「また来てね、テギョンさん」
門の前で見送る私たちに、テギョンさんの困ったように笑う目が私じゃなくてあなたを見た。
「・・・様子を見せに」
並んだあなたはその視線を受け止めて、口を尖らせながら渋々低い声で言った。
言われたとたんに、テギョンさんの顔が嬉しそうに輝く。
私が言うよりずっと嬉しそう。カウンセリングの効果は絶大ってところかもね。
「はい、大護軍様!」
テギョンさんは頷いて、それから私にも頭を下げた。
「奥方様も、本当にありがとうございました!」
「とにかく無理はしないでね。あと1週間くらいは様子を見て」
「判りました。また伺います」
「うん。私も、薬を持ってくわね」
「いえ、もう町の薬房でも手に入れられるので、本当にお気遣いなく。是非お二人で、次は我が家にもおいで下さい。
この立派なお邸に比べると、何の面白味もない苫屋ですが」
この人はそんなテギョンさんの声に、
「謙遜も過ぎれば厭味だ」
って、ぼそっと言う。確かにね。あのお家は立派だもの。私もこの人の声に同意して、横からうんうん頷いてみる。
テギョンさんはうーん、と考え込むように春の空を見上げてから
「判りました、気を付けます」
顔を戻して、ニッコリ笑った。
本当に素直なんだなあと、そんな様子を見て思う。
周囲にいろんな雑音はあったとしても、根は素直でいい人。
今そんな事を言い出したらまたこの人に誤解されそうだから、口が裂けても言わないけど。
「本当に、お待ちしています。是非おいで下さい。前回は碌なおもてなしも出来ずに失礼だったと、家令も心配しています」
この人が頷くまで、この会話は続きそう。
テギョンさんは一生懸命言いながら、この人が首を縦に振るのを待ってるみたい。
その気配に気づいたのか、あなたは仕方ないっていうように息を吐いて頷いてみせた。
「ああ。暇が出来たらな」
ようやく安心したみたいに、テギョンさんは満面の笑みで頷いて
「では、今日はこれで失礼します!」
最後に膝におでこがぶつかるくらいに深く頭を下げると、うちの前の一本道を何度も振り返りながら、大通りの方へ歩いて行く。
その歩き方にも安定感がある。後姿を見送りながら
「もうだいじょうぶみたい」
って呟くと、たぶんあなたも同じように様子を見てたんだろう。
「ええ」
そう言って、横の私の方へ向き直った。
「イムジャ」
「なぁに?」
「共に来て欲しい処が」
「え?デート?!」
思いがけないあなたの誘い。嬉しくて思わず大きな声が出る。
最近典医寺の仕事とテギョンさんの診察でいつも忙しかったし、この人もみんなのトレーニングに忙しそうだったし。
懸想だのなんだのって話も、何となくバタバタ立ち消えになった感じだったし。
2人で気分直しに出かけられるならって期待する私の目をまっすぐ見て、あなたははっきりと首を横に振った。
「手裏房の酒楼に」
*****
「こんに」
いつも通りの明るい声が、昼下がりの酒楼の庭先に響く。
だが駆け出て来るはずのチホやシウルの出迎えもなく、マンボの姿も見えない事で、その声は尻すぼみに小さくなった。
「ちは・・・?」
尻すぼみの最後を上げて、鳶色の瞳が俺を見上げる。
確かに昼下がりの酒楼は、いつも訪う宵とは雰囲気が違う。
屯する客は殆どが市井の者らで、俺とこの方を見て飯を掻きこむ手を止め、にこやかに頭を下げる。
「お出掛けですか、大護軍様、奥方様」
「いつ拝見しても仲がよろしいですね」
こいつらからはそう見える訳かと、敢えて何も言わずにおく。
奴らには怒鳴られ、民らには褒められ。
そして先日の騒動を知らぬこの方はそれに一々嬉し気に微笑み、照れたように、そしてにこやかに頷いている。
一昨日の今日で連れて来たのが正解だったかどうかは判らん。
けれど誤解を解くにはこれしかない。
この方が誤解され続けるのは、互いの為にならない。
この方にも言い分があろう。無論奴らにも。
あれこれ言うなら陰ではなく、面と向かって言い合えば良い。
それで誤解が解ければ吉。解けぬならあの当人を連れて来てやる。
わざわざ鍛錬まで付けたほどだ。それを見極める為に刻を割いた。
確かに想いを寄せはしたのだろう。それを認める口ぶりだった。
俺にも詫びた。知らぬとはいえ気を悪くさせたと。
恐らく父親の連れて来た妾と息子の事で、家内が揉めるのを見て来たのだろう。
己が俺達にとってその理由になるのは、あの気質からして耐えられなかったに違いない。
あんな風に妙に周囲に気を廻す男が、今後同じ轍を二度踏むとは思えん。
残るはヒド、そして手裏房や迂達赤の奴らの妙な誤解を解かねばならん。
いや、誤解とも言い切れんと、俺は一向に姿を現す気配のない離れの方へ眸を向ける。
俺を怒鳴りつけたように、この方にも堂々と言ってみろ。
この方もそれが誤解なら、黙ったままで聞いてはおるまい。
下らぬ事で家族がいがみ合う必要はない。燻るものがあるならば俺が風穴を開けてやる。
痺れを切らした俺の
「シウル、チホ!」
と呼んだ大声は、さすがに奴らも無視できなかったか。
離れから駆け出して来た二つの影の後、呼びもせぬ墨染衣に肚の力を入れ直す。
たとえ兄貴とはいえ、この間のようにもしこの方を怒鳴るなら。
ヒド。どれ程長い付き合いだろうと、その時は俺も容赦せん。

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ヨンのカウンセリングも終わって
後は ウンスにオカンムリな 手裏房に迂達赤の
誤解をとかないとね
このままじゃ
ウンスもかわいそう… って
こんなことじゃメゲないかも♥
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ヾ(`・ω・´)ゞ オー!! いよいよスリバン方と
対決???
いや、なんだか、これにも裏がある??w
確かに、彼らが大切にしてるのはヨンさんだけれど
あそこまで言うのは、なんだか不自然な気もして。。
うーん。考えすぎ、でしょうか(*'-'*)
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やっぱりヨンは
ウンスに甘すぎる( ・ε・)
此度のウンスには
ヒドからガツンと言って
欲しいです!
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ウンスは、テギョンさんの心の傷を癒せるのは自分ではなくヨンが最適。ヨンにしかできないとわかっていたのね。
そして、ヨンもウンスのその気持ちに気づいたから、的確に対応したのでしょう。
互いをだれより信頼し、理解し合えるのがさらんさんちのヨンとウンスの素晴らしさだと思います。
テギョンさんはすっかりヨンのファンになっちゃったみたい。
ヒド兄さんも大好きなキャラクターなので、たくさん登場してほしいけど、今回はちょっとぶつかっちゃいましたね。でも、なんだかんだいっても二人の応援団じゃないのかな。
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ウンスの場合夫であるヨンアの誤解はときそうだけど自分の誤解はそのままにしそうだよね?散々周りに言われてごめんなさいm(__)mで反論しないで終わらせそう。みんなの言ってることは間違いじゃないよと…ウンスは言わないか…分からない…ありがとうございますm(__)m