2016 再開祭 | 気魂合競・捌

 

 

「角力とは」
「あの、角力でございますか」

久々に伺ったキョンヒさまのお部屋。
向かい合うキョンヒさまが首を傾げて私のそのまた後ろ、扉の横に控えているハナさんの方を伸び上がって見た。
普段は私たちの会話の間にめったに口を開かないハナさんも、思いがけないキーワードに不思議そうな声を上げる。

「そうです。大会をするんですって。だから迂達赤はみんなハード・・・えーっと、すっっごくきつい訓練の真最中で」
「だからチュンソクがあのように疲れているのか」

ようやく納得できたようなお顔で、キョンヒさまがこわばっていた肩の力を抜いた。
ここぞとばかりに頷いて、今度は私の声に力が入る番。
「はい。だから今日はそのことで。もしよかったら当日、キョンヒさまとハナさんが応援に来て下されば、チュ」
「絶対に行く!!」

言葉が終わらないうちに、勢いよくお返事が返ってきた。
「もし私が行っても良いなら、チュンソクのお邪魔にならないなら行きたい!!」
キョンヒさまはお机の上座から私に向かって身を乗り出して、叫ぶようにおっしゃられた。

そうそう、こういうところも変わらない。
とことん一途で、チュンソク隊長のことが大好きなところ。
こんなきれいな可愛い婚約者に応援してもらってれば、チュンソク隊長も意地でも絶対負けられないわよね?

本気で勝負してもらわねば、意味がないのです。

マンボ姐さんの酒楼のミーティングの翌日、媽媽のお部屋で聞いた叔母様の声を思い出す。
ごめんね、ヨンア。
あなたにとってはちょっと面倒になるかもしれないけど、でも私のあなたは誰にも負けないってよく知ってる。
心の中で太極旗・・・はまだ存在しないから、応援旗を振って大声でうんと応援してるから。

絶対負けないで。
キョンヒさまもチュンソク隊長も、タウンさんとコムさんも、ハナさんとトクマンくんも、手裏房のみんなも大好きだけど、あなたが私の世界に1人きりのヒーローだから。
どうか絶対にケガしないで、そして勝って最後に私を助けに来て。
心の中でこっそり神様に祈りながら、私は目の前で興奮しているキョンヒさまに笑顔を向けた。

「あと1週・・・7日後です。もしよければ一緒に。念のため、一応チュンソク隊長にもお許しを得て下さいね?」
私の声にキョンヒさまは、小さな女の子のように素直に頷いた。

 

******

 

今年の梅雨って、ほんとにどうなってるの?
あんまり安易に使いたくないけど、異常気象って言葉がつい頭の片隅をよぎっちゃう。

マンボ姐さんとのミーティングの翌朝。
回診にお伺いしたお部屋は窓から差し込む強い朝日で、いつもと同じ時間なのに眩しすぎる。
湿度が低いおかげで風がサラっとしてるのが救い。
これで風まで熱かったら、もう完全に夏が来たとしか思えない。

水不足は21世紀でも深刻だったけど、今年は冬にかけて気を付けなきゃいけないかも。
こんな早くから暑くなってたら食中毒も怖いし、雨不足で不作が続いたら冬に餓死者が続出することだって考えられる。
そうならないための予防策、そして医療体制。あの人とキム先生にちゃんと確かめておかなきゃ。

頭の中のメモ帳に書き込んで、脈診の後のお袖を直しておいでの媽媽を呼ぶ。
「媽媽、お・・・チェ尚宮様」
「はい、医仙」

媽媽はチェ尚宮の叔母様にお手伝いされながら、私の呼んだ声にお袖を見ていた視線をこっちへ向ける。
そして叔母様は媽媽のお袖をきちんと整え終えてから、媽媽の横で無言のまま姿勢を正した。
「あの・・・あの」

お呼びしたものの、昨日のことをどこまで媽媽の前でお伝えしていいんだろう。
私が賞品になったこと、言っても大丈夫なのかしら?
叔母様が媽媽のご不興をこうむったりしない?

加減が分からなくて叔母様を見ると、叔母様の方もすぐ気がついて下さったんだろう。
それ以上私が話す前に媽媽に頭を下げて、静かな声で言った。
「王妃媽媽。予てよりの件、昨日医仙と迂達赤、手裏房の者らに伝えて参りました」
そして媽媽もそれだけで何のことか分かったみたいに
「そうであったか」

首をほんのちょっとだけ叔母様の方に動かしてお知らせを聞いた後で、もう一度視線を私に戻す。
「医仙にも大護軍にも、お手数をおかけいたします」
「え?媽媽も、私が賞品ってご存知なんですか?」
「・・・賞品とは」

え?え?ご存じだったんじゃ、ないんだろうか?
どうして媽媽までびっくりされたように私を見つめてるんだろう。
「チェ尚宮」

さっきまでは首から上だけで横を見ていた媽媽は、今度は完全に椅子の上で体ごと叔母様へ向き合うと、少し険しいお顔とお声で呼ばれる。
「はい、王妃媽媽」
「そなた、一体どのような話をしたのだ」
「申し訳ございません。如何にせん迂達赤大護軍の意志が固く、医仙の力をお借りしないと出場が危ぶまれましたので」
「それで医仙を賞品にすると申したのか」
「はい、王妃媽媽」

何のことだろう。話の筋が読めそうで読めない。
あの人が出場しなそうだから、って、昨夜話してた角力大会のことよね?
「媽媽。叔母様。私・・・」

媽媽が叔母様を怒るのは見たくない。叔母様が媽媽にお詫びするのも同じ。
大好きなお二人が気まずくなるのはイヤよ。それも私のせいで。
私の声に媽媽はお声を切って、もう一度振り向いて下さった。

「申し訳ございませんでした。大護軍もさぞや不快だったでしょう。
それではまるで、医仙を物のように遣り取りすると思われても無理はありません」
「いえ。叔母様や媽媽がそんな方々じゃないこと、私が一番よく知ってますから」

確かにあの人はそう言って怒ってましたとはお伝えできずに、私が苦笑すると
「本気で勝負してもらわねば、意味がないのです」

叔母様は私を諭すように、低い声で静かに言った。

 

 

 

 

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2 件のコメント

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    ウンスが景品って
    王妃様も知らなかったんですね。
    「私を助けにきて」
    どういう意味なんだろう?
    いくら強くても
    ヨンが勝つとは限らないし…
    何だかドキドキしてきました(^-^;

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