2016再開祭 | 玉緒・序篇

 

 

【 玉緒 】

 

 

冷えた風が頬に刺さって、槍を振る手を止める。
弾んだ息を整えると、目の前のでかい男の顔を確かめる。
「図体負けかよ。根性がねえんだ。やめちまえ、そんななら。その程度の腕で旦那や天女を守れる訳ねえよ」

吐き捨てられて悔しそうに顔を歪めると、奴は唇を噛みしめた。
「やめる訳に行くか。俺だって守りたいものがある」
「あるんなら」

奴が体を起こそうと杖代わりに突いた大槍を、握った槍で払う。
重心を預けた大槍を失くした男は、もう一度地面にへたり込む。
「命懸けてる槍を杖にすんじゃねえよ。歪むぞ。いざって時にそっから折れたら、自分も相手も守れねえだろうがよ」

白く埃っぽい枯れた地面にもう一度へたり込み、奴は悔しそうな顔で俺を見上げる。
何も言えないだろ。言い返せねえだろ。荒っぽいけど、言ってる事は間違ってねえ。
「チホヤぁ、そんくらいにしといてやれって」

俺達二人の応酬に大して興味なさそうな声で、シウルが背中の矢筒から一本抜いた矢尻の尖りを確かめてからふっと息を吹きかけて、指先の襤褸でこする。
「トクマンだって頑張ってんだからさ。お前の調子でやるのはまだ無理だろ」
「うるせんだよ、お前は引込んでろ!弓と違って、槍は鍛錬が必要なんだよ!」
「は、何だそれ」

吐き捨てた俺に気分を悪くしたらしいシウルが、磨いていた矢を矢筒に戻すと、険悪な顔で座り込んでた石段から立ち上がった。
そっから軽い身のこなしで地面にひょいと飛び降りて、こっちに向かって歩いて来る。
普段は気の良い男だけど、こんな顔をしてる時には面倒になる。俺は退かずに立ったまま、近づくシウルを睨み返す。
「そうだろが。旦那の弓に憧れて始めやがって。俺は旦那が槍を持たねえから槍にしたんだ!物真似猿のお前とは違うんだよ!」

その声にシウルも負けずに言い返す。
「お前、馬鹿じゃねえのか。旦那は槍を持たない訳じゃなくて、鬼剣があるから持つ必要がないんだよ」
「だったら旦那の剣の届かねえ敵を斬るにも刺すにも、槍の方が良いじゃねえかよ!」
「旦那の剣が届かないとこに、お前の槍が届くわけがないだろ。旦那の一歩がどれくらい広いかも知らないのかよ。
その一歩が届かないとこの敵なら、弓の方が」
「ちょ、っと待て」

俺達が喧々諤々の言い合いを始めたところで、地面にへばりついてた大男が声を上げた。
俺は苛々と地面の大男を睨みつけると、唾を飛ばして怒鳴る。
「お前が一番使えねえんだから、黙ってろ!」
「だからそうやってトクマンに怒鳴るなよ!」
「お前もうるせぇんだ、こいつの槍の師匠は俺だ!」
「あああ、だから二人とも、一旦待てって」

一々怒鳴りあう俺らを分けるみたいに、大男の声が被さる。
「お前ら、そんなに昔から俺の大護軍を知ってるのか」
「当たり前だ。俺の大護軍なんて言うんじゃねえよ。付き合いはお前より俺らの方がよっぽど長ぇぞ」

俺が得意げにふんと鼻を鳴らすと、大男が目を丸くした。
「知らなかった」
「まあ、言った事もねえしな」
「・・・そうか。なぁ」

トクマンが興味深そうに地面から立ち上がると、白く汚れた尻を手の平で叩いた。
背が高いせいで、尻の位置も高い。土埃をまともに喰らった俺は、黙ってその尻を蹴った。
「何するんだ!」

蹴った拍子につんのめったトクマンは、それでも槍だけは手放さずに俺へ怒鳴る。
「師匠の目の前で尻叩いてんじゃねぇ!こっちに埃が来るだろ」
「あ、す、済まん」

やけに素直に頭を下げた後、トクマンはもう一度俺達を見比べるように目を当てる。
「・・・何だよ」
「確かに聞いた事がなかったと思って。お前ら、俺の大護軍とはどうやって知り合ったんだ
「だから俺のて」
「知り合ったっていうかさ」

俺がそれ以上何かを答える前に、シウルが引き取ってトクマンに笑う。
「ヨンの旦那が手裏房に顔を出し始めた時は、俺はもうここにいたから」
「・・・そんな若い時からか」
「若いどころか、七つの時からだぞ」
「七つでどうやって手裏房に入るんだ」
「入ったわけじゃなく、俺の親父が手裏房の一員だったんだ」
「父上の代から手裏房なのか!」

父上と呼ばれてくすぐったそうに、シウルが頭を掻く。
そして前歯で下唇を噛むと、懐かしそうに頷いた。

 

 

 

 

この2人って生い立ちや、弓や槍をどうやって覚えたか、スリバンに

入ったきっかけなどを さらんさんのお話で読んでみたいです。

いつもヨンのサポートに奮闘するスリバンボーイズに光を*\(^o^)/*

(もなさま)

 

 

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