2016再開祭 | 夏白菊・拾肆

 

 

「大丈夫です、俺。行きましょう大護軍」
「雨だ」
「ででも、ムソンさんは移ったんでしょう。だから早く」
「余計な事を考えるな」

ああ、そう。今度はこの2人なわけね。
灯を落としたままの部屋の中、薬湯を飲み終えて薬房のベッドの上に体を起こしたテマンと、横に立つあなたが視線を交わす。

少しはガマンしようとしたわ。
この人もあんなに取り乱したし、兄弟としてだけじゃない、上司と部下として言わなきゃいけないこともあるんだろうって。
薬湯の茶碗を片付けて、一歩離れて、2人の話し合いを聞いていた。

だけど私が黙ってると思って、2人は遠慮なくヒートアップしていく。
「早く帰らないと、迂達赤だって全員が知ってるわけじゃ」
「必要なら報せが来る」
「だからって、俺のせいで大護軍が足止めなんて」
「おい」

さすがにテマン相手でこの人は容赦ない。家族だから遠慮もない。
眉間に深い縦ジワをくっきり刻んで、あなたは本気で怒った顔でまっすぐテマンを見た。
「二度は言わん。寝ろ」
「大護軍、だってムソンさんが」
「もう一度麻佛散を嗅ぐか」
「2人とも、もうそこまで!」

薬で眠らせるようなことはゴメンだわ。大声を出した私に、ようやく頑固な男たちが口を閉じた。
「テマナ」
ベッドの足元から近寄る私にいつもと違う空気を感じるのか、珍しく緊張した目が私を見る。
「は、はい医仙」
「重症じゃなくても、優秀な外科医の執刀でも、背中を縫ったのは事実なの。黙っておとなしく横になりなさい。ライト・ナウ!」

びしっとベッドを指さすと、テマンは勢いに押されるように丸い目で頷いてベッドにうつ伏せになった。
「ヨンア」
「・・・はい」
「ついさっき縫合手術を受けた患者よ。麻酔から覚めたばっかりで興奮させないで、安静にさせて。オーケイ?」

あなたも渋々頷くと、ベッドサイドから一歩離れて壁に背中を預けて腕を組んだ。
「で?肝心なところがまだ全然解決してないんだけど。ムソンさんはどこに行ったの?」
「・・・それは」

ここまで来ても秘密にしようとするのには意味があるんでしょう。
突発的な外傷は防ぎようがない、怪我したかったわけじゃないとは、私だって理解してる。
怪我したのを責めてるわけじゃない。でも今日みたいな騒動はもうカンベンしてほしい。こっちの寿命まで縮まるじゃないの。

あんなに真っ青な顔のあなたを見るのは、もう二度とゴメンだから。
今回は退かずに腰に手を当てて、壁にもたれて目を逸らすあなたをじっと見る。
「あっそう、妻に秘密なわけね?そんな秘密主義者じゃ、ある日突然内縁の妻とか隠し子が出て来ても不思議じゃないわねー。
覚悟しとくわ、それでいいんでしょ!」
突拍子もないたとえ話に、あなたはギョっとしたように顔を上げた。
「馬鹿な」

ここまで言えば怒られるかも。そんなのあり得ないって分かってる。
だけどそこまで言っても聞き出したい、私の気持ちも分って欲しい。だから言葉が止まらない。
「だってそうでしょ?私、いつも言ってるわよね?秘密にはしないで。何でも言って。
言ってくれれば絶対責めたりしないし、言うなって止められれば他の人に言ったりしない。
伝えてきたわ、それなのにまだ黙ってる。秘密にして、私にだけ・・・」
「イムジャ」
「秘密なんでしょ。ムソンさんが作ってる物のことで?私が知ったら何かまずいの?」
「・・・はい」
「ムソンさんの場所を教えるのも?」
「今は」

こんなにしつこく聞いても、頑として首を振られる。
「安全と判ればお伝えする。約束します」
ここまで粘っても譲らないのは、知ったら私が危ないから?
理由はそれしか考えられない。私も何にでも首を突っ込むから、そう思われても仕方ないけど。
それでも確かめておかなきゃいけないことがある。私の立場として。

「今夜3人が襲われたってことは、今もムソンさんは危険なの?」
「其処までは」
あなたは困ったみたいに首を少し傾げた。
「今宵の相手は単なる夜盗です。しかしこの先は判らない」
「ふぅーん、だからあんなに下手くそな創傷だったのね。でもこの後作ってる物が完成すれば、敵が増えるかもしれないんだ」

あくまで推測とはいえ、この人と一緒にいれば慣れても来る。
もともと頭の回転はいいんだから見くびらないでちょうだい。
得意げにあなたに言うと、イエスともノーとも言えないあなたは大きな溜息で返事をする。

「じゃあもう聞かない。聞いたのはね、私にも覚悟が必要だからよ」
「覚悟」
「そう。これからもムソンさんや、ムソンさんを守る限り迂達赤の誰かが怪我するかもしれない。
みんなあなたの大切な人だもの。薬や治療器具が必要なら先にストックしておかなきゃって思ったのよ。
麻酔も消毒薬も、縫合道具もね?出来れば血液型も調べたいし、輸血にも備えたい」

真面目すぎても、悪い方に考えすぎても仕方ない。ストレスばかりがたまるから。
だけど手術が続くなら、怪我人が運ばれてくるなら、逃げもしないし、目を逸らしもしない。
私たちの、あなたの大切な人ならなおさらよ。
医者としての意地、あなたの妻としてのプライドをかけて、絶対に助けてみせる。

少なくとも薬品が切れているとか、たまたま道具がないなんていう馬鹿げた単純ミスや、準備不足は起こしたくない。
それでその患者が、ましてやあなたが苦しむなんて絶対いやなのよ。だから事前に知っておきたかった。

「・・・仕方ない。いつか内縁の妻が出て来ても、ガマンしてあげるわ」
きっとあなたには伝わってる。
突然隠し子なんて言うくらい心配したのも、本当はそんな事これっぽっちも思ってないのも。
いつだって正直に言いたい。言って欲しい。
だけどあなたの立場では許されない言葉、私を守るために秘密にしなきゃいけないことがある。
私も聞きたい、聞いて欲しい、だけどあなたを悩ませるくらいなら、退かなきゃいけない時も。

きっとあなたには伝わってる。それが証拠に私の声に、あなたは渋い顔で頷いたから。

 

 

 

 

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