2016 再開祭 | 閨秀・序

 

 

【 或日 迂達赤 外伝 | 閨秀 】

 

 

「じゃじゃ、じゃあど、どうするんですか、副隊長!」
まるで興奮したテマンのように口籠るのはトルベ。
「お前でも焦るのか」
「お前でもって、どういう意味ですか!」

そうだ。それは失礼な物言いだな。如何に信頼する部下でも。
俺もトルベの事は言えん。焦りの余りこの舌が上手く回らん。
「す、済まん。女人の扱いには慣れているとばかり」
「それは自分と関わりがあればの話ですよ!相手は隊長、の・・・」

再び妙に口籠るトルベの声に頷き、どちらからともなく視線を上げる。
野次馬たちを蹴散らした後の、たっぷりと秋陽の射し込む吹抜の上階。
廊下奥の確りと閉ざされた扉。

たった今医仙と二人、籠られている筈の隊長の私室の扉を。

 

*****

 

突然来訪したアン・ジェ護軍との話を終え、隊長が部屋表へ出た。
「隊長、お出掛けですか」
階下の吹抜けで擦れ違った俺が声を掛けると、隊長は冴えぬ顔色のまま顎先だけで頷いた。

機嫌が悪いのか、気分が悪いのか。
医仙をお連れして戻って下さってから二日。王妃媽媽の一件もあった。
慌ただしかったのは判っているが、その強張った横顔が妙に気に掛かる。
「典医寺ですか」
俺の度重なる問いにうんざりしたような睨みだけが戻る。
慌てて口を閉じ頭を下げると隊長は黙って息を吐き
「・・・すぐ戻る」

それだけ言って鬼剣を手に、ふらりと兵舎の扉を抜ける。
何かあったのか。戦となれば流石に俺達にも話があろう。
護軍と隊長二人だけの話となれば、隊長の留守中に護軍が御前会議で辞退した都巡慰使の一件くらいしか思い浮かばん。

漠然と考えつつ、兵舎の庭を抜け遠ざかって行く背を目で送る。
疲れているのは判る。それが医仙に関わる事なのか、それとも王様と王妃媽媽の一件に関わるのか。
それでも口の重いあの人の声を聞くのは至難の業だ。まずは肚を読むしかない。

覚悟を決め扉内で踵を返すと、私室へ戻る。

王様の事なら未だしも、医仙に関して俺達が手出し口出しすれば隊長の雷が此方に落ち兼ねん。
ご自分以外は誰であれ、なるべく医仙との接触を避けているのが判る。
医仙の安全の為も無論あるだろう。だが隊長の真意はそれだけではないような気がする。

此度のあの表情の硬さがもしも医仙との事であるなら、隊長の声を待った方が良い。
自慢ではないが、俺は男女の機微には全く疎いのだ。
的外れな事を言って、これ以上隊長の気分を損ねる事はしたくない。

その時、出て行った隊長と入れ替わりのように兵舎の入口で聞こえた高い声。

「すみませーーん!!」

最初は空耳かと思った。まさか聞こえる筈の無い声だと。
今偶さかその事を考えていたから、そう聞こえたのかと。

「あれ?もしもーし?頼もーーう!?」

典医寺にいらっしゃる筈の方の声。兵舎で聞こえる筈がない方の声。
まさに今考えていたご当人の声に、私室の中で仰天して立ち上がる。
その拍子に蹴立てた椅子が騒々しい音で床を打つ。
それを直す暇もあらばこそ、慌てふためき自室の扉を開く。

吹抜先の入口へ脇目も振らず真直ぐ駆けつければ、開いた扉からの光を背負い、其処に立つ小さな影は間違いない。

「・・・医仙?!」

確かに医仙だ。先刻坤成殿でもお会いしている。
いや、お会いせずとも無論そのお顔を忘れる事はない。ないが。
「一体どうされたのです、その恰好は・・・!」

何故医仙が、迂達赤の麒麟鎧を着ているのか。
その小さな両手に、見るからに慣れぬ様子で握る剣は何なのか。
まるで俺達の髷のように、豊かな髪を上に纏め上げているのは。
そして何より、此処に居て当然とばかりに笑っておられるのは。

「あ、えーっとね。王様にお願いしたの。まだ連絡来てなかった?」
「・・・は?」
「王様が、許して下さったの。迂達赤に行っていいですよって。
王妃媽媽の拝診や急病や怪我人の時は、もちろん今まで通りに私が治療するけど、その時もここから通っていいって。
隊長には直接伝えたいってお願いしたら、副隊長には言っておくっておっしゃってたんだけど」

おっしゃっている事の意味が、全く判らん。
「・・・医仙、つまり・・・」
「そう。私、医仙と迂達赤隊員を兼任する事になったの!
王様は別に隊員じゃなくてもいいよって言って下さったけど、あの人は迂達赤隊員以外がここで寝泊まりするなんて、許さないだろうし」
「隊員」
「そう。王様から正式な入隊許可を頂いたの。この鎧も、それに剣も」

眩暈がするのは、気の所為では無いと思う。
王妃媽媽の一件がようやく落着したと思ったら、次はまさか医仙が。

何も知らない医仙は俺に向かい、嬉しそうに深々とその頭を下げた。

「迂達赤に配属されました!一番ペーペーだから2等兵くらい?ユ・ウンスです!よろしくお願いします!!」

 

 

 

 

ウダルチ内に隠れてた時の日常♪
ドラマ見ててお風呂とかすごくきになりました。
洗濯物とか、顔を洗うのとか、うたた寝…
男子寮に潜り込んだネタ系で美味しく(*^^*)(ルイリさま)

 

 

5 件のコメント

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    うんうん、ウンスはこんな感じで、迂達赤兵舎に向かっていったんだ…って思えます。
    可愛くて、屈託なく、徳興君から死ぬかもしれない毒を打たれても明るく笑えるウンス。
    高麗の迂達赤兵として、一番下~の地位だから、二等兵…。韓国仕込みで、兵舎に配属されるのですね。
    確かに、顔洗い、歯磨き、お風呂、厠、休息(毒を打たれているから無理して欲しくないもの)、食事…。男だけの中だから、気になることばかり。
    知りたいです!
    やはり、ヨンとの(甘い)関わりも…

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    こんな可愛らしい 2等兵が
    入隊したら 強面の迂達赤たちも
    タジタジでしょうね
    ヨンですら どうしていいやら~なのに
    接し方が… ふふふ
    ある意味 小悪魔だわ♥

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    さらんさんにリク聞いて頂けるなんて、
    感激です!!!!
    あの頃本当にこんなやりとりあったんだって
    目に見えるようです。ありがとうございます(≧∇≦)

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    実は…
    私もお風呂が気になっていました。
    そして何よりtoiletも(笑)
    ルイリさま
    楽しいお題をありがとうございます(^^)
    さらんさん流美味しいお話が
    楽しみです~~❤

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