【 紙婚式 】
夕暮れの開京大路に亜麻色の髪が跳ねる。
その視線の動く度、明るい瞳の先を追う。
櫛。簪。笄。飾り紐。
開京大路は歩きにくい事この上ない。
まずはこの顔が知れ渡り過ぎている。
大路を擦れ違う民らが、そして店先に立つ店主らが、この姿を見つけては明るい声を投げ掛ける。
「大護軍様、お久しゅうございます」
「大護軍様、奥方様、お二人でお出掛けですか」
「先日はありがとうございました」
そんな声に迎えられ、そして見送られつつ大路を歩き続ける。
それに加えてこの方がその声に一々足を止めるから堪らない。
「こんにちは!」
「肩の調子は?痛くないですか?」
「咳は止まった?熱は出ませんか?ちょっとだけ脈を」
俺の与り知らぬ処で、一体この方は何を仕出かしているのか。
少なくとも判るのは、隠れて病人の面倒を見ているという事。
俺に判れば休める時には休めと小言を言われるとでも思って、内緒で診て居るのだろう。
しかし今日だけは、それに小言を言う暇もない。
明るい秋の夕陽を映して、薄淡く透き通る瞳。
その視線の向く先を見落とさぬよう注視して。
絹。耳飾り。首飾り。
そんな品々を並べる店先を、片端から見て回った。
店主らや民らとは長々と立ち話をするのに、何故その瞳は何処にも止まらんのだ。
一体何が欲しいのだ。
焦れる気持ちを宥めつつ、心の中で繰り返す。
この方の心から欲しがる品物を探す。初めての二人の記念の日に。
それを選ぶのに諍いを起こす必要などない。
折角選ぶ思い出の品に、吝が付くような真似はしたくない。
こうして連れ出して通りを歩けば、欲しい物の一つや二つねだって下さると思っての散策。
しかしこの方の瞳は店先の品では無く、声を掛ける者らに向かうだけだった。
機嫌良さげに俺の横に添い、小さな手で時折この袖口を引く。
何か見つけたかとその顔を確かめても、何が欲しいとも言わず。
あなたは買い物が好きだとおっしゃっていたろう。
欲しい物はないのか。それともこの市にないのか。
それなら碧瀾渡まで足を延ばせば良い。せめて何が欲しいのかだけでも知らねばならん。
宝玉付きの帯飾。紅。白粉。
恥を忍び、敢えて女人の好みそうな品を揃えた店の立ち並ぶ通りをそぞろ歩いているのに。
その瞳は店先の品を掠めはするが、留まる事は決してない。
そうしている間にも秋の陽は傾き、風が冷たくなってくる。
その時弾んでいた髪が、前触れもなくふと止まる。
その顔を確かめようと足を止めると、あなたが小さな白い両掌で口許を覆う。
あの日、買い物に連れて行くという俺の前で嬉し気に笑みながら口許を覆った時のように。
あったのか。急いでその顔を覗き込む俺の鼻先。
くちゅん!
この方は口許を隠した両掌の中に、小さな嚔をした。

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(ぶんさま)
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あれこれ探して
お目当てのものは 見つかるかしら?
なかなか すんなり進まないねー(笑)
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さらんさま
待ってました‼ホントに楽しみにしておりました!
どんな紙婚式になりますやら・・・
ニヤニヤしながら読ませていただきます❤