「あなたの写真を見て、悔しかった。俺はあんな写真を撮れる自信ない。
あなたが背中だけであんなにフォトジェニックなのが悔しい。
俺は背中だけ撮られた事なんてない、パパラッチの写真以外では。
そしてその写真では、いつも隠れてるみたいに背中を丸めてるのがもっと悔しい」
昏い窓越しにすら目を逸らし、奴は言い難そうに一息に言った。
「立場の違いだ」
「立場?」
「お前は唯一無二だとある男が言った。だから俺は要らぬとな。
お前が主君だ。この世の王はお前だ。俺はそれで良い」
「ヨンさん」
「主君を守るのが臣下の役目だ。必要なら命も懸ける」
「あなたは、俺の家来じゃない!!」
烈しくなりそうな声を呑み、息を整えると抑えた声で奴は続けた。
「俺は家来なんていらない。主君なんてなりたいわけじゃない。
ただ好きな仕事をして、好きな人たちと一緒にいたいだけなんです。
でもそれを許されるには、トップでい続けなきゃいけない。そうじゃなきゃ、周りの大切な人たちを守れない」
ああ、同じ事を聞いた事がある。
あの時だ。王様がおっしゃった。
王だと思わず、弟だと思って話して下さい。
自信は無く時に揺らぎながら、それでも己の足で立とうとする男。
たとえどれ程に恐ろしくとも、その足で一歩前へ進もうと挑む男。
だからこそ護らねばと思う。この男に何の借りがある訳では無い。
あの時とて王様に借りがあったわけでは無い。ただ逃げたかった。
そして逃げる機会を逸し、俺には迂達赤隊長の役目が残っていた。
今とて同じだ。天界から高麗へ帰る機会を逸している。
そして他ならぬあの方が、この男を助けたがっている。
天門が開くとおっしゃった六週、そうしたいと云うなら仕方無い。
王様がご自身を追い詰めるような、この男が心を張り詰めるような、そんな悲壮な覚悟は微塵も無い。
ただあの方を護りたい。望む事総て力の及ぶ限り叶えたい。
全てが慾で出来ている。ただその笑顔を独占したいが為の。
「とれーにんぐとは、何をする」
「え?」
「明日からするのだろう」
「あ、ああ・・・基本的にはジムでのマシンとランニング、あとは柔軟と格闘系の基礎トレです。
内容は徐々に変わってくと思います」
ましんだのらんにんぐだの。
判って当然と言う面で言い放たれれば、此方にも面目がある。
判らぬと今更言うわけにはいかん。
「成程」
「送り迎えはチーフマネージャー、ヨンさんに迷惑かけたあの男が。
ジムに行けばトレーナーが付くので、全部指示があります。
今回は風邪ひいたって伝えてたので、明日行っても疑われはしないと思う」
つまり全てが人任せという事だ。一つだけ気掛かりは。
「ミンホ」
「はい」
「そこで肌を曝す事はあるか」
「肌、ですか?裸になるかって事ですか?」
「ああ」
俺とこ奴との一番の違い。
腹に残る傷跡が他者の目に触れれば、如何に他が瓜二つであっても誤魔化しようが無い。
逆に余りにも似ているからこそ、唯一の違いがこいつの命取りにならぬとも限らん。
「いえ、脱ぐのは自由だと思うし貸切ですけど・・・俺は脱がないな」
「曝す事は無いんだな」
重ねた問いに不得要領な顔でミンホが頷く。
「これがある」
そう言って身に着けた上衣を指先で僅かに捲り、あの腹の傷を見せる。
奴は驚いたように目を瞠り、そして次に俺の顔を見た。
「ヨンさん・・・」
幾度か瞬きを繰り返し、当たり障りない言葉を探したか。
「・・・めちゃくちゃいい腹筋してますね」
続いた男の言葉に毒気を抜かれ、俺は無言で首を振った。
*****
「ねえ、ミノ君」
とれーなーという男が驚いたように目を瞠り、鉄の機械の椅子の横から寝転ぶ俺を見下ろす。
俺の両腕には錘をつけた鉄の棒。身構える為に急に離す訳にもいかん。
誰であろうと両手の塞がったままで見下ろされるのは性に合わん。
最後にその鉄の錘棒を持ち上げ台へ戻すと、そのまま立ち上がる。
「何・・・ですか」
奴の喋り方ならこうだ。吐き捨てるように不愛想な声は吐かん。
頭であの喋り方を繰り返しつつ言ってみる。
「風邪って聞いて心配してたんけど、調子良さそうだね?そのウエイト、いつもより重い奴だよ?」
「・・・ああ・・・そう、ですか」
台に掛かった錘をちらりと確かめ舌を打つ。
これほど持ち易く作られた錘棒を使って、奴は普段どんな鍛錬をしているのか。
「あんまり筋肉付け過ぎてもまずいんでしょ?次はシットアップとアブドミナル行こうか」
彼方此方に貼られた鏡、全てに映る己の姿に眩暈がする。
次はどの程度手を抜けば良いのか。
首を捻りその男に従いて、林立する鉄柱と鏡の中を移動する。
「お疲れ!」
薄暗い車停め、車に戻る俺を見つけ真黒い窓を張った扉が開く。
「あ、いや、お疲れさまです!」
其処から飛び出した、あの日俺を攫った男の声に首を振り、開かれた扉から鉄の馬車の中へ乗り込む。
何もかもだ。何もかも全てが性に合わん。
近づくだけで誰かの手で引かれる扉。欲する前に常に先に差し出される水。
自分で駆る事もないままに移動する、牽く馬もない鉄の馬車。
それでも出迎えて下されば微笑める筈の、あの瞳すら其処に無い。
無性に込み上げる淋しさに、黒く冷たく外を隔てる窓へ額をつける。
生まれたての赤子でもあるまいに、知らぬ世で数刻離れただけで。
それなのにただ逢いたくて。己の声で話したくて。
本当の俺を知るこの世で唯一の方の前、心を全て曝け出したくて。

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ヨンも、ミノくんも
何かを背負ってる。
大事な人を 守りたいってところは
共通ね。
トレーニング…なんてことない。
それより ミノくんに
なりきらなきゃならないのが 問題ねー。
ただでさえ 慣れない環境なのに
ウンスが側に居ないし…
はやく 会いたいねε-(•́ω•̀๑)
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無理だな…
お疲れ様
~お疲れ様です に言い直してしまうほど…視線と仕草で上下関係が成り立つ
この人は… このおひとは自分達が傍にいて成り立つも出はないと…否応なしにわかる。(-""-;)
長くは…もたないかも(*・・)σ…。(-""-;)
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ミノの「・・・めちゃくちゃいい腹筋してますね」に、そこですかぁ?と
突っ込み入れたくなります(笑)
ヨンが「ミンホ」って呼ぶのが
何だか不思議な気持ちにさせられますね(^^)
とにもかくにも、ヨン頑張れ~❤
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一流…
朝の慌ただしさの中でコメントをさせて頂いた。
言葉足らずだったかと、凄く反省して下りました。
現代でトップに立つ彼の周りは…本質を見極め本質見抜く、超一流の人達
彼が…正直に自分自身から目を剃らさない姿を見抜けない筈がない。
迷い…足掻き…それでも目線を上げ立ち向かいあがらう姿…輝く者 一流の者達は手を伸ばし引き上げる
助けたい!と思う。
身近にいる者達ならば尚更に…(;¬_¬)
何時も行動を共にしている者ならば否応もなしに感じる。
だから判る。判ってしまう!
姿…形が いくら似ていようと。
似て非なる者…(>_<")
駄目だ…(>_<")
駄目だな…。(-""-;)
時間の問題だ…(>_<")。
輝きに魅せられ惹き付ける者と
魅せられたとしても、従い敬う事に重きを置かなければ為らない者
否応なしに、理屈無しに何が駄目とは直ぐには言えず駄目だ…持たないと。
一流を見続けた者達だから判る。
彼等の心が…言葉使いで
見えるようです。(⌒‐⌒)
さらんさんは…本当に凄い!
さらんさんが綴って下さる物語は、
描かれいる人達の心の動きが…些細な描写や語られた言葉に込められていて、物語に…くんって…引っ張っられて感情移入しやすいんです(^-^)
さらんさん……感謝です。
あの日…あの時…あの驚愕
あの絶望…あの悲しさ。
お姿が見えなくなった日の事…忘れてません。
哭いていませんか?
心に重き重石が乗ってしまいましたか?
伝えしまった言葉がお心に刺さってしまいましたか?
物語よりも、貴女様が笑顔でいて下さる方が嬉しいです。(⌒‐⌒)