2016 再開祭 | 手套・序

 

 

【 手套 】

 

 

「立春過ぎてもくっそ寒ぃな」
自分の息でせめて温まろうとするみたいに両手で鼻先から口まで覆いながら、真っ白の息を吐き出してチホが言う。

「冬だから仕方ないだろ」
「だからって寒すぎだ。手套のひとつもなきゃ槍も握れねえ」
ぶつぶつ言ってる奴と並んで、酒楼の門を出る。

「なのにあれやこれやって、姐さんは人使いが荒いしよ」
「暇を持て余すよりいいだろ」

チホの気短は今に始まった事じゃない。これでも旦那に鍛えられて、随分ましになった方だ。
何しろあの人はチホより気短で、そんな男を俺は見た事がないし
「・・・ヨンの旦那」

俺の呟きに、横のチホが足を止めた。
「何だよシウラ、いきなりどう」
俺の顔を見て、この視線の先を確かめたチホが無言で手を伸ばす。
指先が細かく震えてるのは、さっきまで文句を言ってた寒さのせいなんかじゃなくて。

「・・・嘘だろ」

俺の視線、チホの震える指先にある大路の先の飾り物屋の店先。
立春を過ぎて少しずつ柔らかくなる陽射しの中、一組の男と女が立ってた。

男はひと際背が高い。俯き加減の横顔でも見間違えようがない。
ああして黙って立ってる分には申し分ない美丈夫で、そこらの女よりずっと綺麗だ。
その姿形からはあの炎みたいな気性も、誰より気短なのも判りゃしない。

そのヨンの旦那が飾り物屋の店先に並んだ簪の一本を取り上げる。
女はその指に首を振って、いくつか隣にあった別の簪を指差した。

陽射しの中で、旦那と綺麗な女の並ぶ姿は一枚の絵みたいだ。

女の下ろした長い髪が冬の陽射しに透き通る。
横の旦那が女の示した簪を取り上げると、その手に渡す。

女が自分の髪を持ち上げて、緩く丸めて髷にする。
そして旦那から手渡された光る簪をそこに刺した。

旦那はそれを無言で確かめて、少しだけ首を捻る。
女は困ったみたいな笑顔を浮かべると簪を抜いた。

それを台の上に戻すと二人は並んだまま、また台の上の飾り物を吟味し始めた。
旦那は腕を組んで、時々隣の女を見て何か小声で言ってるらしい。
女は頷いたり、悩むみたいに指先で頬を押さえて、旦那を見上げて言葉を返す。

だけど俺が自分の目を疑ってるのは、チホの指先が震えてるのはそんなことじゃない。
旦那の横の綺麗な女が、俺達の知ってる天女じゃないことだ。

全くの別人。天女よりもう少し歳若で、背も天女ほど高くない。
手裏房なのかもしれないが、俺の知ってる顔じゃない。
チホの顔を見る限り、こいつも心当たりはないんだろう。

「シウラ」
さっきまでの愚痴り声とは全然違う、低い声でチホが呼んだ。
「何だよ」
「あれ、飾り物屋の主人じゃねえよな」
「・・・うん」

あの店の主人は、女の飾り物を扱うには強面過ぎる年嵩の男だ。
そしてその男はヨンの旦那と横の女に笑いながら、あれこれと品の説明をするように台の上を示してる。

「俺達は何も見てない。いいな」
「だってお前、あれ」
そう言いかけた俺を残して、チホが飾り物屋の二人にくるりと背を向けて、大路を歩き始めた。

「俺達は見てねえ。何も知らねえ」
チホは今度こそ本当に一人で呟きながら、酒楼に向かって足早に戻って行く。
「知らないってことはないだろ。何でヨンの旦那が」
その背を追っかけながら並んだ俺の声に
「知らねえよ」
奴は本気で怒ったように吐き捨てた。

「チホヤ」
「見てねえ。俺達は何も見てねえ!いいな!」
前を行くチホの怒鳴り声に、すれ違う通行人が驚いたみたいに振り返った。

「ありえねえよ。旦那に限って。ちゃんと聞こうぜ」
チホの前に廻り込んで、奴の足を止めるように立ち塞がる。
前を塞がれた奴は鼻息を荒げて、俺の顔を睨み返した。
「なんて聞くんだよ。天女をよそに浮気してるんだろってか!それで認める馬鹿な男がどこにいんだよ!」
「旦那に限ってありえねえよ。俺たち全員が知ってるじゃねえか。お前だってそうだろ、旦那の事知ってるだろ」
「知ってるから腹が立つんだよ!」

チホは握ってた槍の石突を、足元の根雪に勢いよく突き立てる。
固い根雪にその石突は刺さらずに、面の凍った雪が削れて舞った。
「天女がかわいそうだ」
「事情があるんだよ、きっと。ちゃんと聞けば」
「何を聞くんだよ!」
「ひとまずマンボ姐に確かめようぜ。俺達じゃどうしようも」
「お前とことん分かってねえな、だから何を確かめんだよ!!」

唾を飛ばして怒鳴りまくるチホを宥めるのはいつも俺の役だけど、今回ばっかりは何を言って良いか分からない。
肩を怒らせて走り出したチホを追っかけて、滑る固い根雪の上を俺は転ばないようについて行った。

 

 

 

 

ヨンが、ウンスの誕生日プレセントを考えて、サプライズを計画したんだけど、
それをウンスが浮気と誤解し悋気しちゃって、家出。手裏房でウンスは大宴会!
ヨンがすごく焦りドタバタした記念日になってしまったけど、最後は二人でデートしながら
夜空いっぱいの星の綺麗な丘を散歩して帰る。なんて、ロマンティックなお話をお願いします。
(たおるまんさま)

 

 

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1 個のコメント

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    ヨンに限って そんなこと…
    誰もが 目を疑う
    そして
    なんだかんだで ウンスの味方
    ウンスが可哀想だろ~って なりますね
    なりますよ
    何やってるんだよ~ ヨンの旦那 (。・ε・。)

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