【 気魂合競 】
夏越月の晴れ空には雲一つない。
何処までも澄み渡る青が続く空を見上げ、滴る汗を腕貫で拭う。
革に黒く染み込んだ汗を確かめ、思った以上の重さに息を吐く。
滴るほど汗をかくなど久々だ。
口で何を言おうと、心を乱さぬよう努めようと。
平常心を保ち振る舞うよう心掛けようと、黒い染みが総てを物語っている。
無言で鍛錬衣のあちこちの土埃を払う。
最後に黒く変わった腕貫で顎下を拭うと、目前の桟俵に腰を低くし肩から突込む。
大の男二人でも動かすには骨を折る、二抱えはありそうな桟俵。
重いそれは地に挿した支柱ごと、みしりと鈍い音で揺れた。
*****
照りつける光から逃れる木陰は遠い。
いつも広く感じる鍛錬場だが、今日の大きさはいつも以上に思う。
空梅雨のお陰で泥濘がないのは幸いだが、その代わり一歩出す毎に足元から立つ砂埃が眼に入る。
それがしとどに落ちる汗に混じり、顔中がざらざらと汚れていく。
それを拭う間さえない。すぐ横で足音が聞こえる気がする。
あの人が本気で追い駆けて来れば、追い付ける機会は絶対にない。
だから足は止められん。少なくとも半歩でも前にいる限り。
見えない丈高い姿を振り切るよう、俺は鍛錬場に身を投げた。
*****
面倒だ。
黒鉄手甲を逆手の指先で辿り、吐きそうな澄空から眼を背ける。
何故手裏房までをこんな馬鹿げた勝負に担ぎ出す。
王とやらに仕える奴らのみ騒いでおれば良いものを。
それでもあの老獪な手裏房の女主と、そして女主と長い付き合いのヨンの叔母に乗せられた。
空から眼を背け、地を見たまま深く息を整える。
判っておっても乗る以外、他に何の手があった。
老獪な女狐二匹には、最初からそれも計算のうちだったのだろう。
手裏房がどれ程王に重用されようと、それは表にあのヨンが在り、そして裏に叔母が在っての事に違いない。
故に金子の匂いを嗅ぎつけた手裏房の女主は嬉々として、俺達に声を掛けて来た。
ヨンの叔母は俺達が、少なくとも俺が身動きできぬような賭けの景品を突き付けて来た。
思い出すだに腹が立つ。
しかし隊長の旧い知人でもあり、赤月隊を陰に日向に支援してきたヨンの父の実の令妹でもある。
俺も見知っている。まして弟の叔母となれば、俺にとっても身内同然。口汚く罵る訳には行かん。
退路を断ってから戦を仕掛ける戦法が、甥によく似ている。
誰に怒りをぶつける訳にも行かず、俺は奥歯を噛み締めた。
*****
「只とは言わぬ。景品をつけてやろう」
あの夜、女主と並んで東屋の卓に腰掛けたヨンの叔母の声が蘇る。
居並ぶ俺達手裏房と、そして迂達赤からの代表としてその場に顔を出したヨン。
従いたテマン、そして既に互いに顔を見知った迂達赤隊長とチホに槍を習うトクマンという男を前に。
「王様と王妃媽媽より、畏れ多くも、米俵と金子」
その声に女主の目が輝き、すかさず俺達に声が飛ぶ。
「お前ら、判ってるだろうね!」
その声にチホとシウルが渋々頷き
「だけどさ、マンボ姐さん。相手は旦那だぜ。俺達じゃどう足掻いても勝てっこねえだろ」
そんな泣き言には耳も貸さず東屋に続く石段から腰を上げた俺に、
「どこ行くんだい、ヒド!」
女主は鋭い声を掛けた。
決まっておろう。寝床に帰るのだ。烏も夜になれば山へ帰る。
呆れて太い息を吐き、老獪な女狐らに言い渡す。
「米にも金にも興味はない」
「あんたがなくても、あたしにゃ大ありなんだよ!」
「ならばマンボが出るが良かろう」
「ふざけた事をお言いでないよ!ヨンと互角に戦えるなんざ、手裏房の中でもあんたくらいしかいないだろうが!」
そんなもの知った事か。ならばヨンが米も金も持ち帰れば良い。
俺以上にその何方にも興味のない男だから、米は名無しで何処かの貧民幕に届くか、大慈悲院に届くかも知れん。
少なくとも誰かの命を繋ぐ役には立つ。
そうすればあの女人が小躍りして喜ぶだろう。
「とにかく俺は御免だ」
その声が合図だったかのように、ヨンも顔を顰めて席を立つ。
「ヒドが正しい。鍛錬の一環なら未だしも、金や米に釣られる兵は迂達赤にはおらんぞ、叔母上」
そして叔母と女主は目を見交わして、聞きたくもない声を吐いた。
俺が、手裏房らが、迂達赤らが、そして誰よりヨンが絶対に断れぬ景品がぶら下がっていると知らしめる為に。
女主と叔母の横、俺達の様子を不安げな視線で見回す女人の肩に手を置いて。
「もう一つの景品は、この医仙だ」
「・・・はいぃ?!」
女人の素頓狂な声が、夕の東屋に響き渡る。
そして並んだ女狐らの顔に、してやったりとでも言いたげな笑みが浮かんだ。

武術大会開催~♪
手搏のみの競い合い!
誰でも参加OK!
優勝賞品は・・・ウンス(笑)
ヨンとヒドが戦うとどっちが強い?
(☆Lily☆さま)
本当に・・・昨日の記事でもお伝えしましたが。
間の抜けた事この上ない感、申し訳ありません。
あと2つ残った【 2016 再開祭 】リク話のうちの一篇です。
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そりゃ 大変だ
ウンスが… 景品?!
ヨンは出ないわけにはいけないし~(笑)
ってか 景品になった ウンスは… (゜д゜;)
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意味も分からず読み…途中心境語りべヒドさん?と思いながら終わりに景品が医仙…ウンス…えぇ~!!と一読者も内心叫んでみました!Σ( ̄□ ̄;)何がどうしてどうなって…先が気になる(^-^;)ありがとうございますm(__)m
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あら?
ウンスも知らなかったんだ(^o^;)
負けず嫌いなヨンとヒド。
でも…大事な弟の為に負けるかな?
ヨンには悪いけど…
ヒドさんに勝って欲しいなぁ~(笑)
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うっわー(๑>◡<๑)
ご褒美が天女様
でもって、にいちゃんと弟ヨンさんだぁ…
Σ( ̄。 ̄ノ)ノ
マンボ姐さん、何を狙ってい為さるの
にぃちゃんは弟に弱い
よっぽどの事で釣らないと!
うっわーぃ(๑>◡<๑)
ごめん…さらんさん
ヒドさんに一本あげてーーーーっ
にゃはははは(((o(*゚▽゚*)o)))♡