2016 再開祭 | 眠りの森・拾壱

 

 

最初はあの時だった。あなたと一緒に天門まで逃げた時。
岩陰で見つけたあのフィルムケースで、未来の私が教えてくれた。

逃げないで。たとえそれがあなたの最後の日になっても。

そうだ。あの時私たちの終わりはバッド・エンドだった。
王妃媽媽が徳興君に誘拐されたと知ってからも、あなたは開京に戻らなかった。
私のために何もかも捨てた。文字通り何もかも。

そして自分を責めて、最後に殺風景なこの部屋で、冷たいあなたが静かに眠っていた。
私はあなたを抱き締めた。固く冷たくなったあなたを抱き締めて、泣きながらその額にキスをした。

そしてこの間の夢。あの時とは違う。考えて。どこが違う?

明るい部屋。温かくも寒くもない、白くぼんやりした眩しい部屋。
「・・・ヨンア、起きて。もういいから、起きて」

眠るあなたに話しかけてみる。この声が届くことを祈って。
「自分を責める必要なんてない。世の中は、思い通りにはいかないものだから」

あなたの黒い髪を、何度も何度もこの指で撫でる。
いつもあなたがしてくれるように、少し固いその髪を指でとかす。

「それでも明日は来るわ。あなたが元気で、この国を引っ張っていかなきゃ。
みんな待ってる。こんなとこで眠ってちゃダメ」

眠ってるはずの唇が笑った気がして、次にその唇の輪郭をなぞる。

「何度だってやり直せるの。他人を変えるんじゃなく、私たちの運命を変えよう?
神様はこうやって、何度だってそのチャンスをくれるから」

あなたは眠っている。こうして穏やかな寝息を立てて。
その胸に手を当てれば、心臓はしっかりと動いている。
その手首の脈を取れば、そこは力強く打っている。

「こんなに元気な脈なのに、いつまで寝てるつもりなの?」

温かい息。抱き締め直せば、懐かしいあなたの香り。
あなたは生きている。ただそれだけで嬉しい。

「春になったらお花見に行こう。桜がきっと雪みたいに降るわ。初雪の時みたいに、2人で手をつないで歩こう?
タウンさんと一緒にお弁当を作る。起きたら、豪華なお弁当を作ってあげる」

だから今あなたのまぶたに落ちる私の涙は、きっと温かいはず。

バッド・エンドじゃない。ただ眠っているだけ。こうやって私たちは、何度も歴史を上書きする。
いつか迎える最高のハッピー・エンドへ向けて。

あなたは起きなきゃ。起きて歴史を変えなきゃ。ううん、変えるんじゃない。戻さなきゃ。
私が、それに21世紀の韓国人全員が知ってるチェ・ヨン将軍として高麗最高の武将にならなきゃ。

「・・・1人にしないで。約束を守って、ヨンア。
1日でも、1年でもなくて、最後まで一緒にいてくれるって言ったじゃない」

最後にキスをして、完全に目を覚まさせてあげる。あなたはきっとビックリするでしょ?
スリーピング・ビューティの男性版よ。王子さまはいつも必ずお姫様のキスで目を覚ます。
そういう決まりなの。私の住んでたあの世界では。

私はあなたの頭を抱えたままで、その温かい唇に唇を寄せた。

 

*****

 

泣かないでくれ。

今は、あなたの涙を拭いてやる事が出来ない。

泣かないでくれ。

あなたを感じているのに、瞼が鉛の如く重い。

泣かないでくれ。

両眸が再び開くまでの、ほんの僅かの間だけ。

長く待たせたりはしない。其処に居ると判る。温かい指も、震える呼び声も、その花の香も。
眠いわけでもない。あなたを独りにはしない。必ず起きるからどうか笑って待っていてくれ。

あなたを傷つけるものから逃がしてやる事は出来ない。
それなら傷ついたあなたごと抱き締められる腕を持つ。

あなたを泣かせる現実から目を背ける事は許されない。
それなら泣きじゃくるあなたの涙を拭ける勇気を持つ。

イムジャ。俺はただ怖かった。あなたを悲しませる事が。
泣かせる事が。そんな国をあなたに見せねばならぬ事が。

いつでもただ笑っていて欲しかった。あなたの笑える国こそが在るべき姿だと思った。
もしも今のこの国が、民がまだ正しい姿から程遠いなら。

俺はもう一度立ち上がる。目を背けず、隠す事無く。
考える暇があるなら小石を拾う。正しい明日の為に。

あなたが泣いている。温かい涙が両の瞼に降る。

呼んでいる。繰り返す優しい声が眠りを醒ます。

そして近くなる花の香を、胸一杯に吸い込む。

世の流れに掉差す事も、他人の道を変える事も出来ん。
出来るのは、せめて俺達だけは正しく生きる事だけだ。

今一番正しい道は、あなたの涙を拭く事。
眸を開けてあなたを見、待たせて泣かせた事を詫びて。

立てた誓いを、何が起きようとも守る事。
一日でも一年でもなく、命尽きるまであなたを護る事。

雪。桜。弁当を持ち出すのがあなたらしくて愛おしい。
手をつないで春空の許、櫻の花吹雪の中を共に歩こう。

きっとあなたはあの明るい瞳で、雪のように舞い散る花弁を追う。
余所見をして転ばぬように、その掌を必ず支えてやらねばならん。

あなたの涙の雨が止む。 代わりに温かな唇が降って来る。
もう一度俺に命を吹き込むように、その唇が震えながら触れる。

「・・・ヨンア、起きて」

あなたの声に導かれ、俺はようやく瞼を上げる。
互いの鼻先が触れ合う距離で、泣き笑いのあなたが言った。

「おはよう・・・よく、眠れた?」

 

 

 

 

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