「トクマニ」
捻挫したあの男を送ってから戻った迂達赤兵舎。
医仙を典医寺へお送りした後、一足遅れて戻った大護軍から早速私室に呼び出された俺は、その一声に背を伸ばす。
大護軍は部屋内の三和土に腰を下ろして、目前で直立不動の姿勢を取った俺を見上げた。
立って並べば俺とほぼ同じ高さの目線を持つ大護軍に、そうして見上げられると妙な気分になる。
立ったまま大護軍を見下ろすのが厭で、無礼な気がして、俺は何とはなしに視線を逸らしてしまう。
「はい、大護軍」
「先刻の若造」
「ああ、あの生意気な・・・」
いや、よく考えてみたらあの若いのは、最初から別に何ひとつとして生意気な事を言ってはいなかった。
俺に対しての伴の無礼を諫めてたし、礼儀も弁えていたし。考えれば生意気なのはあの伴の方だったと、俺は言葉を改める。
「いえ。あの、西京の」
「・・・・・・」
しかし大護軍にしてみると、医仙の膝枕の一件であの男を許さないとでも決めたのか。
俺が口調を改めたのすら気に入らないように、口端を不機嫌そうに歪めてほんの少しだけ頷いた。
「あの男が、何か」
「医仙に従け」
「えぇっ?」
男の話と思って聞いていたのに突然出て来た医仙のお名前に、間の抜けた声を返してしまう。
でも大護軍の中では辻褄が合っているらしい。
物分かりの悪い俺を諭すように、大護軍は三和土からゆっくりと腰を上げ、窓の外の五月晴れの空を見た。
その青い空の下、一足先に昼の鍛錬を始めた奴らの声が鍛錬場に響いていた。
「捻挫が完治するまで」
「ですが、大護軍は医仙とご一緒には行かないんですか」
「鍛錬が詰まっている」
「それは・・・そうです、けど・・・」
俺も、俺と同じ、いや、俺より大護軍を尊敬して何でもしたがるテマンも。
もちろん隊長始め、他の隊員は言うまでもない。みんな大護軍の為なら何でもしたい。何でもする覚悟だけはある。
その気持ちだけは充分あるが、大護軍の代わりに鍛錬を付ける事は誰にも出来ない。
武術の技量、腕の差、そんな問題ももちろんあるが、何より大きいのは鍛錬を受ける側の心構え。
俺達が大護軍に受けている鍛錬通り鍛錬を付けても、教え手が大護軍でないと鍛錬を受ける兵らが納得しない。
迂達赤ならともかく、大護軍みたいに他営まで行って鍛錬を付けるなんて、絶対に無理だ。
行ったとしたって時間ばかり無駄にして何ひとつ成せず、すごすご戻って来る破目になる。
分かっているから大護軍も苦い顔をしているんだろうし、ご自分がついて行きたい気持ちを忍て俺に言っているんだろう。
でも、少なくとも護衛なら。
あの若いのが二度と医仙の膝枕に寝たりしないように、体を張って阻止する事は出来そうだ。
逆に言えば、それくらいしか大護軍を手助けできない。
嫌と言う程判っているから、俺はそれ以上四の五の言わず頷いた。
そしていつもなら大護軍が迎えに行くはずの刻に、俺が典医寺に出向いた。
医仙は何故かキム御医と共に意気揚々と、昼に訪れたばかりのあの若い男の宅まで向かった挙句。
「申し訳ありません」
あの若い男の住む、大きな屋敷の門の前。門番が俺達に向かって深く頭を下げた。
俺達三人は目の前で恐縮し、頭を下げる門番を見詰める。
春の日差しの中で確かめる、門番の顔色が大層悪い。
男は三組の視線にさも言い辛そうに下を向き、精一杯体を縮めて囁いた。
「医仙様以外は、お通しするなと・・・」
その声に
「え?」
と耳を疑うように確かめる医仙と
「・・・ほう」
と何故か予想していたように微笑んで頷くキム御医と
「一体どうして!」
と叫び返す俺の、三組の声が重なった。
「それってテギョンさんが言ったんですか?こっちの男性はさっきは一緒じゃなかったですけど、典医寺の、王様の侍医です。
決して怪しい人じゃないです」
医仙はご自身だけが名指しされた理由も思い当たらないんだろう。
納得できないとありありと判るような、不満げな声で尋ね返す。
門番の男は曖昧に首を捻り
「どなたのお気持ちかは・・・ただ上からそう言われております。坊ちゃまに御客人がいらしたら、医仙様以外はお通ししないよう」
先刻よりももっと言い辛そうに、小声で言って頭を下げる。
「大護軍様のお連れ様も、御医様も・・・本当に申し訳ありません。お許しください」
「出来ませんよ!」
他の御二人が何か言う前に、まず俺の声が響き渡る。
門番の男のせいではないだろう。上の者、と言うのが誰なのかも知った事じゃない。
「俺・・・自分は、迂達赤大護軍から言い付かっています。医仙から離れる訳に行きません、絶対に!医仙だけでは行かせません!」
断固として言い張る俺に困り果て、門番は何度も頭を下げる。
「畏まりました。もう一度、確かめて参ります。門前で申し訳ないですが、少々お待ち頂けますか」
険悪な空気の中で、取り成すようにキム御医が
「勿論です。申し訳ありませんが、私も診察がしたいとお伝え頂けませんか」
穏やかに添えた声に門番は慌てて頷き、門内へ駆け込んで行った。

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誰の指図なんでしょう??
若様だったら
ちょっと遣り過ぎ何では!
こんな事ヨンが知ったら…
チャン先生
貴方だけが頼りです(^-^;
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「ええええええ!」だわ
そんな 医仙だけって…
大胆(笑)
かなり重症な模様
鍛錬云々言ってますが
若造見てると イラッとしちゃうよね
ビリビリビリ… 放電しちゃう(笑)
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先程のコメントに
キム先生にお願いのはずが
チャン先生に
お願いしてしまいました(^^ゞ
私も 熱が?(苦笑)
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こんにちは!さらんさん!
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チェヨンが、話す言葉が頷けてすごいなぁ~と思ってます。
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