2016 再開祭 | 金蓮花・伍

 

 

テマンくんにしっかりガードされて、先を急ぐ秋の町。
こんな日じゃなきゃ、きっと散歩日和のきれいな秋晴れ。

あの人はまだ追いついて来ない。
それでもあの人の弟みたいな彼に、知らない過去のあの人についての思い出話を聞くのは楽しいけど。
「九才くらいから、山で一人で生きてたんです」

21世紀じゃとても考えられない衝撃発言に、思わず目が丸くなる。
学校は?食事は?着替えや入浴の衛生面は?もしも病気の時は?
あの時代じゃとてもそんな事ありえない。
善意の隣人に育児放棄で、すぐに児童相談所に通報されるはずよ。
「そんな小さい子がどうやって山で生きてたの?大変でしょ」

思わず大声を出すと、テマンくんはにこにこと笑う。
「いえ、全然平気でした」
強がりか自己防衛本能か、それとも本気でそう思っていたのか。
やっぱり私の常識じゃ計り知れない世界なんだって実感する。

「本当なの?それで?」
「んー、十三か十四の年に、隊長に出会ったんです」
テマンくんはその頃を思い出すみたいに、私に話を聞かせてくれる。
ここで出てくるわけね、若い頃のあなたが。
「良かったわね」

きっとあの人なら何だかんだ言っても、しっかりテマンくんを守ったはずだもの。
だけど私の声に当時を思い出したらしいテマンくんは困ったみたいに顔をしかめた。
「全然良くないです。俺、初めて会った時隊長の手足に噛みついて」
「なんで?!」

あの人に噛みつくテマンくん。
今の姿からはとてもじゃないけど、想像すらできない。
テマンくんもきっとすごく反省してるのか、その肩がちょっぴり落ちる。
「怖かったから。逃げたら追いかけられて、また捕まって噛みついて、何日か。
最後に俺が疲れて寝ちゃって、起きたら隊長が魚を焼いてくれました」
「それが出会いの縁だったのねえ」
「はい」
テマンくんは本当に嬉しそうに、秋の空の下で私を見てにっこり笑って頷いた。

思うの。
あなたがどんなに無口でも不愛想でも、こうやって分かってくれてる人はちゃんといる。
きっとテマンくんはあなたが心を閉ざしてる間も、こうしてあなたの側にいたに違いないって。
きっとあなたもそれを知ってるから、あなたの代わりのガードをテマンくんに任せてるんだって。

もっと大勢の人がこうやって、本当のあなたを知ってくれれば嬉しいな。
そうすれば私が21世紀に帰った後だって、あなたの周りにはたくさん人が集まる。
あなただってそれなら少しは淋しくないでしょ?
でもどうかな、あの性格だものね。自分から心を開くのは難しそう。

その時急に笑ってたテマンくんが真顔で黙り、今まで歩いてた右側から私の左を守るみたいに場所を変えた。
驚いて顔を覗き込むと、厳しい目がすれ違う男性を追いかけてる。
私もつられてテマンくんの視線を追いかける。

黒い笠をかぶって黒い服を着た、黒づくめの男性。
振り返った時にはもうその後ろ姿しか見えない。
「どうしたの?」
「足音が、しませんでした」

そんなものなのかしら。私は全然気がつかなかった。
曖昧に頷く私を急かすみたいに、テマンくんの声が真剣になる。

「急ぎましょう、医仙」

 

 

 

 

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