2016再開祭 | 秋茜・柒

 

 

辿り着いた議政府の殿の門。
離れた物陰から伺い、見張りの衛兵が立たない事を確かめる。
縦しんば無人でも宮廷の中枢。周囲に兵の気配が全くないなどそれ自体が妙だ。

人払いをかけている。

夜陰に乗じ堂々と無人の門を破り殿へ踏み込み、暗い廊下に人影を見る。
その廊下に漏れる、たった一筋の灯の射す部屋扉前に。

そこに居ると敵に教えるようなものだ。誰か護衛の付くような、重要な者が。
賢いのか愚かなのか、抜け目がないのか杜撰なのか。
狡猾なのかと思っていれば、詰めの一手がこう甘い。

よく判らんと思いつつ、暗い廊下を真直ぐに進む。
目と鼻の先まで近づいて、やっとの事でようやく気付いた護衛がこちらを振り向く。
遅過ぎる。
既に懐まで飛び込んだ距離で鞘を返し、柄の台尻で思い切りその鼻面を殴りつける。
鼻血を吹いて倒れる体を受け止め、そのまま抱えて廊下の端まで引き摺る。

さすがに議政府殿の廊下板は、よく磨き込まれておるらしい。
昏倒した男を突き当りの窓下まで苦も無く引き摺り、そのまま放って寝かせておく。

そして何食わぬ顔で廊下を戻り、その部屋前に立つ。
中のパク・ウォンジョンが部屋外の影がない事に気付けば面倒と思っただけだった。
あの声を聞くまでは。

暗い廊下は静かすぎる。中の声など筒抜けだ。
己もそれが判っていたからこそ人払いを掛けたのではないのか。
女もそれが判っているから、そんなに声を顰めているのだろう。

ソンジンを内禁衛に。

はい、大監。

成程な。俺の意思など確かめる必要はないらしい。
先日王との拝謁で、女を横に明言したというのに。

お前らの好きに操れるなら、あの時王に返答していた。王に返した答こそが全てだ。
たとえ故国でないと云え、王に問われて嘘など吐かん。

策略だろうと謀略だろうと、お前らの好きにしろ。
人材が必要ならば、地に這い蹲っても掻き集めろ。
しかし俺には近寄るな。お前も女も、もう二度と。

ウンス。いつまで続くんだ、由佐波利の揺れは。
前へと覚悟を決めれば、大きく引き戻すような事が起きる。
生きるべき場所だと覚悟を決め、あの女にお前の面影が重なれば、こうしてそれを覆すような事が起きる。

何処で間違えたんだ。どうすれば良いんだ。

扉前を離れて近寄る暗い廊下の先の丸窓。淡い月光の差し込むそこに剣腕を伸ばす。
こうして伸ばす指の先に、お前がいない。次は心のままに走る足まで縛られるのか。
刀を握っても振るうて守りたい者が居らぬのならば、俺は一体何の為に、誰の為に。
あの光にも風にも背を向けて、お前に続く道を自ら断って、一体何の理由で此処に。

背後で開く扉の小さな音を聞きながら、反射的に身を翻す。
丸窓からの月光を背に、部屋内から出て来る影を確かめる。
やはりパク・ウォンジョンは詰めが甘い。
立てた見張りが居らぬのも気付かずに、女を一人で廊下へ出すとは。

敵でなくて良かったな。ただし二度と味方にもつかぬ。
剣を抜く事まではないが、守る為にも二度と振るわぬ。

こんな風に思う日が来るとは。

女の影が近寄るのを確かめつつ、暗い廊下に息を吐く。
これ以上は真平だ。
大義なく利用されるのも、信じた者に裏切られるのも。

目前まで寄った女の顔が、月光の中の俺を確かめ凍り付く。

そうだ。信じた俺が愚かだった。
あの頃高麗で、隊の他の兵に見捨てられたのも忘れて。

忘れていたんだ。お前が忘れさせてくれたんだ。
真直ぐな瞳で、信じると言われた時に。
この手に握る鍼に、お前自身の命を預けてくれた時に。

密談が露見して、顔を強張らせているこの女とは違う。
逃げ場を求めようと答をはぐらかすような女とは違う。
お前とこの女が似ている訳などなかった、最初から。
信じた俺が馬鹿だった。

いつまでも答えない女を置いて、暗い廊下に踵を返す。
行くあてもないが、何処に行こうと此処よりはましだ。
何処でも良い。この女とパク・ウォンジョンの顔を二度と見ずに済む処なら。

 

 

 

 

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