2016再開祭 | 桔梗・序

 

 

【 桔梗 】

 

 

「馬鹿な」
「あり得ない。時期の間違いじゃ・・・」
「どういうことですか、教授」

研究室に新しく加わった数名の新入研究員達は、計算し尽された間接照明の中で、問題のケースを覗き込んで顔色を変える。
室内に響く声にすら怯えるように小声で言った後、落ち着かない視線で私達以外には誰もいない室内を見回した。

先輩として同じ轍を踏むわけにはいかないと、敢えて大きな声で応える。
「真偽の程は判らない。いえ、実は判っている。しかし絶対に公表出来ません。理由は推して知るべし、です」

厳重な防犯装置と二重の強化ガラスに守られた、温度も湿度も完全管理の小さなケース。
中の文化財に万一の影響がないよう、普段は照明も消している。
そしてこの文化財に対面できるのは、文化財庁に入庁してからの事になる。

決して大袈裟な表現でなく、正に歴史を根底から覆すこの逸品は発見以来今も日の目を見る事なく、文化財庁の最も奥の間、最高セキュリティレベルの倉庫に厳重に保管されている。

窓などない。日光や温度変化など文化財の退色や劣化を無駄に加速させる害にしかならない。
一つきりの扉はセキュリティカードに加え、指紋と虹彩認証付きの最新のもの。
扉の横には警備員も立っている。
もちろんデジタル機器の類は一切が持ち込み不可能なのは、言うまでもない。
壁は盗難、温度や湿度の変化の被害を受けないように厚く、妙な圧迫感を感じる。

時間の歪、不思議な感覚だ。
その感覚の大きな要因は、部屋の中の門外不出の文化財にある。
よく都市伝説で「呪物」などと呼ばれる事があるが、そんな話は十中八九ただの噂に尾鰭がついたもの。

触れば呪われるだの見れば失明するだの部屋に入れば死ぬだの。
ホープダイヤも呪詛の藁人形もツタンカーメンのピラミッドも同様。
科学に基づいて然るべき調査研究をすれば、そこに必ず科学的根拠が見つかる。
そして本当に判らないものは、人の目に触れない場所にこうしてひっそりとしまい込まれる。

亡き物にするのだ。自分達の知る歴史を根底から覆す遺物など。
それは既に文化財ではなく、穢れ物であり、本物の呪物だから。

「今までの講義では一度も習いませんでした」
「こんな事はありえない。でしょう?違いますか、教授?」

文化財庁の研究員として、慣れっこになった声に頷いて見せる。
自分も初めてこれを見た時には全く同じ反応を返したのだから、若い研究員たちの事を悪し様には言えない。

「ハングル創生などの基礎を、今更言及する暇はありません。
1446年、訓民正音、世宗。敢えて大王と敬称は付けませんが、確かに尊敬に値する立派な功績です」

どうやら学生に笑いを取りたい悪癖は、一朝一夕に抜けるものではないらしい。
思った通りそれで少し緊張が解けたのか、若い研究員の強張った顔に薄い笑みが浮かぶ。
「発見されたのは、建築当時の李氏宗廟と言われています」
「・・・建設当時とは李 成桂が最初に建てた1395年初期ですか、教授。それとも1608年の」
「それじゃジャガイモは?それこそ説明がつかない。食用としてヨーロッパ大陸に渡ったのが1570年頃よ。
中国に伝来するのは1600年代。年代が正確でないけど、1608年ならどうにか・・・」
「ハングルが普及して、かつジャガイモが伝来していた可能性のある1608年。倭寇に破壊された宗廟の再建が終わった年」
「考えれば判るだろう。1608年ならわざわざここには収めない。文化財として宗廟に通常展示すれば良いんだ。
そうすればジャガイモ伝来の、歴史的裏打ちの資料にもなる」

研究員たちは額を突き合わせ、ガラスケースを恐々覗き込んで声を交わしあう。

コホン。

このタイミングでの小さな咳払いの効果も、毎年ながら抜群だ。
半分は毎年ザワザワ騒がしい新入研究員たちを鎮めるために。
残り半分は毎年同じ内容のオリエンテーションをしても混乱する、自分自身の頭の中を整理するために。
「紙質やインクの成分・・・いや正確にはインクではなく墨ですが、そんなものはこの書簡を発見以来、幾度となく調べています。
基礎中の基礎ですから」

素人に毛の生えただけの新入研究員たちは、この辺りで既に研究員ではなく、完全に見学客の視点に立っている。
それも現代科学の粋を極めた研究でも結果が出ない、世にも不思議な手紙を目の前にした見学客。
ソワソワと浮足立つのも無理はないが、それではいけない。
何故歴史上どう考えても説明のつかない物が、今こうして自分の目の前にあるのか。
ありとあらゆる角度から考え、調査し、研究してこそ文化財庁の予算を注ぎ込む意味もある。

「化学組成分析、有機物材料の分析。今回の対象物の場合材質、漂白方法、漉きの手段、密度。
インクの成分、変色退色、劣化、そこから算出される経年度数。
顕微鏡、X線、画像解析、顕微鏡も実体顕微鏡、偏光顕微鏡、万能顕微鏡、手術用顕微鏡、電子顕微鏡、レーザー顕微鏡・・・疲れるのでやめます」

はい、ここで笑って。

期待してガラスケースの周囲を見渡すが、誰一人笑っていない。
今年は受けなかった・・・仕方ない、たまにはこういう年もある。
気を取り直してもう一度若い彼らを見渡し、本題に入る。

おふざけで逃げてばかりはいられない。目の前の、どう考えても説明のつかない短い書簡から。

 

 

 

 

では(笑)ヨンが婚儀の前に天門でウンスの両親に挨拶してましたが、
ウンスのが過去にいるので、過去から手紙を残すのは無理かな。
チェ家が現代にまで続いてるのかわかりませんが。お寺に預ける
とか。歴史を調べたら両親にだけウンスだとわかるような記述を残
すとか。ヨンは確か、ユ夫人とお墓に入ってるんですよね?ヨンたち
は手紙が届いたか調べる術はないけども、、。やはり私も母親な
ので、娘がいなくなってしまったら生きていけません。
(asako0105さま)

 

 

 

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