「ねえ、ヨンア」
戻った高麗の夜。もう窓は透き通るものではない。
その外を吹く強い風が、窓の桟を揺らして過ぎる。
空は見上げる程高く、墨を流した程に黒く。
天に届く家々は無く、流れる光の川も無く。
揺れる油灯と蝋燭だけが頼りの夜。
その灯の許、開京へと飛ばす鳩に結ぶ文を書きつける俺の横。
この方が甘えるように肩へ凭れる。
「はい」
その小さな頭を肩に受け、そのまま筆を走らせる。
一刻も早く事の次第と、無事の帰還を王様へお伝えせねばならん。
「何だか変な感じがする。笑っちゃうわ」
「・・・何ですか」
本当に愉し気な甘い声の響きに、肩に凭れるこの方を横目で伺う。
「こんな風に思ったの。天門から出て来た時。あなたをもう一度見て、そしてテマンを見つけた時ね」
この方は堪え切れぬように、くすくすと笑い出した。
「ああ、帰って来た。良かった、一緒に帰って来れたって」
「・・・はい」
帰って来られた。それは俺達の居場所が天界では無いという事。
この方が俺の横、この高麗を居場所と定めて下さったという事。
その頭を肩で支えたまま認め終えた紙を、小さな筒へと詰める。
「テマナ」
兵舎の扉へ声を掛けると、すぐにそれが外から開く。
「はい、大護軍」
部屋内の俺へ駆け寄る奴の手に、その小さな筒を落とす。
「すぐに飛ばせ」
「はい!」
奴は掌の筒を大切そうに握り締めると俺を見、そしてこの方を見て懐こく笑んだ。
「見慣れたか」
「はい!」
「もう忘れるな」
「わ、忘れたんじゃなくて、そうじゃなくて、さっきは!」
からかった俺に慌てたように声を張り上げ、必死の形相で首を振る。
そんなテマンを見つめたこの方が、嬉し気に大きく笑んだ。
「開京のみんなも、変わりないのよね?」
「はい!」
「テマナ、どれくらいここで待ってくれてたの?」
その問いに天井へ眼を投げ上げ、テマンは指を折りながら言った。
「ええと・・・今日で、三晩です。大護軍が天門に向かったって、チェ尚宮様から聞いて。
すぐに行けって許しをもらって開京からここまで五日、ここで三晩・・・」
「そうだったんだ」
「はい」
「叔母様は?怒ってた?」
「そ、それが」
テマンは数えていた指を止め、天井に向いた眼を戻した。
*****
手裏房の酒楼の門から足音も無く踏み入る人影。
俺以外は誰も気づかず、盃を片手に騒いでいる。
近寄る姿に振り向く者もない。
影は頭から覆ったスゲチマを指先で静かに外し、此方へ寄りながらぼそりと呟いた。
「戻ったか」
気配を殺して近寄るなど悪趣味な。
声でようやく気付いたテマンとチュンソク、トクマンとチホ、 シウルが一斉に立ち上がり頭を下げる。
「チェ尚宮殿」
呼び掛けるチュンソクの脇を過ぎながら、叔母上が小さく頷く。
「隊長まで出迎えか」
「大護軍の鳩を受けてから、待ち詫び過ぎて首が伸びました」
「酔狂な」
揺れる蝋燭の灯の中、チュンソクが照れ臭そうに鬢を搔いた。
「大護軍も医仙もお無事で何よりです。チェ尚宮殿があの時即座にテマンを走らせて下さったおかげで、安心して」
「余計な事は言うな、隊長」
「・・・失礼しました」
チュンソクがゆっくりと微笑むと、叔母上は憮然とした顔を背ける。
「心配かけたな、叔母上」
「そんなものしておらん」
素気なく此方を一瞥し、叔母上は呆れたように吐き捨てた。
「お主らの突拍子もない言動を一々心配していたら身が持たん。勝手にしろ」
「よく言うよ、この女は」
新しい酒瓶を下げたマンボが、叔母上の横をそう言って過ぎる。
「あんたらが飛び出してった日に血相変えて此処へ来てさ。天門を見張れ、繋ぎを取れって。
珍しくあたしに頭まで下げたくせに」
「マンボ!」
さすがの叔母上も動揺したか、珍しく顔を紅潮させて小さく叫ぶ。
マンボは気にも留めず、手にした瓶を音高く卓へと置いた。
「何だい!本当の事言われたからって、あたしに怒るなんてお門違いも」
「叔母様」
この方が席を立ち、向かいに腰掛ける叔母上に向けて頭を下げる。
「先にテマンからも聞きました。心配かけてごめんなさい!」
「医仙」
叔母上は安心したよう目許を綻ばせかけ、口許だけをどうにか固く引き締める。
「如何でしたか、天界は」
「何と言っていいか・・・」
この方は惑うように、揃えた細い指先を白い額へ当てた。
「変な感じでした。帰って来たっていうより、何だか里帰り?
なんだろう、確かに自分がいた場所だったはずなのに、しっくり来ないというか。
でも優秀なツアーガイドだったと思います。知りたい事も、この人のおかげで調べられたし。
欲しい物も手に入ったし。ね?」
投げられた視線を受けて頷き、叔母上へ眸を戻す。
「王様には明日改めて拝謁する。今宵は」
「ああ。そうしろ」
此方の肚は見通しているのだろう。叔母上はこの方を眺める。
「ゆっくり寝かせてやれ」
その声にマンボも同調するよう頷く。
全く、どうしてこの女人たちはこうもこの方に甘いのだ。
俺だけなら叔母上は尻を蹴ってでも、先ず王様への拝謁を強要するだろうに。
そのまま天界の土産話に花を咲かせる女人たちを横目に息を吐く。
険悪になるより余程良いだろうと、どうにか己を誤魔化しつつ。

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さらんさん、こんばんは❤️
叔母様が一番心配だったでしょうねー!
唯一の身内だもの
口には出さぬともいつも心に留め置いている可愛い甥とその嫁御❤️
今夜くらいはゆっくりね♪
この方にみんな甘いって言ってますが、ヨン…貴方が一番ウンスに甘いわ( ´艸`)
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ウンスもすっかり 高麗の人になった感じ…
無事に戻ってこれたことを
喜ぶなんて 思いもしなかったでしょうね~
こうして 自分たちのことを
心配してくれる人が居ることを
とても嬉しく 幸せに思うでしょう
ますます 忙しくなるわね~
ウンスさん とりあえず
ゆっくり お休みください ( ´艸`)
ヨンも 安心して ウンスを寝かせてあげれるわね~
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ヨンさん、まさかの叔母様とマンボ姐さんに嫉妬?!(゜ロ゜;ノ)ノ
早く二人きりにさせてあげて下さい、叔母様・マンボ姐さん笑(▼∀▼)
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叔母さまの仰るとおりです。
ヨンとウンスの突拍子もない言動を、
気にしていたら、私の身も持ちません~(爆)
ヨンさん!
叔母さまとマンボ姉の事は言えませんよ。
この方に甘いのは、ヨン貴方です(笑)
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「帰ってこられた」と喜び、ほっとするウンス。それを聞き、ウンスも、この高麗が自分たちの住む処と思ってくれていることに、嬉しさを感じるヨン。
今まだ私の頭の中は、高麗と天界の時間差がどれだけあったのか、計算できていません。
ただ分かることは、それほど違いは無いような!?ということです。
叔母様、テマン、迂達赤の人たち、スリバンのマンボ姐さんたち、皆が二人を待っていてくれたことが、何より幸せなことですね。ヨンとウンスの、高麗を、高麗の仲間を、王様王妃様を思う心が強かったから、二人一緒に戻れたのだと思います。でも、待っていた皆の願いが強かったことも、ヨンとウンスが高麗に戻れた一つだったのでしょうか。
ウンスがヨンに寄り添い、油灯の明かりでくつろぐ様子、高麗に帰ってこられたことを喜ぶ様子、それが見られて、今夜の私はすごく満足です。
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叔母様…優しい。
何だか嬉しい気分になります。
ヨンとよく似て居て、それで嬉しいのかも…!