向かい合った李 子春の為人など知らん。
それでも秋の透明な陽の下、清冽な青紅葉の枝の下に立つ姿は何処か不釣り合いだ。
そう考えながら陽射しの中、眩しい振りで眸を眇める。
思い込みは危険に繋がる。王様にさえ誠心誠意尽くせば良い。
判りながらもその勘こそが、忠臣と奸臣を嗅ぎ分ける最初の手だとも思う。
この手の勘は外れる事がない。そして厭な勘程よく当たる。
李 子春は胡散臭いのだ。簡単に言ってしまえば。
王様や俺へと見せる顔、そして双城総管府での鼠に見せていたであろう顔。
その二つに隔たりがあり過ぎる。
恐らく双城総管ら、元側の者に見せておった顔もまた違うだろう。
胸裡で高く警笛が鳴っている。目前の男は信用するなと。
鼠を匿っただけでも。今こうしてあの方の名を口にするのも。
何かを企んでいる。
それが何であれ王様と民、誰よりあの方に害を及ぼすならば赦さん。
そんな胡乱な視線には気付かぬように、李 子春は陽射しに負けぬ晴れた顔つきで言った。
「以前成桂を御救い頂いた折もお会いできず、礼をお伝えできなんだ。
双城の戦局もようやく落ち着いた。李家が故領に戻れたのも王様のお許しあっての事。
王様の御許しが下されたのは、大護軍の尽力あっての事だ。大護軍にも医仙にも是非改めて」
こうしてあの方に近づき俺との距離を詰め、一体何を謀るのか。
これ以上の地位が狙いか、もしくはあの方を足掛かりに王妃媽媽への取り入りを目論むのか。
しかし既に小府尹の官位を手にし、皇宮への出入りを許されている。
まして以前は王妃媽媽の御生国、元の出向機関である双城総管府の千戸だった男だ。
今更あの方の言葉添えなど不要だろう。
その縁故を伝手に不用意に王妃媽媽へ近づかぬよう、警戒するなら未だしも。
「某は為すべき事を為したまで」
申出を無碍に拒否する俺に、李 子春は怯む風もない。
「しかし李家を、そして儂ら親子を救った恩に変わりない」
「小府尹殿」
「そう堅苦しく考えんで下され、大護軍。紅葉狩りだと思うて、是非我が家にお出で下さらんか。
成桂も是非、大護軍と医仙に今一度お会いしたいと言うておる」
紅葉狩りが聞いて呆れる。
頭上の青紅葉を見上げるこの眸に、李 子春は恥じる様子もなく笑う。
詰まりは理由など聞かずに来い、そう言うている訳か。
唯一気に掛かるのは、この男がどれ程の兵力を蓄えているか。
奇轍のような数の私兵を抱えられていては、後々面倒な事にもなる。
あの方を連れずに俺だけが乗り込むか。
しかしそれではあの方へ話を通そうと、典医寺へ乗り込まれる事にもなり兼ねん。
先の世を知るあの方が高麗で唯一、蛇蝎の如く忌み嫌う李 成桂。
その父親である李 子春とて、決して例外ではなかろう。
俺の居らぬ処、護りの手も眸も届かぬ処であの方が烈火の如く怒り出せば。
相手が小府尹という高官である以上、双方無事では済まぬ事態も有り得る。
こうなるから面倒なのだ。面目、外聞、立場、官位。
今打てる最善の手。立てられる最良の策。
断る事も断られる事も、互いにとって益はない。
「伺いましょう」
その声に李 子春は、当然とでも言いたげに頷いた。
*****
そして七日後、約束の朝。
朝陽の射し込む格子窓の向う、約束の刻は近付いて来る。
朝寝を決め込むあなたの寝顔に、今でも心は揺れる。
間違ってはいなかったか。この方を会わせるのは最善か。
その声に心で別の声がする。
己の居らぬ処で会うよりはまだ立ち会っていた方が良い。
少なくとも共に居るなら、必ず護ってやれるから。
だから昨夜も言ったのだ。あなたを膝に抱いたまま。
「明日、暇は取れますか」
何も知らずに俺を振り向き期待に見開く鳶色の瞳に。
「共に出掛けたい処が」

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あら
そんな 言い方されたら
ウンスデートだと…
もっと 楽しいとこだったら
よかったのにー
(´-ι_-`)
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ウンスは、顔を見るのもイヤでしょうね・・・。
でも、ヨンは会す事に決めたのですね。
いつか、この親子に会う日が来るだろうから
なら、せめて自分が一緒に居る時に会おうと。
ウンス、辛いだろうなぁ~。
先のヨンの最後を知っているだけに・・・。
ウンスがこの時代に来た事で、すでに歴史は
変わってきている・・・、そう考えて何とか
無事に乗り越えて欲しいですね。