2016 再開祭 | 石蕗・後篇

 

 

迂達赤のみんなが、チェ尚宮の叔母様が、そしてトギが心配そうに出て行った、静かな部屋の中。
キャンドルの灯の揺れる下、2人きりで向かい合う。

怖がらないで。
向かい合ったあなたに、心の中でお願いする。
逃げないで。
これから何があっても、あなたとなら大丈夫。

悲しまないで。
これからも一緒に生きて行くために選んだの。
泣かないで。
もし私に何があっても、後悔したりしないで。

私はあなたを信じてる。チャン先生を信じてる。そして自分の選択を信じてる。死んだりなんかしない。
そしてあなたが一緒なら、何が起きても怖くない。

あなたに伝えてない事がある。あの時聞かれた、私の好きなもの。
高い背、大きな手、青と灰色の鎧。いつでも私を探してくれる瞳、私を呼ぶ低くて優しい声。

離れないわ。何があっても1人にしない。
そしてあなたの腕の中なら、何が起きても安心して眠れる。

起きたら笑ってね。 そんな悲しい顔を見るのは今日で最後。
明日も一緒に笑えるように、私は今日を精一杯生きる。

握った茶碗の中、毒を溶かした酒を飲み干して息を吐く。
あなたが我慢できないように、静かに向かいの席を立つ。

 

医者の短所は、こうして冷静に経過観察するところ。
たとえ自分が服毒しても、意識がある限りデータを取ってる。

脈。呼吸。心拍。体温。その変化の過程。
あなたがこんなに真剣な目で、私を抱いていてくれるのに。

心配しないで。観察できるってことは、頭が回ってるってこと。
少しずつ遠ざかる意識の中で、最後に冷静に考える。

使った薬。溶かしたアルコール。間違ってはいない。
これで明日目が覚めたら、必ずメモしておかなきゃ。

残しておけば、いなくなってしまったチャン先生にも典医寺のみんなにも言える。
以毒制毒。あれって本当よ。私が体験者。生還できた。
ああ、そんな心配そうな顔しないで。 そんな悲しい目をしないで。

わらって?

そう。そんな風に笑って。

あの時選んでくれた、きれいな赤と藍色の絹の服。真っ白い絹の靴。そしてキラキラ光るノリゲ。
黄色い花がいっぱいに咲いた場所。

背の高い後姿。広い肩幅。長い手足。あなたを見間違える事なんてあるわけない。

そこで待っててくれる後ろ姿に駆け寄る。待たせてごめん、でも帰って来るって言ったじゃない。

もう離れたりしない、やっと一緒にいられる。ごめんね、って言おうとして声が止まる。

ねえ、どうして泣いてるの。何があったの。

私はここよ。ここにいる。あなたの目の前に。

あの時みたいに抱き締めたくて、もう一度手を伸ばす。

あの時は何も出来ず、ここにいちゃダメかなって泣くだけだった。

でも戻って来たの。もう心配することなんてないの。

ここにいる。いちゃダメかなって聞くんじゃなくて。

ここにいるから、ねえ、いいよって言ってよ。

一生一緒にいるって約束してよ。あの時言ってくれたみたいに。

もう一度聞きますって言ってくれたよね?

私の解毒が終わったら。帰らなくていいって決まったら。

その時もう一度聞くから返事をくれますか、そう言ってくれたよね?

隊長?

あなたにあげた黄色い小菊が揺れる。

風に吹かれて、黄色い波のように。

あなたが泣いてる。声もあげずに。

拭いてあげたい。抱き締めたいのに。

泣かないで。

その手の中に握るアスピリンのボトル。

ちゃんと飲んでくれたのね、空っぽになってるのに安心する。

その中に残った一輪のドライフラワー。

すっかり色も褪せてるけど、あれはきっとあの時に渡した花。

悲しまないで。

あなたが一緒にいてくれれば、何があっても怖くない。

一緒にいられるように、私は精一杯生きたから。

どんな結果になっても後悔したりしない。

最後に笑ってありがとうって、心からあなたに言える。

一緒にいさせてくれてありがとう。

ワガママな私を許してくれてありがとう。

大切な気持ちを教えてくれてありがとう。

守ってくれてありがとう。守らせてくれてありがとう。

最後の、一番大切で勝手なワガママを聞いてくれる?

笑って。隊長。

笑って。

そして私の声に頷いて。私はいつでもあなたを呼んでる。

そこにいる?

この声が聞こえたら、もしも気づいたらあの声で答えて。

そして許して。ワガママな私が、あなたの側にいること。

風になって、お日様になって、花になって、雪になって。
どんなに姿を変えても、あなたを笑わせてあげる。

どんなに時間がかかっても、必ずあなたを探すわ。
どんなにケンカして、素直になれなくて、擦れ違っても。

きっと出逢わずにいられない。そして愛さずにいられない。

私はあなたの側にいる。だから探して。私を呼んで。そして私の呼ぶ声に答えて。

大好きなあの瞳で、大好きなあの声で。
大好きなその手で私の手を握って。もう二度と離さないで。

起きなくちゃ。起きてもう一度必ずあなたに言わなくちゃ。
言えなかった一番大切な言葉。そして心から伝えたい言葉。

あなたを愛してる。

眩しい光の中、ベッドの上で私はゆっくり目を開ける。

 

 

 

 

2 件のコメント

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    ヨンのため
    ヨンと一緒に居たいから
    運命の人に出会っちゃったんだもん
    そんな自分のため
    ウンスらしい 決断。
    かなしいかお するなと言われても
    心配で、心配で…
    だって ウンスは 大事な人だから。
    (。•́__ก̀。)

  • SECRET: 0
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    あの時の、ウンスとヨンの様子が、頭の中を廻っています。
    ヨンを愛しているから、ヨンの側にいたいから、
    ヨンを悲しませたくないから…
    だから、選んだ道。
    以毒制毒…
    ウンスの心の声がヨンへの愛に溢れていて、涙でこの文字を読むのが辛いくらい。
    ヨンは、あの時、ずっとウンスを抱き締めてくれていたのですよね。
    どんなに心配したか…
    ウンスは、目を開けようとしていますよ。
    ウンス自身の闘いに勝ち、目を開けようと…

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