2016 再開祭 | 소개팅ソゲッティン・中篇

 

 

私室の扉を足で蹴り開き一足先にその中を進み、音を立て三和土へと腰を下ろす。
不機嫌さが一目瞭然の乱暴な音と振舞いに、呼び出した男は目を瞠った。
「どうしたんですか、隊長」
「聞きたい」
「はい!」

厳しい顔の俺に、奴の表情も引き締まる。
それで良い。その程度は緊張して欲しい。
だからこそ此方も大袈裟な程、不機嫌そうに振る舞っているのだ。

「何かありましたか」
「正直に話せ」
「俺が隊長に嘘を吐く訳がないです」
「そうだな」
「当然でしょう!」

奴は手にした大槍の石突で、烈しい音と共に床を突いた。
俺とは違い此方には一切の芝居気はない。心底そう思っているのを知っている。
「どうしたんですか隊長。何か心配事が」
「そげってぃんとは何だ」

一息に尋ねると、槍を握る奴の手から力が抜ける。
床に突き立てられていた槍が支えを失い、ふらりと大きく揺れた。

武閣氏という女隊絡み。女といえば迂達赤で最も手練れはこの男。
大槍を振らせても忠義の篤さでも右に出る者はないが、女好きでも同じ事だ。
とにかく憎めん。憎めんが手が早過ぎる。
憎めん所為で敵は作らぬが、なまじの奴なら刃傷沙汰が起きても不思議はない。

共に連れ立って市井へ出る度に舌を巻く。
久し振り、寄って行ってと方々から掛かる袖引きの声。
白粉の匂いと女の嬌声を生き甲斐にしているような男。

三和土から腰を上げ、ほぼ同じ高さの目線を合わせる。
「吐け」
「て、長」
「何を企んでる」
「隊長、それはですね、あの」

実直で豪胆なこの男が口籠るのは女絡みの時のみ。
互いに長い付き合いでその辺りはよく判っている。

「言ったよな」
「え」
「嘘は吐かんと」
「言いました・・・それが、隊長」
「くどい」
「す、すみません!でも・・・」
「トルベ」
これ以上待たせるなと睨むと、奴は大きな体を縮めるようにして口の中で言い淀む。

「何だよ」
「あの、実はですね」
「おう」

お前の女への手の早さも、俺の短気さも、既に互いに知っている。
それでも頑として口を割ろうとしない。此処まで粘るのは珍しい。
少しばかり興味を惹かれ顎で先を促すと、決心したように顔を上げ奴は小声で白状した。

「医仙から・・・隊長には、絶対内緒だと。知れれば絶対に怒られるから、と。
下手すれば皆が待ち望む、そのソゲッティンが取り止めになると」

 

*****

 

「・・・隊長」
「医仙は何処だ」
形相を変えて押し掛けた典医寺。

唯ならぬ気配を感じたか、正面突破を試みる俺の行手を白い長衣が阻んだ。
その長い髪、広い肩の向こう透け見えるあの方の私室の扉。
全く気に喰わない。何もかもが総て。

此方は遊んでいる訳ではない。命を懸けて護っている。
歯磨きの粉やら楊枝で拵えた歯ぶらしやら、何やら怪しい物品を配るまでは許そう。
迂達赤の奴らの健康を慮っていて下さると片目を瞑る。

武閣氏連れのあの方が迂達赤に囲まれた景色。
東屋の中で嬉し気な笑みを浮かべて意気揚々としているだけでも腹が立った。
そんなに・・・いや、そんな事はどうでも良いと思い直し顔を上げる。
「退け」
「何があったのです、隊長」

侍医相手に本当に拳を振り上げそうになり、危うく握って手を止める。
この男を殴り飛ばしたところで筋は通らん。
元凶は全てあの扉の向こう、此方の気も知らず暢気に構えているだろう天の方だ。

「一先ず私が話を伺います」
「お前に用はない」
「隊長。そんな勢いで医仙にお会いになってはいけない」
「煩い」
「必ず後悔します。ですから一先ず私に」
「侍医!」

久々に肚の底からの怒りの所為で、押し留められぬ気の乱れが生んだ銀の痺れが握った右手に走る。
ちりりと空気を震わせる、昼の陽射しとは違った輝き。
目を遣った侍医が、懐に手を差し入れるとすらりと扇を取り出した。

相手になるという事か。上等だと半歩下がって睨みあう。

いや、剣呑な眸で相手を睨んでいるのは此方だけだ。
奴は状況が判らぬまま、怒り心頭に達した俺を表面は穏やかな様子で黙って見詰めている。

その静かな目に、ようやく頭が冷えて来る。
握った拳の力を抜くと、走った銀の小さな輝きは春の陽射しに溶けて消えた。

「隊長」
「水を一杯くれ」
「・・・喜んで」

何処まで行っても表情を変えぬままだった侍医が、初めて心から安堵の笑みを浮かべ先を歩き出した。
そうしながらさり気なく整える振りで、その濡羽色の長髪の鬢に一筋流れた冷や汗を指先で拭う。

トルべを問い詰め、侍医を慌てさせ、己は一体何をしているのか。
そしてあの方だ。これ程の人間を巻き込むそげってぃんとは一体如何なる戦なのだ。

敵は少ないに限る。無論それは戦の定石。
だが素人のあの方が仕掛ける戦の意味が見えて来ぬ。
まさか俺抜きで奇轍、若しくは徳興君に対峙すると企ててでもいるのか。
己の思い付きに背筋を凍らせる。そんな馬鹿な話があるか。

侍医の言う通り、まずは周辺を固めるべきだ。
改めて男の冷静さに感謝しながら、俺達は滅多に立ち入らぬ奴の私室への扉を開けた。

 

 

 

 

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