「医仙」
チュンソク隊長が気を取り直すように、ベッドのあの人から私に目を戻した。
「ひとまず今夜からは、ここにお泊りですね」
「うん、もしもみんなに許してもら」
「当たり前です!」
声の途中で叫ぶみたいにテマンが言うと、大きな音で椅子を立つ。
「はは反対する奴なんているわけない。う、医仙を、どっかよそに泊まらせたなんて、起きた時に大護軍が知ったら」
覚えがあるのか、トクマン君が顔をしかめて小声で続きを呟いた。
「俺達全員、大護軍に足腰立たないくらいにぶちのめされます」
ふと見ればチュンソク隊長もキム先生も、何も口にはしないけどトクマン君の可哀想な声に同情するようにうんうん頷いていた。
こんな時なのに、ちょっとだけ笑っちゃう。ねえヨンア。あなた一体、いつもみんなに何してるの?
そうだ。私は笑う。笑ってあなたにおはようって言う。
いつも通り。毎朝あなたの腕の中で言ってたみたいに。
おはようヨンア、よく眠れた?
そしてあなたの顔色を見て、熱を測って脈を取ってあげたい。
「ではウンス殿の寝台を運ばせましょう。寝台なしで看病では、私もチェ・ヨン殿が起きた時に、合わせる顔がないので」
私の笑顔を見るとキム先生も、ホッとしたみたいに少し笑う。
チュンソク隊長が立ち上がったキム先生を止めるように
「御医。医仙の寝台は迂達赤に運ばせます」
続いて言って立ち上がりかける。
チュンソク隊長に首を振ると、キム先生は部屋を見渡した。
「いえ、隊長。まずはチェ・ヨン殿を一旦別部屋に移しましょう。このままではもう一台寝台を入れる隙間がない。
チェ・ヨン殿を別部屋に移し、今の寝台を動かして隙間を作ってから、ウンス殿の寝台を運び込みます」
「じゃ、じゃあ、俺が大護軍を」
テマンがあなたのベッド横に小走りに近寄ると、キム先生がまた止めた。
「テマン殿。念の為ですが、今の大護軍を動かすなら医官の方が安全です。
迂達赤の皆さんはチェ・ヨン殿の寝台を奥に動かして頂けませんか」
確かに。脳や脊髄の損傷の可能性はほぼないとはいえ、動かすならプロの方が安心ではあるわよね。
キム先生の的確な指示で、部屋中のみんなが一斉に動き出す。
薬員さんが部屋の隅から運んで来てくれた簡易担架が、ベッドのあの人の横に準備された。
それをテマンとトクマン君、チュンソク隊長とキム先生が支える。
外から呼ばれて入って来た他の先生や薬員のみんなが、あの人のシーツの四隅を持つ。
私は最後にあの人の頭部を動かないように固定して
「じゃあ3で行きます。1、2、3!」
その合図で他の先生や薬員のみんなが一斉にシーツを持ちあげてそのまま担架に乗せる。
キム先生は担架を支えて、他の3人の迂達赤のみんなに言った。
「まずはこのまま、隣の部屋に寝かせましょう。寝台はすぐに動くので、布団を敷き直す必要はないかと」
「判りました。テマナ、トクマニ、気を付けて進め」
キム先生の声に頷いたチュンソク隊長の号令で、担架を支えたみんなは隣の部屋へゆっくり移動を始めた。
*****
「ウンス殿。寝台が動き次第すぐに戻りますから、ここでしばらくチェ・ヨン殿を見ていて頂けますか」
最初に担架の先頭、左側にいたテマンが、目の前の扉を器用に足で開けた。
隣り合った部屋はさっきの部屋よりひと回り小さい。
そしてさっきの部屋よりがらんとして、部屋の隅に布団が積んであった。
それ以外に特に目立つ家具もない。
迂達赤のみんなが滞在するのに邪魔だから、もしかしたら一旦表に出したのかもしれない。
けれどあの部屋と同じ、南に向いてる窓からは川面に反射する光がたっぷり入って、部屋中を白く明るく照らしていた。
私はこの部屋を知らない。でも絶対見覚えがある。
白く霞んでいるのは、大きな窓から入る光のせい?
その光景は、あの怖い夢の中の部屋そのままだった。
担架はそのまま進んで明るい部屋の真ん中に注意深く下ろされた。
「準備ができ次第、すぐに戻って参ります。もしも何かあればすぐお知らせ下さい」
キム先生は最後にあなたの様子を確かめるみたいにじっと見てから部屋を出て行った。
チュンソク隊長はキム先生を追うように
「大護軍を床に寝かせて申し訳ありません。すぐ戻ります。宜しくお願い致します、医仙」
慌てたみたいに早口で言うと、テマンとトクマン君に
「行くぞ!」
低く呼びかけて、足音を立てないように静かに部屋を出て行った。
そして部屋に残されたのは降ろされた担架の上、シーツに包まれて眠るあなたと、あなたの頭を支えたままの私。
まるで夢のあの光景のまま、私たちの2人きり。
「・・・ヨンア」
私はこの光景を知っている。少なくともこの光景を夢で見た事がある。それも2回も。
「・・・ヨンア」
あなたを呼ぶ震える声だけが、殺風景な明るい部屋に響いた。

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皆の、ヨンを思う気持ちがうれしい。
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今、ウンスの抱く中で眠り続けているヨン。
夢の中と同じ光景なら、怖く…悲しい。
覚ましてあげなくちゃ…
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なんだか いやねぇ
余計なこと考えちゃう。
はやくもとの部屋に 戻りましょ
ウンスがいるから 大丈夫。