わらない。
十重二十重に立てた絹衝立の奥に、十重二十重に閉めた扉の裏に。
二重三重の守りの一番後に隠して、誰の目からも護りたい。

それをお判りの王様は明るく軽い笑い声を立て、俺に向け頷くと
「判っておる、大護軍。冗談だ。そう渋い顔をするでない」
と、鷹揚におっしゃった。

それでもこうして日に二度もお願いしたご拝謁を訝しむよう
「しかし、それなら・・・」
続けた王様のお声に、この方だけが明るくご返答した。
「王様に、お願いがあって来たんです」

 

*****

 

「・・・王様、もう半歩、王妃媽媽との間を」

絵師の声に御口元に拳を当て、小さく咳払いをされた王様が
「絵師は在るがままを描け」
ご機嫌を損ねたようなお声でおっしゃった。

そのたった一言の御声で絵師は見るも無残な程に恐縮し
「も、申し訳ございませぬ、御無礼を」
と、震える指先で慌てたように絵筆を取った。

ようやく走り始めた筆を確かめ、妾の横で微笑まれた王様が
「まさかこのような事になるとは」
この耳以外には届かぬほどの御声で、小さく呟かれた。
「王妃」
「はい、王様」

互いに絵師から顔を背けることは出来ぬ。それでも妾の体の右が、全て愛おしい方に触れている。
右の髪は、王様の腕に。右の肩は、王様の龍袍に。
その右側が全て温かいから、御目を見ずとも今王様がどんなお顔をされているかが判る気がして。

「こんなに遅くなり、済まなかった」
聞こえぬ程の小さな御声が、右の耳から聞こえて来る。
「もっと早く描かせるべきであった」
「・・・構いませぬ。今だから、こうして」

王様の御前で涙を零した無礼の翌夜。
康安殿からお越しになった王様が急に真影をとおっしゃった時は、御自身の真影をお残しになるだけと思うておったものを。

こうして二人並んだ絵姿を残せる。
壮麗な婚儀衣装を纏わずとも、今の二人の真の姿を。
けれど王様の龍袍の左の金龍の繍は妾の衣で半ば隠され、先刻から絵師は半歩離そうと苦心しておる。

立派な御姿を残して頂こうとほんの少しでも身動ぎすると、王様はさも御不満げにその分近く寄って下さる。
そうして最初にいた処から、随分左へずれてしまった。

絵師は手許に据えた絵紙と、目の前の王様とに視線を行き来させ、的確な筆捌きで王様を写し取っていく。
しゃしんでなくとも、残して欲しい。
王様のお優しいこの両の御目。困ったように、少しお恥ずかし気に笑まれた口許。
そしてあの日元の宮廷で初めてお会いした時に知った、もっと以前に月の下で見た時と同じ、輝いて澄んでいる御心を。

「王様、けれど何故突然、絵姿を」
妾の問いに王様はさも愉しそうに御目許の笑みを深めると、
「そなたの姉上よりの願いだ。何やらかめらとしゃしんの御礼と」

御目は目前の絵師を見たままで、優しい御声がおっしゃった。

 

 

 

 

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4 件のコメント

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    王妃様よかったですね
    そりゃ しあわせですものね
    婚礼のときはね 誤解もあったことですし
    今となっては 残念でした
    でもでも いまじゃ 比べ物にならないぐらい
    しあわせでしょ♥
    絵姿残せて よかった
    絵師さんは大変ですね(笑)

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    さらんさん
    王様と王妃様、ヨンとウンス
    どちらの絵も素敵にしあがるといいですね
    でも、王様作なんてだれも持ってないからある意味、写真より貴重ですね
    出来上がりが楽しみで~す

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