2016 再開祭 | 紙婚式・伍

 

 

昨日の8時過ぎからの早寝のおかげで、睡眠時間は十分よ。
今日はいつもより顔色もいいし、結婚記念日の旅行にも行けそうだし。
昨日のあの人との楽しい話のおかげで笑顔が120%になってる自覚がある。
それでも目の前で拝診後のお袖を直してる媽媽の、輝くような美しさにはかなわない。

坤成殿のお部屋の窓から、たっぷりと入る光。
媽媽の翡翠色のチョゴリが日差しに反射して、お部屋の中が透き通った南の海の底みたいな薄いブルーで染まる。

そして窓の外には、紅葉の始まった大きなお庭。
向かい合って笑う媽媽の一本の乱れもない髪が、その光の中でつやつやに光る。

神様に選ばれて、特別愛されているみたいな美しさ。
こんな女性を見るたびに、整形外科医としてはオペの限界を感じざるを得ない。やっぱり天然美人の強みよねえ。

昨日の朝のご拝診では、忙しさに任せてしっかり伺えなかった。
今日は絶対に聞かなきゃいけない。ちゃんと許可を取らなきゃ。
朝に典医寺を出る時からそう思って来たから、忘れてはいない。
何なら学生時代みたいに、手の平にメモするところだったわよ。

結婚記念日、休暇のお願いって。

「媽媽?」

朝のご拝診の後の習慣で媽媽の御部屋の卓に座ってお呼びすると、媽媽は私に向けて嬉しそうに頷いて下さる。

「はい、医仙」
「あの、できればでいいんですが・・・もし、お許し頂けたら」
「何かご予定ですか、大護軍と」
「え?!」

私のすっとんきょうな大声に、媽媽は横に立っている叔母様と目を見交わして、お袖で口許を隠してうふふとお茶目に笑われた。

「今朝の医仙はいつにも増してお美しいので。何か佳きお知らせがあるのかと」
「あ、あの・・・本当は昨日伺うべきだったんです。もし出来ればでいいんです。今月の終わりに数日、お休みを頂けたらと思って。
もちろん私がいない間の薬湯は準備して行きますし、他の先生が媽媽のご拝診を」
「妾の事など気にされず。医仙のおかげで、体調には何も問題はありませぬ。お出掛けですか」
「はい。実は結婚記念日なので、ちょっと」
「けっこん、きねんび・・・ですか」

ああ、やっぱり高麗時代は習慣がないのかしら。
あの人に話した時も、それを聞いてきょとんとしてたし。
ゆうべの話を思い出しながら、私は慎重に聞いてみる。
「媽媽、中・・・元、には、紙婚式ってありますか?」
「紙婚式でございますか」

媽媽の反応を見る限り、初めて聞いたってお顔よねえ?
じゃあ私が覚えたあれって最近というか、少なくとも近代になってからのカルチャーなわけね?

紙だの綿だの陶器だの、もしかして経済活性化を狙った企業とか、経済団体の戦略だった?
バレンタインデーのチョコとか、ブラックデーのジャジャミョンの後付けこじつけみたいに?それならショックだわ・・・

私のひとり百面相を静かに見ておられた媽媽は、心の嵐が過ぎ去った後を見計らったように、そうっと聞いた。

「聞いた事はございませんが」
「やっぱりそうなんですね・・・」
「天界にはそうした仕来りがおありなのですか」
「そうなんです。紙婚式から始まって」

昨夜あの人に教えたのと同じ話を、もう一度指を折りながら私は媽媽の前で数え始めた。

「紙婚式。綿婚式。皮婚式。花婚式。木婚式。鉄婚式。銅婚式。ゴム婚式。陶器婚式。10年目の節目が錫婚式です」
「それ程たくさん・・・」
媽媽が呆気に取られたみたいに、大きな澄んだ目を驚きでいつもよりもっと丸くされた。

「はい。それぞれにちなんだプレゼントをお互い交換するカップ・・・夫婦、も、います。
1年目なら紙で出来たもの。たとえば手紙でもいいし、システ・・・日記帳みたいなものでも。
2年目は綿製品。っていっても、今高麗ではまだ綿自体が手に入れるのが大変ですけど。
お揃いのパジャ・・・寝間着とか、いつでも持っていられるハンカチとか。
3年目なら皮革製品ですね。お財布や、皮で出来たアクセサリーとか」

媽媽は私の声を興味深そうに、何度も頷きながら聞いていらっしゃる。
女性はこういう話が好きっていうのは、古今東西変わらないのかも。
「では医仙は、此度は紙の物ですか」
「はい。本当は手紙を書きたいんですけど、何しろ漢字が書けないので・・・あの人が使えそうな、キレイな韓紙を探したいなって。
よく文をもらったり、返信したりしているので」
「大護軍も、ではきっと内密で何かお考えですね」

媽媽はご自分のことのように、嬉しそうな笑顔で言って下さる。
その横に静かに立った叔母様も、無表情を装いながらもその目が困ったように微笑んだ。
「そうだったら嬉し・・・い・・・」

そこまで言って思い当たる。昨日のあの人の、どこか妙な様子。

待って?結婚記念日のことを話した昨日の朝。その日の帰り道、いきなりのサプライズデート。
いつもなら立ち寄らないような、女性用のお店の集まった通り。

─── 欲しいものは。何故ねだらぬのです。他には何か。

そして私はなんて答えた?注射針。ガラスびん。
そしてあの人は晩ご飯の後、縁側でいつものおしゃべりタイムも過ごさずに、8時過ぎには寝室に・・・。

「あーーーーっっ!!」

テーブルの上に手をついて突然立ち上がった私の大声に、今まで微笑んでおられた媽媽と横の叔母様が、ぎょっとしたお顔で私を見た。

 

 

 

 

 

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5 件のコメント

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    さらんさま
    女子力の違いでしょうか・・・ウンスさん完敗ですね(笑)
    さぁ、このあとどんなフォローをするのでしょうか・・・(  ̄▽ ̄)
    と~っても楽しみです❤
    ヨンを満足させられるかしら・・・うふっ❤

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    何度かやらかしているとはいえ、ウンスの大声に王妃さまも、叔母さまもギョ!!ですよね~
    ウンスが気が付かなかったことを、こうもかんたんに王妃さまに言われるなんて思わなかったのでしょうけど。
    映像が目に浮かびますね。

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    Σ('◉⌓◉’)←ウンス
    Σ(゚д゚ノ;)ノ ←王妃様&叔母様
    ですね(苦笑)
    いつの時代も女性はこの話には興味津々
    そっかウンスは漢字が…
    あ、でも、少しくらいは書けないのかな??

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