2016 再開祭 | 紙婚式・壱

 

 

どうしてさっきから、女性用のお店ばっかり見てるのかしら。
それとなーく上着の袖をつまんで引っ張ってみるのに、あなたの進行方向は変わらない。

秋の夕方。夕焼けのグラデーションはどんどん濃くなって、今は紺色に変わり始めてる。

仕事帰り、まっすぐ家に帰らずにデートに連れて来てくれたのは思わずドキドキしちゃうくらい嬉しかったけど。
夕方になって、さすがに気温も落ちて肌寒くなって来たし。
いつもならここまで寒くなったら、もう帰りましょうって言ってくれるはずなのに、今日はそれも言わない。
その顔を時々ちらりと確認すると、あなたの黒い瞳が嬉しそうに輝く。

でもね、あなたが風邪を引くのだけが心配なの。
そう思いながら顔を見ると、あなたの黒い瞳が私の顔に何かを探すみたいに、じいっと見つめ返す。
今日のあなたは何だかおかしい。どこがどうって言えないところがなおさら変よね。
いくらサプライズのデートとはいえ、いつも見て回るような食品のお店や薬房、手裏房の酒楼じゃない。
女性が好きそうなお店の並ぶ通りを、一緒にゆっくり歩くのも初めてだし。

そんな私たちを見かけて、いろんな人たちが声を掛けてくれる。
だけど不愛想なこの人はこういう立ち話は苦手だから、おしゃべりな私がお相手することになる。

冷たい風に乱れた髪が鼻先をくすぐられて、ガマンできずに思わず足を止めて、慌てて口元を両手で覆う。
ぎりぎり間に合ったところでくしゃみをすると、あなたはさすがに心配そうに私の顔をのぞき込んでくる。
「寒いですか」
「うん、ちょっとね」
「・・・イムジャ」

あなたはあきらめたみたいに暗くなり始めた空を見上げてから、その視線を戻して私を呼ぶ。
「うん。なぁに?」
「欲しい物は」
「え?」
あなたが困ったみたいに、やっと通りのお店をぐるっと見回して聞いた。

「何か、欲しい物は」
「えー!あるわよ、もちろん!」

夕方の混み合う道で向かい合って、高いところにある黒い瞳をまばたきを忘れてじぃっと見上げる。
そんなつもりなんだったら、先に言ってくれればいいじゃない!
照れ屋にも程があるわ。あなたがそんなつもりなら、私も最初から遠慮なく言ったのに。

プレゼントまで考えてくれてたなんて知らなかった。
思わず叫んだ私の声に、黒い瞳が輝いた。
そして照れ隠しみたいに唇を尖らせて、あなたは優しく聞いてくれた。
「それなら、何故ねだらぬのです」
「え?だって」

それなら行き場所が違うじゃない。私は開京の大通りの左右に並ぶ女性用のお店を見て首をかしげる。
「分かってくれてると思った。私が欲しいもの」
「はい」

あなたの期待に満ちた視線。もしかして分かってくれてないとか?
「自分用のヤゲンも欲しいし、うちにも薬棚があったら便利だし」
「薬、研」
「うん。知ってる?あの、薬草をすりつぶす三日月みたいな」
「・・・知っております」

え?

急に力の抜けたあなたの声に首を傾げる。
だって欲しいものって聞いたじゃない?だから素直に言ったのに。

「他には何か」
何だか妙なムードを仕切り直すように、あなたはもう一度言った。
「買ってくれるの?」

あきらめずに聞いてくれるあなたの声にワクワクしながら、私は指を折り始めた。
「出来れば点滴用のうーーんと細い針を、巴巽の鍛冶さんにお願いしたい。それにぜいたく言えば、ガラスびんも何本か欲しいわ。
高価だって知ってるけど、やっぱり消毒とか衛生面を考えたら点滴液はガラスびんに入れるのが一番いいから」
「てん、てき」
「ああ、うん。体に足りない成分を、口から取れない時に血管に直接入れる方法。
胃腸からの吸収を待たなくていいから、即効性も高いの。でも何しろ一番大切なのは注射針よ。太いと痛いし。
この時代だからワガママは言えないけど、患者さんの負担になる治療は可能な限り避」
「・・・イムジャ」

私のお願いの途中でなぜか顔をしかめて、あなたは頭を振った。
「それは治療道具では」
「うん、もちろん?」
それ以外に何が欲しいのよ?

「あ。でも他にもあるわよ」
「何ですか」
「遠心分離機とか、心電図計測器とか、人工呼吸器とか・・・まあ、ワガママを言い出せばきりがないし。
そもそも今は電気がないから無理なんだけどね」

何だろう。私の声の途中から、その眉間の皺がどんどん深くなる。
そして声の終わりと同時に疲れ切ったように大きくはぁぁぁと溜息をつくと、困ったみたいに
「・・・帰りましょう。冷えて来た」
って、あなたはようやくそう言った。

 

 

 

 

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2 件のコメント

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    こんにちは、ウンスは、医師‼ヨンが、何かを、買ってくれると言ってもねぇ。何にも無い !ヨンが、ウンスに、似合いそうな物を、買って渡した方が良い見たいね。

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