2016 再開祭 | 眠りの森・拾弐

 

 

「・・・どう思う?先生」
私の声にキム先生は、あなたの脈を読んでいた手首から指を外す。

「実脈に滑脈かと。外邪が強く正気も強い。脈は安定しているので問題はないでしょう」
そしてベッドに腰を下ろして衣の袖を直してるあなたを見た。

「眠り過ぎです、チェ・ヨン殿」
「ああ」
「しかし・・・四日間前後不覚に眠り続けた方が、ウンス殿が来た途端に目を覚ますとは」
「煩い」

そんな脈診の間も、ひとまず薬員さんが外で止めてくれてるけど、部屋の扉の向こうの廊下からざわめき声が聞こえてる。
キム先生もずっと気付いていたみたい。
脈診が終わってやっと安心したみたいに扉を指さすと、あなたに向かってに苦笑いして聞いた。

「・・・お見舞の方々が多過ぎますね。お会いになりますか」
「そうだな」
あなたはベッドから立ち上がると、上衣の襟を整える。
キム先生は扉まで歩くとそれを開けて、外のみんなに言った。
「どうぞ、中へ」

チュンソク隊長がまず入って来て、深く頭を下げた。
「大護軍!」
チュンソク隊長が叫んだ途端、開いた扉のすき間からたくさんの顔が次々に部屋を覗き込む。
「大護軍!」
「良かった、大護軍」
「大護軍、もう大丈夫ですか」
「久々に寝太郎になったから、驚きましたよ」
「今飯を運びますから、待ってて下さい!!」

あなたはそんな声の洪水の中、
「・・・一先ず入れ」
って、低い声で言った。

その許可を待ってたみたいに、20人くらいの迂達赤のみんなが我先に部屋の中に駆け込んで来る。
あっという間に満員御礼になった部屋の中をぐるっと見渡して、あなたは呆れた様子でチュンソク隊長に聞いた。

「歩哨は」
「今は甲組が」
「市中の警戒は」
「乙組と保勝軍が行っております」

迂達赤のみんなを追い返すネタも尽きたのか、あなたは困り顔でふうっと大きな溜息をついた。
そこに大きなお盆に乗った、ものすごい量のご飯が運ばれた。
そのご飯でお盆を運んでるトクマン君の顔まで半分隠れてる。

山盛りのお皿の間からどうにか前を見ながら
「お前ら退け!大護軍、まずは喰って下さい。四日分ですから」
トクマン君が言いながら、不安定なお盆を部屋のテーブルの上にようやく置いた。

「ああ、それにしても良かった。大護軍の寝てる間、俺達は全員眠る気にもなれませんでしたよ」
トクマン君の心からほっとした声に、部屋中のみんながうんうん頷いた。
「それにしても、まさか医仙が接吻で大護軍を起こすなんて」

続いたトクマン君の声に、部屋中のみんなが息を呑んだ。

キム先生が、トクマン君を指さした後に無言であなたを見た。
薬員の女の子たちは、顔を真っ赤にして口を両手で押さえた。
チュンソク隊長は真っ青になって、トクマン君の頭を叩いた。
テマンが両目をまん丸くして、私とあなたを交互に見つめた。

「・・・ト」
あなたがものすごく怖い顔で、トクマン君に何かを言う前に。

「そうなのかトクマン!!」
「何だお前、いつそんな事」
「どういう事なんだ、まさか覗き見でも」
「違う!この部屋を整えて、隣の部屋の大護軍を迎えに」
「だけど見たんだな。見てながら黙ってたんだな!」
「お前、まさか俺達以外には言ってないだろうな」
「大護軍の外聞に関わるぞ、絶対に他言するなよ!!」
「何故外聞に関わるんだよ。接吻のお相手は医仙だし、奥方様だぞ」
「いや、だからと言って」

トクマン君の声に敏感に反応した迂達赤のみんなが、方々で叫び始める。
蜂の巣をつついたようなって、この騒ぎのことよね・・・。

黙って座ってるのも恥ずかしい。
別に結婚してるんだし、キスして責められるような関係じゃない、けど。
そうよ。考え方によっては人工呼吸、医療行為って言えるわ。この人を起こしたい一心でしたんだもの。
その時この人の自発呼吸に何の問題もなかったって点が、大きなポイントといえばポイントだけど・・・。

「あ、あのね、みんな」

部屋の叫び声に負けないように、私がようやく言った瞬間。
ガツン!と大きな鈍い音がして、同時にトクマン君が膝を折った。
「て、大護軍・・・」
「痛いか」
「は・・・い、あの・・・」

トクマン君は床に膝をついて涙目で、仁王立ちのあなたを見る。
「だろうな」
あなたは怖い顔で、そのトクマン君を冷たい目で見降ろした。

チュンソク隊長が慌てた顔で、あなたとトクマン君の間に入る。
「トクマン、出ていろ。これ以上絶対に口外するなよ、相手が迂達赤でもだ。良いな!」
「は、はい」
顔を歪めて床から立ち上がると、トクマン君はあなたと私に頭を下げてから、足を引きずってようやく部屋を出て行った。

「お前らも、今聞いた事は忘れろ。他言無用だ。判ったら出ろ!」
チュンソク隊長は続いてみんなを追い払うように、大きく両手を振り回す。
みんなもそれぞれ頭を下げて、振り向きもせずに部屋を駆け出て行った。

さっきまでの騒ぎが嘘のように、しんと静まり返った部屋。
旅館の外を流れる川の音だけが、やけに大きく聞こえて来る。
「・・・チェ・ヨン殿」
「お前でも容赦せん」
「まだ何も言っておりませんが」
「言うつもりだろう」

キム先生は笑いをごまかすみたいに唇を噛んでから、並べた2台のベッドを指さした。
「折角並べましたが、無駄になりましたね」
「任務は終わっておらん」
「残党もほとんどおらぬでしょう」
「それでも残っている」
「つまりは」

先生は満足そうに頷きながらゆっくりと部屋の扉へ近寄ると、この人から十分距離を取って最後に言った。
「少なくとも此処でまだ数日は、ウンス殿と枕を並べたい、と」
「そういう意味では!」
「眠り続けた理由はまだ判りません。 急変せぬよう無理をせず」
「早く行け」
「ウンス殿。チェ・ヨン殿が無理をされぬよう見張って下さい」
「う・・・うん、分かった。ありがとう、キム先生」
「別室におります。何かあればお呼びください」

キム先生は穏やかに笑って、そのまま部屋の扉を滑るように出て行った。

 

 

 

 

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4 件のコメント

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    もうちょっと 二人で
    あまあま~に 目覚めの余韻を…♥
    トクマンのポロリで
    それどころじゃ なくなったな~(笑)
    とりあえず 邪魔者は消えたので
    もう一度 やり直し
    奥方様と養生してくださいな(* ̄Oノ ̄*)

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    トクマンくん、見ていたのね?
    悪気はないし…、ご飯も山盛り4日分を持ってきてくれたし…、うれしいのよね。
    でも、この話、他の迂達赤さんや薬員さんには、刺激がありすぎ?
    ヨンとウンスの接吻…ですものね。
    妄想爆発して、胸がドキドキとか。
    女性の薬員さん、あのヨンの唇に接吻できる
    ウンスに、羨ましい…なんてね。
    目覚めてくれて、よかった!よかった!

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    と、トクマン君うっかりさんにも程がある
    ご愁傷様。゚(ノ∀`*)゚。
    キム侍医もヨンをからかっちゃって
    まだお役目が…
    我慢出来るのかヨン???

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