2016 再開祭 | 소개팅ソゲッティン・後篇

 

 

「それで、隊長」

先刻の睨み合いで懲りたのか、それとも本当は冷たい水を俺の頭から撒き散らしたかったのか。
侍医は一旦俺を部屋内へ案内てから表に出、わざわざ井戸から汲み上げた冷たい水の器を目の前へ置いた。

「医仙に何の御用ですか」
「何か企んでいる」
「懲りぬ方ですね」
俺の声に呆れたように、侍医が苦笑して深く息を吐く。
「思うなら止めろ」
「私も初耳でしたので・・・企みとは如何様な」
「そげってぃん」
「ソゲッティンとは、一体」

知っていれば苦労はない。わざわざ血相を変え駆け付けん。
それに思い当たったのか、侍医も己の愚問に小さく笑った。
「御存知ないから、典医寺へいらしたのでしたね」
「ああ」
「何か厄介な事ではないと良いですが・・・」
「武閣氏が絡んでいるのは間違いない」

置かれた茶碗を片掌で掴み、一息で半分煽って告げる。
腕を組み考え込むよう落ちていた侍医の視線が上がる。

「武閣氏が」
「ああ。おまけに医仙が口止めしている」
「箝口令まで敷くとは、ずいぶんと用意周到ですね」
「敵を増やすなとも」
「敵、ですか」

穏やかでないその言葉に、侍医は眉を顰めた。
「敵・・・武閣氏、口止め・・・」
「医仙の事だ、また無謀に奇轍や徳興君に勝負など挑まれては」
「それなら迂達赤の皆が、隊長に黙っている訳がありません」

己の杞憂を言い当てられて、俺は渋々頷いた。
侍医にも判っている。その通りだ。
兵を動かすとなれば例え医仙が箝口令を敷いたとて、奴らは必ず俺に報せる。

「隊長」
侍医は頷くと、向かいの椅子から腰を上げた。
「此処は一旦素知らぬ振りを。私が探って参ります」
そう言って俺の返答を待たず、長衣の裾を翻して部屋扉へ向かう。
「おい」

一人取り残されて声を掛けると、侍医が扉で振り向いた。
肩越しに此方へ視線を流す横顔は、何故か穏やかに笑んでいる。
「私の予想が正しければ、隊長が目くじらを立てる程の大事ではないと思います。
寧ろ隊長は今は動かれぬ方が得策かと」
「・・・判った」
「何か判ればすぐお知らせに上がります。兵舎でお待ち下さい」

それだけ残すと、侍医は明けた扉から音もなく滑り出て消えた。
つまりあの方の顔は見られぬわけだ。これ程引掻き回された挙句。
俺が考えねばならぬのはあの方の無事と、そして兵の安寧。
何方にも問題がなければ、それ以上言う事はない。

一日や二日逢えぬから何だと言うのだ。
今まで知らずに過ごして来た刻の方がずっとずっと長かった。
そして天界へ帰ればもう二度と逢えぬ。
天門で離れる刹那から、二度と逢えぬ時間だけが続いて行く。

慣れねばならん。そしてあの方を知らなかった頃に戻る。
骨まで悴む寒さにも、眠りの中に逃げる事にも、もう飽き飽きしているというのに。

護る事をもう一度思い出させてくれた。
考える前に心が走る事を教えてくれた。

一人きりの部屋の中、侍医の出て行った扉。
椅子から腰を上げるには、もう少しだけ時間がかかる。

 

*****

 

「医仙、宜しいですか」

穏やかな声が聞こえて振り向くと、チャン先生が扉から入って来るところだった。
「もちろん!どうしたの?急患?」
「いえ」

先生は手にしたお盆をみぞおちの高さまで上げると
「良い茶が手に入ったので、一服して頂こうと」
「うわぁ嬉しい、ありがとう!」

先生はいつも微笑みを崩さない。どんな時も冷静さを失わない。
医者としては最適よね。すぐ顔に出るようじゃダメだし、見習うところがたくさん。
そう思いながら午後の部屋の中で向かい合う。

テーブルに置かれたそのお盆の上には、お茶の他においしそうなお菓子の乗ったお皿まで。
「いただきまーす」
「召し上がれ」

私が差し出されたお茶を手に取って、ふうっと湯気を吹いた時
「で、ソゲッティンとは一体何ですか、医仙」

穏やかな微笑みを崩さないままのチャン先生の一言に、吹き損ねた私の息でお茶があちこちに飛び散った。

 

 

 

 

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4 件のコメント

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    さすが、チャン先生。ド直球の質問❗
    チャン先生のそういうところ、大好きです。
    生きていて欲しかった人物ですよね。
    トルベも出ていて嬉しい❗

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