2016 再開祭 | 手套・前篇

 

 

マンボ姐は言いつけた仕事もせずに帰って来た俺達を怒鳴りつけようと厨から出て来て、怒った顔のチホを見て目を丸くする。
「厭だね、おっかない顔して。何があったんだい」
チホは答える気もないんだろう。
「何でもねえよ!」
怒鳴り返して、すたすたと離れの部屋の方へ歩いて行く。

普段ならやり返されるのが怖いし、手裏房を束ねてる姐さんだからめったな事じゃそんな乱暴な口はきかないのに。
こんな怒った顔の姐さんと二人で残される俺の身にもなれよ。

案の定姐さんは、奴と同じくらい怒った顔で俺に詰め寄る。
「あんたらにただ飯喰わせるために働いてるわけじゃないんだよ!言いつけくらいは守れるだろう、餓鬼じゃあるまいし」
「うん。でもさ」
勢いに後へ下がりながら、俺は姐さんを止めようと両手を前に突き出した。

「姐さん。ヨンの旦那がいたんだ」
「居たがどうした。ご近所さんなんだから、そりゃあいるだろう」
「一人じゃなかったんだよ」
「そりゃあ誰かと一緒にいることもあんだろうよ!迂達赤でも天女でも。そんな下らない言い訳を」
「違うんだ」

それだけなら俺達が帰って来るわけがないじゃないかと、俺は首を振る。
「女と一緒だった」
「天女と一緒だったくらいで」
「違う、天女じゃない綺麗な女だった」
「・・・なぁあに言ってんだい、シウラ」

姐さんは呆気に取られた後に、ぶっと噴き出した。
「あのヨンアだよ。天女以外の女と一緒にいるわけも、いられるわけもないじゃないか」
「でもいたんだって!この目で見たんだぞ」
「お前まで怒鳴んじゃないよ!」

渋い顔をした姐さんが俺を睨むけど。
「あ、ごめんな。でも」
「見間違いに決まってるさ」
「見間違いじゃないよ。俺達は誰を間違えても、旦那を見間違う事なんかない」

こんな稼業をやってるし、相手の顔を見分けるのは得意だ。
そんじょそこらの変装くらいでこの目はごまかされたりしない。
まして旦那はそれすらしてない、いつものまんまだったから。
妙に自信を持って答えたら、マンボ姐は困ったように首を振る。
「シウラ」
「何だよ」
「今はひとまず騒ぐんじゃないよ。尚宮婆に確かめるまでは」
「ヨンの旦那の叔母さんか」
「あたしらだけで調べられりゃあ良いけどね。聞いた方が早い」

今は姐さんもそれ以上知ってる情報はないんだろう。
濡れてもいやしない両手を前掛けでごしごし拭うと、何も言わず厨へ戻って行く。

負けず嫌いの姐さんが、情報なら誰に頼るより手裏房の中だけで調べたがる姐さんが、旦那の叔母さんとはいえ他の人を頼る。
憎まれ口を叩きながらもすぐにそう決めたのが俺の言葉を信じた何よりの証拠の気がして、重たい気持ちのまま離れに向かう。

きっと部屋の中では、あいつがいじけてるか、まだ怒ってるか。
面倒くさいな。奴も旦那と同じくらい、一度決めると頑固だし。
考えるほど重くなってく心と足を引きずって歩く庭は、やけにしんとしていた。

 

*****

 

「ああ。知っておる」
マンボ姐の呼び出しに酒楼にやって来たヨンの旦那の叔母さんは、俺達の前でけろっとした顔で頷いた。
呆気に取られるのはこっちの方だ。
「知ってる、って・・・あ、あんた、それで放っておいたのかい!あたしらにも知らせずに、今の今まで!!」

マンボ姐さんは向かい合った椅子から立ち上がると、その指を目の前の叔母さんに突き付けた。
俺も、そしていやいや同席したチホも同じ気持ちだ。知ってたなんて、その上放っておいたなんて。

「じゃあ、天女はどうすんだい!あんた、天女を一体何だと思ってそんなふざけた事を許してるんだよ!
いくら甥っ子が可愛いって言ったって、天女の身になって考えた事があんのかい!浮気者の男の嫁になんか」
「聞き捨てならぬ事を」
立ち上がって怒鳴り散らす姐さんを睨むと、叔母さんもゆっくりと椅子から立ち上がる。
女の睨み合いは怖い。
まして場数を踏んで来た姐さんと叔母さんはどっちも一歩も後にひかない、ものすごい迫力だ。

「浮気など、あの男に出来る訳がなかろう。馬鹿馬鹿しい」
「こいつらが!」
マンボ姐は怒鳴って、座ったまんまの俺達を順に顎で示した。
「あたしに知らせたんだよ!ヨンアが他の女と一緒にいたってね!それが浮気じゃなくて」
「だから知っていると言っておろうが!少しは黙って人の話を聞け、この愚か者が!!」

びしりと音がする鞭のような鋭い声に、さすがの姐さんもやっと静かになる。
旦那の叔母さんはそれを見てからもう一度座り直した。
「共に居った女は武閣氏の隊員だ」
「武閣氏ぃ」
「ああそうだ。あの頑固者がどうしても助けが必要だと、わざわざ頭を下げに来たからな。そうでなくば許すものか」

叔母さんは思い出したのか、楽しそうに低く笑って頷いた。
「で。こんな話の為に呼び出した割には茶も出さぬのか。それならもう」
叔母さんが言った途端、姐さんがすごい勢いで俺とチホに振り返った。
「早く茶を沸かしといで!!いや、茶なんて面倒だね。酒、酒を持っといで、早く!!」

そう言われて俺は大急ぎで厨へすっ飛んで行く。
「頼むから俺達が戻って来るまで、話を始めないでくれよ!」
俺と一緒に厨へ走るチホが、おっかない二人に叫んだ。

 

 

 

 

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1 個のコメント

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    コモ公認の
    お役目のため~って ところかしら
    しかし… 
    スリバンボーイズも 怪しむぐらいの
    親密具合
    ウンスが見たら…
    見つからないことを 祈ります(笑)
    マンボ姐まで 探りをいれるぐらいだもん
    ウンス大事にされてるねぇ

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