2016 再開祭 | 一酔千日・序

 

 

【 一酔千日 】

 

 

新春の凍て付く夜の空、頭上で揺れる提灯の列。

仄灯の中引き寄せた盃に注ぐ手酌の酒が、縁から盛大に溢れ出し卓に小川を作る。

「・・・おい、ヨンア」

酒瓶を握る己の手を横から出された黒鉄手甲の手が抑え、傾けた酒瓶を卓へ戻す。
焼酎徒とも笊とも称され、呑んでも決して酔わぬと思われている俺の酒房での流儀は唯一つ。

人と呑まぬ事。これに尽きる。

呑み方すらも知らず、浴びるように盃を煽った頃は別として。
迂達赤に来たての頃は鬱憤の余り、呑めば喧嘩を繰り返した。
この方を連れて来た頃には敵が多過ぎて、呑む暇もなかった。

呑んで酔わぬ事があるか。俺とて生身だ。
頭が朦朧とし、呂律も回らず、酒房の縁台に伸びる事もある。
そんな姿を見た者が未だにおらぬだけで。

そして酒とは、そもそもが酔う為にある。
呑んでも呑んでも酔わぬならそれは水だ。
水を酒瓶に入れて酒の値を付けるのは偽りというものだろう。

井戸から汲み上げれば、いや、それも面倒なら川辺に下りれば、好き放題に飲める水に。

ばん!

掌で叩いた卓の上、派手に飛び散った盃の中身の滴が天板を濡らす。
その向こう、どうにか笑みの残骸を口許に浮かべた俺のこの方。
そして俺の横に、苦虫を百匹噛み潰したような面のヒドヒョン。
それぞれ何とも形容しがたい視線で、無言のままに此方を見ている。

「す、み、ませーん、台拭き、貸して下さーい・・・」

相手が何処の誰であっても明るく朗らかに語り掛ける筈の俺のこの方が、遠慮がちに酒母に向けて手を上げる。
酒房は妙な静けさに包まれ、周囲の酔客は俺の腰掛ける縁台から離れ、固唾を飲んで此方を遠巻きにしていた。

「酒母」
大急ぎで台拭きを持って来た酒母が縁台に寄るやいなや、ヒドが声を投げた。
掛けるなどという親切なやり方ではない。それは本当に息の塊を投げ付けるような、不愛想な調子で。
「は、はい」
酒母は台拭きをこの方に手渡しながら、奴へと顔を向ける。
「奥、空いてるか」

ヒドは視線で酒房の奥、寝泊りの出来る簡素な離れを指した。
「勿論ですとも、旦那様」
「移る」

奴はこの方に顎で離れを示し、俺を抱えた腕に満身の力を籠め引き摺り降ろすように縁台から動かした。
こんなに良い気分で呑んでいるのに、どうして邪魔をするんだ。
その手を振り払うと、自分の脚で縁台を下りる。
下りた途端に地面は揺れて、泥のように崩れてしまう。
縁台の端に腰を下ろして、土に尻をつく失態を逃れる。

ヒドは払われた手を呆れたように眺めた後、俺の眸の前でそれを左右へ振ってみせた。
揺れるその手にようやく焦点を合わせる。
そうだ、ヒドは黒鉄手甲を嵌めているから手が黒く見えるのか。

「あそこまでで良い」
そう言って先刻この方にしたように、奴は顎でもう一度離れを示した。
「歩け」
「ああ」

唸ったきり腰を上げぬ俺に痺れを切らしたか、ヒドはいきなり俺でなく、この方の腕を緩やかに掴む。
そして有無を言わせず引張ると、俺には構わず歩き始めた。
緩やかというのは奴の掴んだあなたの上衣に寄る皺の、柔らかな影で判る。それは判るが。
「触るな!」

振り返りもせず離れに向かい酒房を横切るヒドの背に向けて、俺は縺れた足取りで倒れ込むよう駆け寄った。

 

 

 

 

maju 様&hinami 合体リクエスト!
maju様の
普段はお酒に酔わないヨンが酔ってウンスに心の悋気をぶつける。
そして、私hinamiの
ヨンとヒドが、仲が良すぎてヤキモチ妬くウンス 。
どうでしょうか?(笑)
さらんさんバージョンでよろしくお願いします❤(hinamiさま)

 

 

 

 

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2 件のコメント

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    えーっと
    酔っ払ってないのは
    ヒドだけかな?
    ヨンが酔っ払うなんて 珍し~
    心許せるメンバーだからか…
    しかし 酔ってても
    ウンスに触れていいのは 自分だけ!
    ( ̄▽+ ̄*)

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