2016 再開祭 | 嘉禎・27

 

 

「天門を確かめて参ります」

ビュッフェを一巡してお皿に取った、食べられそうなメニュー。
この人のトレイの上には私が選んだサラダやマフィンやイングリッシュブレッド。
コーヒーにオレンジジュース、フルーツやハム、ベーコン、ソーセージに スクランブルエッグ。
そんな定番のイングリッシュブレックファスト。
それに私が運んだ韓国風のチュクやパンチャンがたっぷり乗ってる。

トレイをテーブルに乗せたまま手をつける事もなく、黒い瞳が私を見た。
「うん、じゃあ一緒に行こう?」
「いえ」
当然イエスって言われると思ったのに、あっさり横に振られるあなたの首。
スクランブルエッグを刺そうとしたフォークを止めて、私はあなたをじいっと見た。

「どうして?」
「イムジャは必要な事を調べて下さい。手分けしましょう。刻が惜しい」
「1人で行くの?」
「天界ならあなたの方が慣れている。確かめましたが、確かに武器を持つ者はおらぬ」

肩越しに他の朝食中の宿泊客をちらっと見たあなたが頷いた。
「必要な事が分かり次第、高麗に戻らねばなりません。今日は何をされますか」
「今日はメーカーに電話して、サプリ買って・・・あとすぐ近くの漢方病院に行ってみたいの。
それから鍼灸院と、調理院にも」
「一番早く片付くのは」
「電話と、買い物ね」
「済ませておいて下さい。その間に行って参ります」
「ほんとにだいじょうぶ?道は分かる?迷ったりしない?」

私の不安な声に、この人は目を見てしっかり頷いた。
「二度目です。通り向こう故」
そして自分の着てるTシャツを指先でつまむ。
「目立つ事も無いかと」

ああ、この人全然分かってないわ。呆れて溜息をつく。
さっき部屋でシャワーあがりに、あれほど鏡を見てたのに。
「目立つのよ。いい?みんながあなたを見てる。分かってるでしょ」
「・・・はい」

レストラン中に女性たちの視線を受けて、否定は出来ないわけね。
でも理由は教えてあげない。
あなたが素敵だからよ、カッコいいからよ、だなんて。

こうして普段着を着てるし、あの誘拐から1年近くたってる。
あなただってばれる事はまずないと思うし、ここまで不審な人から声をかけられてもいない。
この人が天門を確かめてる間に医薬メーカーに問い合わせして、サプリを買って帰ってくれば、確かに合理的。
「寄り道しないで、まっすぐ帰って来てくれる?」
「無論」
「じゃあ部屋で待ち合わせよう。その後は付き合ってね?」
「はい」

残った心配は逆ナンパだけど、それに乗るとは思えないしね。
目の前の奉恩寺。仏像まで往復したって、どんなにかかったって30分くらいのものだし。
真昼間にお寺に参拝なんて、ご年配の方ばっかりよね。
うん、きっとそうに違いないわ・・・きっと、多分。
無理に自分に言い聞かせて、私はどうにか笑って見せる。
「他の女の子についてったら」

テーブルのお皿の上のスクランブルエッグに思い切りフォークを突き立てて、あなたの目の前にずいっと差し出す。
「こうよ」

そのまま卵を口に運ぶ私に、あなたの呆れた視線が飛んで来た。

 

*****

 

「部屋に帰るには、ここを押してね」

えれべーたの中、この方が扉横の壁に並ぶ小さな四角のうち一つを指して言った。
右列、上から数えて五つ目。その場所を頭に叩き込む。
「はい」
「カードキー持った?」
「はい」

羽織った上衣の胸袋から、薄い板を取り出して示す。
「じゃあ、後でね」
あなたが笑み、両手をひらひらと振る。
「いってらっしゃーい」

あなたと俺の間の隠し扉が、音も無く閉まり始める。
その扉に完全に隔たれるまで、あなたをじっと見つめる。

離れると告げた途端に、その判断を悔いながら。

 

エレベータのボタンの場所は教えた。
この人は頭も良いし、覚えも早い。
昨夜だって酔い潰れた私を抱いて、アヒョンから江南まで戻って来てくれた。
タクシーまでしっかりつかまえて。

絶対だいじょうぶ。迷ったりしない。
警察だって江南の誘拐事件にばかり関わってるはずがない。
そんなの税金の無駄遣いもいいとこだわ。

「カードキー持った?」
あなたはジャケットの胸ポケットからキーを取り出して見せながら
「はい」
そう言って頷いた。

心配してウジウジ悩んだって仕方ない。私のやるべき事をしなきゃ。
「じゃあ、後でね」
私は笑って、両手を振った。
「いってらっしゃーい」

エレベータの中で手を振る私と、ドアの前で小さく頷くあなた。
私たちの間のドアが、静かに閉まり始める。

変なの。最後の別れでもあるまいし。
なのにドアの向こうのあなたから目が離せなくて。

早く、帰ってきてね。

 

 

 

 

8 件のコメント

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    さらんさん、おはヨンございます❤️
    そう、目立つのよ! かっこいいから!
    自分では意識してないみたいだけどね?
    すっごくかっこいいのよ!力説w
    逆ナンね、心配よね。
    今までウンスがそばに居たから声掛けない子もいただろうけど、1人となれば話は別かも。
    まぁ女の子について行くことはないだろうけどね。
    でも脅しといても損はないw
    ずっと一緒だもの離れるのは不安よね。 しかも天界だし…ヨーン早く戻ってくるのよ~!

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    予想はしてても 嫉妬しちゃうわよね
    高麗ばなれ、現代でも 飛び抜けて
    格好いいとさ…
    心配は要らないと 思いつつも
    やっぱり 心配よね
    だって 大事な人だもの
    ずっと一緒に居たいものー。

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    まずいっ&(T△T)
    心臓ドキドキしてきました……
    ウンスなみにヨンが心配です!
    女達がほっとくわけない~!
    更新がまちどうしくて、一日仕事がてにつかないわ、コリャ(/。\)

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    さらんさん❤️
    一流ホテルのレストランに並ぶ
    たくさんの料理やドリンク類…。
    食いしん坊の私は
    頼まれもしないのに
    勝手に想像し、しかも
    頭の中ではすでに
    ワッフルを焼いてくれる
    シェフの前に
    いそいそと並んでおります。
    d(^_^o)
    もちろん、テーブルの上は サラダや
    ハム、チーズにできたてのオムレツ…、
    そして絞りたてジュース各種や
    おかゆなんぞで一杯の状態で…。
    いや、そんなことは
    どうでもいいんです。
    ヨンは観光に来たわけでも、
    ご馳走を食べに来たわけでも
    ないのですもんね…~_~;
    どれほど美味しい料理が
    並ぼうとも、
    ゆっくり味わう気にも
    ならないでしょう。
    ああ…それにしても心配です。
    頭の良い しっかり者だとは
    わかっていますが、
    どれだけ気配を消そうとも
    特に女性陣からの注目度は
    半端ではないはず。
    何事も起こらねばいいのですが
    (・_・;

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    はぁ~
    美丈夫な旦那様だからウンスも心配ですよね(^-^;
    ヨン、寄り道しないでウンスの元に早く帰ってあげてね❤
    さらんさん
    天界でーと最高に楽しいです(*^^*)

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    やっぱり心配 気になっちゃう
    目立つのよね~ヨン
    だってかっこいいんだもん
    当人全然 そんなことは意識してないから
    余計自然で かっこい
    大丈夫とウンスは自分に言い聞かせて
    用事を早く片ずけて お部屋で待ちましょう

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