2016 再開祭 | 孟春 外伝・前篇

 

 

【 孟春 外伝 】

 

 

「ヨンア」

そっと揺する小さな手を肩に感じて眸を開ける。
開けた途端、頬をくすぐる亜麻色の長い髪。
覗きこむ鳶色の瞳に微笑んで頷き、上体を起こす。
「起きた?」

問いながら伸ばされる温かい指先に身を任せ、そのまま腕に攫って閉じ込める寸前に気付く。
そうだ、夢ではなかった。今横たわる慣れぬ寝台。
此処は公州の温宮。暢気にこの方を腕に抱いて良い場所ではない。

「顔色が良くなってるし、脈も安定してる。愛のこもったおかゆが良かったのかもね」

嬉し気な明るい声で言うこの方だけがいつもと全く変わりがない。
何処にいようと、俺より遥かに平常心を保っているように見える。

刻の感覚がない。孟春四日の窓外は薄明るい。
白く積もった雪の所為か、それとも薄灰色の空の所為か。
まさか一晩寝過ごしたのか、それとも未だ夕刻前なのか。
「朝ですか」

朝だとすれば、この方は夕餉を如何したのか。
俺の声に小さく笑うと、あなたは同じように窓外を見た。
「夕方前よ。多分1時間くらいしか寝てないんじゃない?ヨンアが寝ぼけるなんて珍しい」

そう言うと寝台に半身を起こした俺を見て、
「このまま寝ててもらおうかとも思ったけど。お風呂にも入りたいし、晩ご飯もあるし。
それにヨンア、やらなきゃいけない事もあるんでしょ?」

この方の声に思い出す。
そうだ、悠長に惰眠を貪っている場合ではなかった。
修繕箇所の確認の名目で此処まで遥々やって来たのだ。

その声に頷くと、俺は着衣を整えて慣れぬ寝台を滑り降りた。

 

*****

 

「おお、大護軍。医仙も、お待ちしておりましたぞ」
提調殿の出迎える温宮の執務室、俺達は並んで部屋の主に小さく頭を下げた。

「御挨拶が遅くなり、申し訳ありません」
「いやいや、構いませんとも。もうお体はすっかり宜しいのか」
「は」
「此方へお掛け下さい」

提調は部屋の卓の椅子を勧めながら、その向かいに腰を下ろした。
「改めて、此度は遠路はるばるお疲れでしたな。王様におかれてはお変わりありませんか」
「は」

安堵したように頷くと、提調は卓上の文を俺へと滑らせた。
「使者より賜った王命です。温宮の修繕箇所の確認を大護軍に、治療室の状況確認を医仙にと」

言い終えると人の好さげな笑みを浮かべ、その狸腹の上に指先を組んだ手を乗せて此方を見ている。
「失礼」

差し出された文を手に取って拝読しても、確かに王様の御手蹟だった。
中も俺が叔母上に既に伺っていた通り。
医仙だ大護軍だとはいえ、たかが臣下の休暇如きに王様や王妃媽媽の御手を煩わせた。
その蔭で一体何人の者が動いたかと思うと気が滅入る。

「・・・王命、確と」
それ以上返す言葉もなく、手にした王様の文を畳み直して提調へ差し戻す。
受け取った提調はほくほくと、今までよりも一層嬉し気な笑みを浮かべた。

「それにしても大護軍をこうしてお迎えでき、嬉しい事だ。ましてや奥方の医仙までご一緒とは光栄の至り。
王様の御行幸がなかなか成されず温宮も侘しかったが、今日はまるで火が灯ったようだ」
「王様に於かれては、多端にあらせられます」
「そうであろうな・・・しかし大護軍を派遣して下さるとは、王様も温宮を思うて下さるとよく判りました。
使者を出迎えてからというもの、温宮詰めの兵も尚宮らも浮足立って」

確かに昼に治療部屋を抜け出したこの方を探し回った折。
擦れ違う兵は、一様に嬉し気な顔をしていたと思い出す。
尚宮も然り。水刺房に忍びこんだこの方の横、文句一つ口にするでもなく、並んで粥を焚いていた。

しかし俺達がそんな大層な者の訳がない。
寧ろ王様は厄介払いのお積りで、俺達を自由に出入の利かぬ離れの温宮に閉じ込めたとしか思えぬ。
人の好さげな提調に正直に告げる訳にも行かず、俺は小さく頭を下げた。

「今日はお会い出来て何よりだった。儂は帰るとしよう。また明日改めて、修繕箇所をお伝えする故」
役目を果たした提調は最後に晴れやかに言うと、席を立つ。
「御滞在中は不便があれば、 尚宮にでも侍官にでも遠慮なくお伝え下されよ」

尚宮であれ侍官であれ、仕えているのは俺達にではない。
温宮にであり、即ち今此処に居られようと居られまいと王様に仕える者だ。
そんな者らに俺達がものを頼むのは筋違いだろう。

そう思いつつ当たり障りなく頷いた俺の横、並んだこの方が
「ありがとうございます!」
と満足そうに大きく言った。

本当に、天人というのは何をお考えなのか。
このままではこの方は提調の声を真に受け、尚宮や侍官に物を頼みに行かぬとも限らん。
そんな事が起きぬ事を祈りつつ、俺達は執務室を出る提調に続いて部屋の扉を抜けた。

 

 


 

ウンスとヨン温泉旅行
クリパでもありましたが
別バージョンで お願いします
お邪魔も入りーの、少々色っぽいのキャー(sini0000さま)
※こちらは既に2016再開祭リク話で書いた「孟春」とリンクした続編になっております❤
上のタイトルクリックでヨンで頂けると、お話の続きが判るかと思います(やたら温泉に行く我が家ㅋㅋㅋ)

 

 

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2 件のコメント

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    そうですね(笑)
    さらんさん家のヨンとウンスは
    本当に温泉好きですね~(*^^*)
    此度はヨンがウンスに
    デミルしてあげたりしてね?
    ウンスまたまたBBQ?(笑)

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