2016.05.06 貴音～序～さらん

2016 再開祭｜貴音～序・縁側～

触れても変わらない。
少なくともあの首を振られた夜を境に、その前との違いが判らん。
もっと深く触れあえば、何かが判るのかとも思う。
俺だけが知るこの方を辿れば、何か気付けるのかもしれぬと焦る。

それでもこうして膝に抱けばそれだけで満足で。
それ以上この方が望まぬ事は、何一つ仕掛ける気も起きん。

ただ首を振られたあの夜から、こうして夕刻になると膝にこの方を抱き、何かを確かめようと触れてみる。
寝台の上ではそれ以上を求めているとこの方が気を揉まぬよう、敢えて何処からでも目につくこの縁側で。

その柔らかな髪に指をくぐらせる。
近頃凝っているように感じる細い項から肩にかけてこの指で揉んでほぐす。
そしてこの方が嬉し気に暖かな息を吐けば、もうそれで満足で。

それでは何の解決にもならん。それでも心の何処かで思う。
この方は天の医仙。この方が判らぬ病があるわけが無い。
そしてもしもこの方を奪う程の大病であれば、こうして触れる俺が気付かぬわけが無い。

この方は何も言わない。そしてこうして触れても感じない。
そうであれば大病ではない。ただ今は、何処かが本調子ではない。
それなら己に出来るのはただゆっくりと休ませてやる事だけだと。

「心地良いですか」
肩を揉みながら尋ねれば、この方が小さく笑う。
「うん、すっごく気持ちいい。上手ね」
「何より」
「いっそマッサージ師にでも転職する？」
「まっさーじ師とは」
「ああ、お客さんがお金を払うから、その人のコリとかをこうやって取ってあげる仕事よ」
「･･･無理です」

その返答にこの方が膝の上で笑う。
「冗談よ」
無理なのは、其処に心がないからだ。
それを判って言っているのだろうか。

夕刻の春の宅の庭。
ゆっくり金茜に染まる西空を背景に響く黄鶲の声に、この方が首を傾げる。
「ヨンア？」
「はい」

振り返る瞳に向けて体を倒し、背後から細い肩を包むように両の腕を廻す。
きつくないよう、寒くないよう。
「この声、なあに？この鳥」
「黄鶲です」
「きびたき」
「高麗では春に啼きます」
「春の鳥なの？」
「はい」
「きびたき」

言葉を覚えたての幼子のように繰る、その声を聴くだけで満足で。
「覚えましたか」
そう確かめると頬を撫でる亜麻色の髪が、小さな頭と共に揺れる。

「庭、きれいね」
「はい」
「もう少ししたらコムさんとタウンさんと一緒に、薬草摘みするわ」
「手伝います」
「ヨンアも？」
「はい」
「じゃあ、その時はよろしくね」

二人並んで眺める、この方から俺への想いに溢れる宅の庭。
嬉し気な声にもう一度頷き、タウンへの確認のためにその肩に手を添えて膝から降ろし、縁側から腰を上げる。

32 件のコメント

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今の所何も感じ無いのね。
変わらなくてもお腹の中では1日1日と命が力強く育っているはず
もっと深く触れ合えば分かるかも知れないけど不調を知っていてそれ以上は求められないですよね～
膝にウンスを乗せて肩揉みしてあげるヨン❤️
素敵です♪
しかし妊娠すると感性豊かになったり普段目にしていても気にならない事が気になったり色んな変化がありますよね。
今しか体験できない事、2人で育めたら素敵ですね！

32 件のコメント

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