2016再開祭 | 黄楊・拾参

 

 

「焦らなくても大丈夫です。この人は王様と一緒にうんと成功する人ですから。今はきっと時期じゃないんです。
私も年号をハッキリと暗記してるわけじゃないから」
「天の記録ですか、医仙」
この方の自信ありげな声に、王様が御興味を持った御声で尋ねられる。

「はい。この人は絶対王様から離れません。それは国史の授業で証明済みです。それにどんなに離れたってケンカしたって大丈夫です」
「医仙」
王様に向けて言葉が過ぎるだろう。黙っていられず声を上げた俺を笑顔で黙らせ、
「さっき伺って、絶対大丈夫って確信しました。王様が叔母様のことを母上代わりって媽媽におっしゃった時。
媽媽がこの人のことをお義兄さんって言って下さった時。
家族はケンカしていいんです。どんなにケンカしてもお互いに絶対に嫌いになったり憎んだり、敵になったりしないのは、この世で家族だけですから」

この方は本気で思っているのか。忘れたのか。
例え同じ父母を持とうと血を分けようと、いや、寧ろ分けたからこそ。
相手を憎み、敵となり、陥れようとする者がある事を。
あの鼠が良い例だ。実の叔父でありながら甥である王様に爪を立て、義姪である王妃媽媽を傷つけた。

王様も王妃媽媽もそうして転覆を繰り返す元の宮廷、高麗の王座争奪の嵐を生きて来られた。
敵は身内であり、近ければ近い程に敵に成り得る。
何故なら互いに立場が近いからだ。この世で身分の差は絶対故に。

けれどあなたがそう言うと、この世は少しだけ優しく温かく思える。
嫌いになったり憎んだり、敵になったりしないのは、この世で家族だけ。
そんな世がもしや何処かにあるのではないかと、淡い夢が見られる。

「本当の家族関係より大切なことがあります。血は水よりも濃いって言いますけど、私はそうは思いません。
医者として、確かに遺伝学、生物学、DNA上では繋がっていても、全然機能していない家族を見て来ました。
私の世界でもよくある話です」

今見せて下さった夢を一言で簡単にぶち壊し、あなたは笑んだ。

「血の繋がりよりも大切なことがたくさんあるんです。心から相手を信じられて大切に思えれば、それが家族です。
そんな相手を裏切ったり敵になったり、絶対しない。私は高麗に来てそんな家族にたくさん会えました。この人のおかげで」

ぶち壊しておいて、より大きな夢を見せる。あなたの為にそんな国を作ると決意させる。
結局この方は上手なのだ。俺に明るい道を進ませるのが誰よりも。

「医仙っっ!」

その時、本気の鋭い叱責の声が飛ぶ。
あなたの笑顔から声の主へ眸を遣れば、叔母上が血相を変え蟀谷に太い青筋を立てていた。
「お言葉が過ぎます。母代わり、義兄などと。一体何を!」
「え、だって言ったのは私じゃないですもの」
その鬼の形相をこの方は泰然と受け流し、微笑んで言ってのける。
王妃媽媽は同意するよう頷かれ、王様は困ったよう眉を下げられた。

「全く、口煩いのはどの家でも母の役目とはいえ」
独り言のようにおっしゃると、王様は腰を上げられる。
「長居して母の頭に血が昇るのも心配だ。日を改めるとしよう」
「ちょ、王様」
叔母上がこれ程狼狽えるのを見るなど、正真正銘初めてだ。
今や青筋に代わり冷や汗を浮かべる叔母上に笑い掛けると、王様は何処か甘えるような御様子でおっしゃった。

「昨夜は寝不足でな。食欲がない」
叔母上は暫し声を失った後、ゆっくりと床へ目を下げる。
「・・・駝駱粥を、お持ち致しましょうか」
「そうだな。幼い頃から昼に食すと、不思議とよく眠れたものだ」
「たらく?」

いつもの調子を取り戻し、あなたは王様と叔母上の話に割り込んだ。
「たらくって?」
「牛の乳でございます、医仙。王様と王妃媽媽の午餐にお出ししても宜しいですか」
「ああ、ミルク粥!」

叔母上の声にこの方は、小さな両掌を音高く胸前で打ち合わせた。
「それにゴマがあれば最高です。ましてお昼だとセラトニンっていう睡眠ホルモンが夜、ちょうどいいタイミングで働くからぴったり!」
この方の大きな声に、王様と叔母上が顔を見合わせる。
「・・・故に胡麻が添えてあるのか」
王様が叔母上に、怪訝な御顔で確かめる。
「初耳でございます。王様はお小さい頃からその組み合わせですと、ご機嫌が良かったので」

此度こそ嘘はないらしい。叔母上が正直に頭を振る。
その遣り取りにこの方は明るい声を張り上げた。
「ほらね、お母さんは食医なんです。大切な子供に何を食べさせたら良いのか、栄養学の理屈じゃなく一番知ってるのはお母さんですよ」
「医仙、口を御慎み下さい!!」
「確かに医仙のおっしゃる通りだ」

叫ぶ叔母上を微笑で宥め、内官長が開く扉から王様は静かに廊下へとお出になる。
続いて出ようとした俺を手で制し
「良い。大護軍は本日は非番であろう。医仙を典医寺へお送りせよ」

大層ご機嫌良くそうおっしゃられれば、それ以上御伴する事は出来ん。
扉外でお見送りする御背は内官と迂達赤に囲まれ、康安殿への廊下を曲がって見えなくなった。

 

 

 

皆さまのぽちっとが励みです。ご協力頂けると嬉しいです❤
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です