2016 再開祭 | 気魂合競・丗参

 

 

「ねえ、トクマン君」
移動する集団の中、追いついて呼ぶとトクマン君が振り返る。
「はい、医仙」
「今日は他の・・・みんなは、来ないの?」
「イムジャ」

私の質問に、横で荷物を持ってくれてるあなたが止めろっていう顔で黙って首を振る。
でもこれでも遠慮してるのよ。ほんとだったら聞きたいわ。ハナさんは来ないの?って。
昨日の最終戦でトクマン君が勝てたのは、ハナさんの応援が理由だった気がして仕方ないもの。

だけど、キョンヒさまはおいでにならないかもしれない。
今朝手裏房に来た一団の中にチュンソク隊長の姿はないし、チュンソク隊長がいないのにキョンヒさまが観戦には来ないだろうし。
キョンヒさまがおいでにならないのに、ハナさん1人で観戦にっていうのは考えづらい。

昨日ヒドさんに負けちゃったチュンソク隊長が来るのか確かめるのは、いくら何でも無神経な気がする。
参戦しなくてもチュンソク隊長さえ来てくれれば、キョンヒさまもおいでになるかもしれない。
そうすればハナさんも来られるし、ハナさんが来ればトクマン君も頑張れるだろうけど。

これ以上の口出しをしていいのかも分からないから、つい聞き方があいまいになる。
そんな私の心を知ってか知らずか、トクマンくんは笑いながら
「隊の者らは鍛錬の合間に交代で、大護軍の取組を見に来ます」
とだけ言った。
その声に横のあなたが眉をしかめる。

そうよね。この人の応援団はこれ以上いらないのよ。
言ってみれば観客全員がこの人の応援団みたいなもので、おかげで私がどれだけ応援しても目立たないのはちょっと悔しい。
これ以上この人の応援団が増えるより、他のみんなの応援が増えてくれる方がずっと嬉しいんだけど。

「じゃあ、チュンソク隊長やテマンも来てくれるのかな?」
望みをかけてトクマン君に尋ねると、
「テマンは必ず来ると思います。隊長は今日は康安殿の衛なので、いつになるのか」
トクマン君は残念そうに、小さな声で呟いた。

 

*****

 

昨日までの酷暑とはうって変わった曇り空。御部屋の中には開いた窓から、涼しい風が流れ込む。
今日の決戦の取組もこれなら多少は楽だろう。そんな事を考えながら、康安殿の階上の王様の執務机の脇に佇む。

「迂達赤隊長」
康安殿内の玉座に腰を下ろし、上訴文をお目で追ったままの王様に呼ばれ慌てて背を正す。
「はい、王様」

王様は文からお目を上げず、ゆっくりとした口調でおっしゃった。
「昨日は苦労であったな」
「いえ。結果が出せず、申し訳ありません」

迂達赤隊長としては是が非でも勝ち残るべきだった。
他にどれほどの兵が勝ち残ったとしても、たとえヒド殿と当たったとしても、戦は結果が全てだと俺達は誰より知っている。
いたたまれずに頭を下げると王様は俺の心中を推し量って下さったのか、穏やかなお顔を上げて玉座から脇の俺をご覧になった。

「そなたが気に病む事はない。勝負は時の運だ。勝ち残った者らがそなたより強かったという意味ではない」
「・・・恐れ入ります・・・」
そうして慰めのお言葉を頂くほど、より肩身が狭い。
角力大会が公示されて以来十五日余り、今までになく毎日の鍛錬をしてきたつもりだ。
それでもヒド殿には、全く歯が立たなかった。

自分の不甲斐なさ、俺の姫の前で負けた悔しさ、そして目標であるあの人は勝ち残っているのにという情けなさ。
何処が悪かったのか。鍛錬の仕方か、それとも実力の差かと、昨夜布団に入ってからも眠れずに、数え切れぬ寝返りを打って悶々と考え続けた。

目の前に聳え立つあの人は余りに大き過ぎ、その眼が見る景色は想像もつかない。
超える事など夢のまた夢、そこに追いつく事すらも出来ない。
今の俺が感じる焦りを、あの人は感じた事などあるのだろうか。
誰かに憧れ、追いつきたいと願い、力も人望もその足許にも及ばず、己の無力さに呆れ苛立つ、そんな思いを。

無言で頭を下げ続ける俺を見兼ねたように、王様は逆脇に静かに控える内官長殿に呼びかける。
「ドチヤ」
「はい、王様」
「今日は特に予定はないな」
「はい。御前会議も都堂も、ご拝謁も軍議の予定も・・・」

そこで内官長殿は、はっと気付かれたように激しく首を振る。
「なりませぬ、王様。たとえご予定がなくとも、主立つ迂達赤は市井の角力大会に出場しております。
何より迂達赤大護軍が出場しており、王様をお守りできませぬ。お忍びで城下へ出るのは」
「ああ、判っておる」

王様は気まずそうに苦い笑みを浮かべられる。
「しかし取り立てて予定がないのなら、康安殿の衛は迂達赤隊長でなくとも良かろう。余に代わり、隊長に大会の視察を頼みたい」
「それでしたら宜しいかと」

内官長殿は途端に手の平を返したように顔を綻ばせる。
同意を得られた王様は満足そうに頷かれると
「大護軍の口の重さでは、どうも正しい報せが聞けるとは思えぬ。
迂達赤隊長は余の名代として大会の経緯を見て参れ。後で委細を報せるように」

その後で何気ない素振りで俺をご覧だったお目を今一度、お机の上訴文へと戻されつつ
「敬姫を連れて行くが良い」
と、続けて小さなお声でおっしゃった。
「・・・は?」

王命での外出かと思い込んでいた。役目である以上、キョンヒ様をお連れするなど思いつかなかった。
その御心が判らず、無礼にも尋ね返す俺に向け
「姫も市井に慣れねばならぬ。この後は迂達赤隊長の妻女としての務めがあろう。今のうちに慣れねば、後々苦労をするのは本人だ。
そなたが参れば、銀主翁主も厭な顔はすまい。迎えに行くように」

微に入り細を穿ち、お仕えする主君にこのようなご配慮を賜るようでは、あの人には到底及ぶべくもない。
そんな情けない思いを胸に、俺は王様へと改めて頭を下げた。

「・・・畏まりました、王様」

 

 

 

 

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3 件のコメント

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    王様、ありがとうございます。
    護衛を兼ねて、チュンソクさんがキョンヒ様を
    市井に連れ出せれば、ハナさん…一緒ですよね。
    トクマンくんの応援してもらえるかも。
    ウンスがホッとするし、穏やかなウンスを見ていると、ヨンが安堵するから…、総て丸くおさまるかな。

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    いい意味で王様ナイスです(^^)違う意味で王様は窮屈な立ち位置ですね(^_^;)安易に外出すらままならない…他のみなさんも立場や位が違えど複雑な立ち位置…安易な行動はしずらい…読むとたまに複雑なシーンがあり表現が…二次作者は凄いです。ありがとうございます(^_^;)

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