2016 再開祭 | 木香薔薇・廿伍

 

 

認める事は出来ない。病弱な嫡男では駄目だ。
スンジュンを守る為、俺はいつでも健康でいなければならない。
否定も出来ない。何もかも見通す薄茶の目を。
隠した俺の寝汗も痛みも、偽りなど一言もおっしゃっていない。

痛みますかと聞かれれば、痛みませんと痩せ我慢できる。
軽くなると断言されるならウンス様には確信があるのだ。
俺と会ってまだ二日で、何故そこまでお判りなのだろう。

俺の眠りが浅い事、寝汗が酷い事、右腹が鈍く痛む事まで。
ソンヨプですら、俺の寝たふりを見破った事はないのに。
これこそ医仙様の医仙様たる所以かと思いながら、それでも頑なに首を振る。
痛みや汗は否定出来ないにせよ、一つだけどうしても無理がある。

「でも、ウンス様。私は東班の息子で」
「・・・うん。貴族の息子さんなのよね?それで?」
「え」
それで、と返されてしまったら。
「ウンス殿」

そこで初めて御医殿が、苦笑しながら言葉を添えた。
「東班とは文官貴族、通常あまり武には親しまないのです」
「そうなの?」
ウンス様は最初に思った通り、やはりどこか余所の方なのだろうか。
高麗であれば誰もが知る事に目を瞠り、俺の顔、そして御医殿を交互に見る。

「ダメなの?だってあの人自身、お父様は有名な文官でしょ?でも誰も文句言わないじゃない」
「ウンス様、チェ・ヨン大護軍様と我が家は格が違います。崔家は高麗創国から代々名文官を輩出されている、高麗十指に数えられる名門中の名門貴族で」
「気にすると思う?」

俺の声はどう受け取られたのだろう。
ウンス様はそれを聞き流すように、再び御医殿へ尋ね返す。
このまま話が進んでしまっては困るから、俺は慌てて声を張った。

「ウンス様、チェ・ヨン大護軍様ほどのお力があれば、今更誰も何も申しません。
ご実家は秀でた文官として代々国を守り、そしてご本人様は勇猛果敢な無敗武将として国をお守りで」
「ああ、そういうんじゃなくて。文官とか武官とか、誰が何をするとかを、あの人が」

御医殿はそんなウンス様の声に、困ったように首を傾げる。
それでもウンス様は止まらない。
「ねえテギョンさん、どうしてあの人はいいのに、テギョンさんはダメなの?武士になるって決めなきゃ、武術を習っちゃダメ?
でも決めて、習って、才能がなかったらどうするの?まずは軽い運動として、楽な気持ちでちょっとだけやってみれば?」
「私が武術を習っては、外聞が悪いのです。人目が」

俺が剣を握ったら。武術を習ったら。周囲の者らの目にはどう映るだろう。
東班の子息が剣。科挙に備えておきながら。次に思われるのは。

妾を斬りたいお気持ちも判る。庶子が目障りなのだろう。
寝首を掻かれぬように、備えていらっしゃるに違いない。
だから俺は。

「人目?」
そんな委細など御存知ないウンス様は、暫しの無言の後
「・・・あははははは!」
と、何故か場違いに明るい声で、盛大に笑いだした。

「失礼ではないですか、医仙様とはいえ若様を笑うなど!若様の事を、何も御存知ないあなたが」
先刻懲りたはずのソンヨプが、また血相を変えて詰め寄る。
「ソンヨプ!良いからお前は出て」

鈍く痛み始めた右脇腹を隠し、どうにかソンヨプを追い出そうとする俺に
「ああああ、違うの。ごめんねソンヨプさん、私はテギョンさんを笑ったんじゃなくて。テギョンさん、ソンヨプさんを叱らないで」

無礼を働かれたウンス様の方が、それを働いたソンヨプを守る格好で急いで俺を宥めにかかる。
さり気なく伸ばした指で握り締めた俺の拳をそっと開いて、その細い指でこの掌を慰めるように擦りながら。

「ねぇ、テギョンさん。それならなおさらあの人に習うといいわ。誰よりそういうのを知ってる人だから。
それに外聞が気になるなら絶対口にしないように、あの人を共犯者として巻きこんじゃえばいいのよ」
「ウンス殿・・・」
さすがに口が過ぎると判じられたか、御医殿が苦い顔をされる。

「まずチェ・ヨン殿に伺わないと」
「それは私が聞くからいいの。だから先生」
もうお心はすっかり決まっているようだった。
さっぱりとした口調でおっしゃると椅子を立ち、ウンス様は今まで見た一番大きな笑顔で俺とソンヨプを見ておっしゃった。
「ケガが治るまで、私も来られる限り一緒に来る。治ったら、無理しない程度にテギョンさんが体を動かせるように、あの人に頼んでみる。OK?」

お・・・何とおっしゃったのだろう。
オットケ、どうしよう、だろうか。
俺もソンヨプも無論理解出来ず、それは御医殿も同じだったようだった。
我々だけが取り残されたまま、晴れたお顔のウンス様を無言でじっと見つめ続けた。
そしてウンス様は我々の顔を順番にじっと見て、ゆっくり頷くと確信に満ちた御声で言った。

「あの人は、自分より大切なものを持ってる人を見捨てたりしない。
何かを守ろうとする人を拒んだりしない、絶対にね。その痛みを誰より知ってる。妻が言うんだから確かよ」

今回は、御医殿だけはウンス様のお声の意味がお判りらしい。
諦めたように吐かれた重い息を耳にしながら、俺は考える。
大護軍様も腹が痛むという事なのだろうか。
こんなに痛む腹を抱えて戦場で連戦連勝を重ねるならば、噂以上に素晴らしい方だと思いながら。

 

 

 

 

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3 件のコメント

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    何か…ウンスの医師の診てからの流で大護軍のヨンアまで然り気無く巻き込んでる!キム医師も一応制止を試みた感じね…ウンスの見立てが間違いでなければ若様にはいいことかもね?ヨンア的にはたまったものではないが自分の愛妻ウンスに好意持たれているよりはいいのかしらね…このあとどう展開するのだろうか…

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    ウンス先生のお見立てで
    テギョンさんの治療方針が決まってしまいました。
    テギョンさんもテギョンさんなりに
    いろいろ大変なのね…
    小さなことに動じない屈強な精神鍛錬付き
    師範は… あの人なので…
    まずヨコシマな心など 持てないように
    手ぐすね引いて待っているかも(((( ;°Д°))))

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    又々ウンスのお節介?が
    始まりましたねー
    ウンスのお願いを断れない
    ヨンも大変だわ(^_^;)
    ヨン、お手柔らかにね!

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