2016 再開祭 | 嘉禎・5

 

 

「ヨンア」
「はい」
「怒ってる?」
「はい」
「じゃあ、怒りついでにもう1つ、お願い聞いて」

開き直って重ねる申し出に呆れ果て、手を引き歩くこの方を睨む。

「典医寺に私の荷物があるの。その中にお財布がある。
最初に高麗に来てから、そのままずっと置きっぱなしだったから。
それだけ取りに行かせてよ。未来で軍資金なしじゃ無理だから。
ヨンアだっていくら強くても、武器なしで戦場に行かないでしょ?」

この方は俺の視線など意に介さぬよう、手を引かれ息を切らし、それでも平然と言い放った。

一刻も惜しいこの時に、典医寺へ荷物を取りに行く。
この方はどれ程暢気なのだ。何処まで先を読めぬ方なのだ。
俺の先を憂う前に、自分の先を考えろと怒鳴りたくもなる。

「天界では、誰も武器など持たぬと」
「それは個人レベル、本当の刀とか槍よ。
お金なしであの世界に戻るのは、鎧も着ない、剣も持たないで敵に突っ込んでくのと同じ」
「俺が鬼剣を差していてもですか」
「うん。残念だけど、あの世界では剣より必要なのはクレジットカードなの」
「・・・典医寺にあるのですね」
「え?」
「天界であなたに必要な、その剣が」
「う、うん・・・まあ、そういうことね」

頷いたこの方を見て、回廊を進む足が早まる。
「他の荷は一切持たずに。それだけすぐに取って、出立します」
この方は一層早まった俺の歩に、半ば引き摺られながら頷いた。

せめて今、出来る事。
皇宮の中、開京の隅まで噂が駆ける前に一刻も早く此処を離れる。

 

*****

 

「休みましょう」

此処まで離れ追手の気配がなければ、一息ついても良かろう。

鞍上の俺の問い掛けに、横の馬上のこの方が大きく首を振る。
気が急いているのはよく判る。それでも飛ばし過ぎだ。

碧瀾渡から船で雲従島、漣州を超え平虜領は目と鼻の先。
こんな時でなければ、春の物見遊山がてら楽しいかもしれん。

しかし船内で、俺とこの方は言葉すら碌に交わせなかった。
この方は先を変えようと思い詰め、俺はそんなこの方に腹を立て。
互いに互いを想っていても、互いの道が交わらず。

ただ無言で船板の上、波の揺れに任せ、川風に吹かれていた。
離れて霞む川岸の春の色を横目に周囲の気配に気を開いていた。
万一にも其処に敵の馬が現れないか、敵の船の気配が無いかと。

長閑に春を愉しむには程遠い船旅を終え、揺れから解放された後も。
下船したこの方の馬を駆る距離は長過ぎ、その脚は早過ぎる。
迂達赤きっての駿馬だから良いが、その辺の馬なら潰れても不思議はない。

春の陽は高く、遮る影すら無い一本道を走る馬の鞍上は暑い。
木陰なり河原なりで休息が必要だ。
俺でも馬たちでもなく、この方に。

開京を出て三日。揺れる船の中ですら碌に休まなかった。
長く柔らかな髪は風で縺れ、その鳶色の瞳の下には隈が出来ている。
「イムジャ」
「いや。行く」
「・・・馬が、疲れております」

その声にチュホンが耳を立て、轡を噛ませた顔を不満げに振る。
俺が駆る時こんな風に首を振る事は滅多にない。
その首を宥めるよう、この掌で撫でる。
嘘も方便だ。耐えろ。肚の中でそう呟きながら。

 

 

 

 

12 件のコメント

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    さらんさま
    ヨンとチュホン・・・相棒、戦友、ぱぁとなあ❤ですね。
    どんな顔してチュホンを宥めているのか思い描けてしまうのが、
    ヨンに嵌まりこんでしまう理由でしょうね。
    お話、とても楽しいです❤
    この後も楽しみに待ってます。

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    気が急いて仕方がないのでしょうが
    落ち着いて…
    チュホン ご主人さまの 気持ち
    わかるわよね… 主人の大事な人
    休ませないと。
    二人の気持ちが 揃わないと
    ちゃんと 天界へ行けるか心配
    (๑•́ ₃ •̀๑)

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    猪突猛進のウンスでも
    お財布を持って行くのは、忘れなかったんですね。流石ですf(^_^)
    ヨンの言う通り少し休んで
    お互いの思いを話し合って
    仲直りしてから天門を通ってくださいね(^^)

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    ご主人様の気持ちが分かるチュホンも
    この時ばかりは 巻き添えご免と
    顔を振ったのね
    隈まで作り 休息をと気遣っても
    ヨンの気持ちと裏腹に
    恋女房の心は突っ走る
    あ~分かっていても ヨンよ
    ウンスのお守りは大変ね
    本当にこのまま天界まで 行きつけるかしら?

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    さらんさん、おはヨンございます。
    鬼剣をクレジットカードに例えるウンス!
    ヨンには説得力あったみたいですね。
    本当お金が無いとどうにもならない世界ですからね…
    お互い思うことが違ってちょっと気持ちがすれ違っているかな~?
    次はいつ開くか分からない天門のウンスは機を逃さないように焦ってますね~
    ヨンはヨンで噂が駆け巡る前にと焦ってるし
    船上でもギクシャクな二人天界デートはどうなるのか(๑•̀o•́๑)۶ FIGHT☆ͦ

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    >ぶんさん
    こんばんは、コメントありがとうございます❤
    ぶんさまや皆さまの想像力に支えられて書いております(*´∀`*)
    この後もヨンで頂ければ嬉しいです

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    >19383411さん
    こんばんは、コメントありがとうございます❤
    包容力≒おせっかい焼き?ww
    そんなヨンも愛おしいですが・・・あれ程良い男じゃなきゃ、ウザ!となりますw
    そんなウザさもヨンで頂けたら嬉しいです(爆)

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    さらんさん♥
    ああ、なんて可愛いチュホン!
    人の言葉を聞き分け、自分の意思を
    伝えることのできる頭の良いチュホン!
    我が家のチュホン(PC)にも
    見習わせたいものです…。
    そうそう、たしかに現代では
    現ナマやクレジットカードが
    鬼剣に匹敵するやもしれません。
    ええっと、私の鬼剣は…鬼剣は…
    どこに行った~~っ?!
    (੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは、コメントありがとうございます❤
    チュホン、さすがの愛するヨンからの言葉も
    「は?疲れてませんけど何か!」だったのだと思われ。
    あのヨンから頑固で我儘と太鼓判を押された気の強さ。
    きっと余程腹に据えかねたのでしょう。
    そんなチュホンの怒りも含め、ヨンで頂けたら嬉しいです

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    >hinamiさん
    こんばんは、コメントありがとうございます❤
    21世紀、お金の無いのは首が無いのも一緒ですw
    ウンスオンニ、変な処が現実的w
    高麗に来た最初に、王妃媽媽を裏切ったあの黙家の女を
    買収しようとしてたしww
    そんな懐かしさも含め、ヨンで頂ければ嬉しいです

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    >yon0716さん
    こんばんは、コメントありがとうございます❤
    結論から言ってしまうと、行けますwけんちゃなよー。
    何しろリクは「天界デート」ですからw
    あくまでリクお題に忠実に。難かしいのはそれを何処まで自然に繋げて行けるかです・・・とほ。
    デート本番まで、ヨンで頂ければ嬉しいです

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