2016再開祭 | 玉緒・後篇

 

 

「おい、おめぇ」
師匠は面白そうに赤ら顔の中の目を見開いた。
「掏りで喰うなら、もうちっとまともな事でもしちゃどうだ」
「まともって何だよ。掏りを止めて役人にでもなれってか。なれるわけ」

違う違うと言いたそうに手を振ると、師匠はそいつを見たまんまにやりと笑う。
こんな楽しそうな顔の師匠は久しぶりに見た。マンボ姐さんも止める気はないのか、珍しく黙ってる。
おっかない顔の男は相変わらず静かにそいつを眺めてるし、ヨンって男は意味が判らないって顔で、その年嵩の男の横に立ってる。

「おめぇも裏で稼いでるなら知ってるだろ。手裏房に来ねえか」
「す、裏房」
「おう。明日気が変わっても、俺達にゃもう会えねえぞ。今日はおめえがたまたまヨンの懐を狙ったから、ここまで来れたんだ」
「何だよ、明日来たらもぬけの殻ってか。こんな立派な酒楼が、そんな簡単に引き払えるわけねぇだろうが。
餓鬼だからって馬鹿にすんなよ」

マンボ姐さんが呆れたように肩を竦め、黙って厨に戻ってく。
師匠はまだ面白そうに奴を見てるし、おっかない男は生意気な男じゃなく師匠を見てる。

「口は達者だが、やっぱり若ぇな」
師匠はうんざりした顔で分厚い片手を払うように
「帰れ帰れ、俺の見込み違いだ。鬱陶しいからとっとと出てけ」

そう言って大きな音で座ってた椅子を軋ませて立ち上がる。
それをきっかけに逆に音もなく立ち上がったおっかない男に
「師兄。しばらく居るんですかい」
「数日はな」
「何かありゃ、号牌をかざしてくれりゃ良い。すぐ行きますぜ」

そんな風に最後におっかない男に深々と頭を下げて、出て行こうとする。
その背中について俺も出ようと、師匠を追っかける。
悪い奴じゃないとは思う。だけどこのおっかない男とヨンって男は怖い。
用がないなら、あんまり向き合ってたくない。

「ま、待てよ!」
一人でそこに残されそうになった奴が、急いで師匠に声を掛ける。
師匠は面倒くさそうに奴に向かって振り向くと、白髪交じりの長い髪の鬢辺りを指先で掻いた。
「うるせえな。帰れって言ったろうが」
「手裏房に入ったら」
「入ったら」
「入ったら・・・なんか面白い事、あんのかよ」

面白い事って何だよ。 師匠も呆れたみたいに首を振ると
「あるわけねえだろ。おめえはじゃあ掏りで、面白い事あるか」
吐き捨てるみたいにそいつに聞いた。
痛いとこを突かれて口を結んだ奴に
「良いかぁ。俺は喰う為にやってんだ。それともう一つ、命より大事な、恩のある人の為にな。
面白いの詰まんねえのと御託を並べんなら、とっとと帰れって言ってんだよ」

師匠が入口で立ち止まってるからか、それとも他に何かあんのか。
さっきのおっかない男とヨンも、立ち上がったまんまで動かない。
立ってる俺達四人の目に見られた生意気な男は、
「入れて、くれ」

絞り出すみたいに、師匠から目を逸らして小さい声で言った。
「俺も、手裏房に入れてくれ」
「くれじゃねえだろう、それが人に物を頼む口の利き方かよ」
生意気な口に機嫌をを損ねた師匠が、怒ったみたいに言うと
「入れて、下さい」

そいつは口を尖らせて、さっきよりもっと小さい声で言う。
師匠はやっと満足したみたいに笑うと言った。
「ついて来な」

そして扉から出ながら
「おい、新しい若いのが来たぞ!飯、喰わせてやれ!」
厨に向かって大声を張り上げると、顔も出さないマンボ姐さんの
「まーたただ飯喰らいが増えたのかい!さっさと仕事を覚えとくれよ!」
そんな怒鳴り声だけが返って来た。
支障はもうそれには返事はしないで、目の前の奴に訊いた。
「おめえ、名は」
「チホ」
「シウラ。チホに中を案内してやれ」
「うん。分かった」

初めてちゃんと向き合うと、そいつと目が合った。
俺よりちょっと背が高いけど、歳はそう変わりないだろう。
「俺、シウル。部屋は俺と一緒で良いよな」
「あ、ああ」
「じゃあこっちだ」

そう言って離れに歩き出した俺に、釣られたみたいにチホがついて来る。その時
「馬鹿野郎どもが!!」
急に後ろから師匠に怒鳴られて、びっくりした俺は足を止める。

「お前らの大師匠と兄弟子に無断でどこ行く気だ!挨拶してからだろうがよ!!」
その声に俺達は慌てて、おっかない男とヨンの前に駆け戻った。

「ヨンア」
駆け戻って雁首並べた俺達に、おっかない大師匠が呼んだ。
「はい、隊長」
「お前の兄弟弟子だ。開京に居る時はしっかり教えてやれ」

有無を言わさない枯れた低い声に、ヨン・・・いや兄弟子の、何とも言えない唸り声が聞こえる。
「よろしくお願いします!」
俺がぺこりと深く頭を下げると、横のチホも首を折った。

 

 

 

 

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3 件のコメント

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    サランさん、初めまして!信義にはまり、何度も何度もDVDを見ては涙を流し…ソンジナさんの小説も途中ですが何度も読み、そしてまたDVDを見て…!
    そんな時サランさんの小説に出会い、2014年から溯り、毎日何時間も読んでは感動して、大好きなシーンは何回も読んでは涙涙で感動しています!
    アメーバ登録は受け付けていないとあり、全部読めないのがとても心残りです…꒰ ˃̆ૢ௰˂̆ૢഃ◍꒱ ੭ੇʓ ੭ੇʓ✧
    まだ2015年の8月のお話を読んでおります。
    毎日楽しく、時間を忘れて楽しみに読んでおります!
    アメーバのみなさんは、全部読めていらっしゃるのですよね?
    是非、私も読みたいです!!
    登録しないと読めないのでしょうか?
    どこかで読める方法とかありますか?
    私もお仲間に入れてほしいです‼︎
    信義に出会ったのが遅かったことに、今更ながら後悔しております…꒰ ˃̆ૢ௰˂̆ૢഃ◍꒱
    読める方法があれば、教えて頂きたく、コメントさせて頂きました!
    どうぞよろしくお願いします‼︎
    サランさんの信義、本当に素晴らしいです‼︎

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