2016再開祭 | 桔梗・捌

 

 

「あの白いスーツの女性はユ・ウンスっていうんですね?!」
「ソン・ジウさん、落ち着いて」
「られるわけないじゃないですか、教授!」

この人は何故冷静でいられるの?許されるならその頭の中を覗いてみたいくらいだ。
高麗末期の鎧を着た男。被害者の名前はユ・ウンス。

まさか、あれは何かのメッセージ?
誘拐犯の手がかりを教えるのに、ユ・ウンスがわざと高麗時代の紙を手に入れたとか?
ドクターならお金もあるだろうし、古物商かどこかで高価な墨や紙を買うことだって不可能じゃないのかもしれない。

そうだ、高麗時代の人間だと前提があるから行き詰るのよ。
現代人なら当然ジャガイモを知ってるし、ハングルも書ける。
あれがもし消えた・・・ううん、誘拐された画像のユ・ウンス、本人のメッセージなら。

私に向かって呆れたように大きな溜息を吐くと、教授が指先でメガネのブリッジを押し上げる。
「あり得ない。冷静に考えなさい、学者らしくない」
「それでも手がかりゼロよりましでしょ!!」

気持ちばかりが焦り、ついぞんざいな口調になってしまう。
その乱暴な声にさすがの教授も不快そうな表情を浮かべた。
「ソン・ジウさん」
「あ、あの、教授もソンさんも、御二人とも一体何を」
「ユン刑事」

突然始まった口論に、ユン刑事が意味が判らないというように慌てて口を挟む。
ズレまくってしまった道を軌道修正しようとしたのか、教授はとても冷静な声で念を押すように言った。
「その名前の言えない方が行方不明になったのは、数日前ですよね?」
「・・・はい。3日前です。よくご存じですね」
「映像の下に、日付と時刻が表示されていましたから」

・・・何だろう。本当に頭にくる。そんな風に当然でしょって顔で言われると。
けれどユン刑事は、教授の声に満足そうに笑う。
「あの映像で、そこまで見ておられましたか。普通でしたら日付にまで目は行きません。
何しろ映像が衝撃的でしょう?普通ならそちらのインパクトに目を奪われる。さすが教授ですね」
「そこまで褒めて頂くと、却って裏事情を疑います。何か企んでいるのかと」
「成程」

否定も肯定もせず笑っているところを見ると、本当にユン刑事は何か企みがあるのかもしれない。
けれど教授はそれ以上触れず、私に向かって諭すように言った。
「だからあり得ないのです。ソン・ジウさん」
「どうしてですか?!」
「例えば書簡の発見年、1395年自体が嘘だと仮定しましょう。
何らかの手違いで、近代の書簡が紛れ込んだとしましょう。
しかし私は文化財庁に調査員として就任した8年前から、あの書簡を調査している。
それだけであなたの仮説は成立しない。判りますね?」
「・・・8年前・・・」

これこそ決定的。3日前に行方不明になったユ・ウンスの手紙が、8年前に存在するわけがない。
「あの、宜しいですか」

興奮状態だった私が肩を落としたタイミングを見計らうように、ユン刑事がもう一度そっと話に割り込んできた。
「お二人とも、一体何を・・・」
「宗廟の文化財にその方と同じ名前の記された書簡があるので、彼女が勘違いを起こしただけです」
「同じ名前ですか。そんな書簡が」
「発見時期と内容が史実と相違する為、文化財庁が調査中です。一般公開はしていません」

教授は嘘はつきたくないらしい。端的に説明すると、もう自分の用は済んだと判断したのだろう。
ユン刑事に向かって軽く頭を下げると
「もしもこれ以上の調査が必要でしたら、ご連絡を頂けますか?どこまでお役に立てるか、甚だ疑問ではありますが」

そう言ってユン刑事の返事も聞かずくるりと部屋のドアの方へ向くと、黙って歩き出す
私はユン刑事に頭を下げると、慌ててその背中を追い掛けた。
「では、解析画像を明日にでもお届けします。とにかく誘拐は初動捜査が重要です。
発生から時間が経てば経つほど手掛かりが減り、犯人の逃走を許す事になります。
申し訳ありませんが、もうしばらくご協力頂けませんか」

ユン刑事は見送ると決めたのだろう。
目礼しながら私を追い越し、教授に並んで、廊下を歩きながら言った。
「判りました。こちらでも担当調査員に声を掛けておきます」
「恐れ入ります。それと」

ユン刑事はその声に頷きながら、さりげなくノンビリした声で
「文化財には詳しくないので、先にお詫びしなければなりません。無駄なお時間になってしまうかもしれませんから」
「・・・何でしょう」
「解析画像をお届けする時、その噂の書簡やらを見せて頂く事は出来ませんか?」
「お伝えしたでしょう。一般公開はしていません」
「ええ。ですから教授から特別に手配して頂ければと」

ユン刑事は無邪気な顔で、教授に向かって図々しい事を言った。
「それは上層部の判断する事です。私には許可は出せません」
「でしたら是非お力添えを。誘拐事件に無関係と判れば・・・いえ、もちろん99.9%無関係でしょうが、そう立証されれば良いので」
「99.9%?」

ユン刑事の言葉に、教授はウンザリしたように首を振る。
「99.9%ではありません、ユン刑事。今回こそ100%です」
「・・・そうですね。ついどんなところにも可能性を捜してしまう。悪い癖です」
「まあその方がタイムスリップでもすれば、話は別ですが」
「確かにおっしゃる通りですねぇ」

教授の面白くもない冗談に、ユン刑事がははは、と乾いた声で笑い返した。

 

 

 

 

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1 個のコメント

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    頭の中が ぐるぐるぐる
    3日前に居なくなった ユ・ウンスが
    書いたかもしれない 書簡が
    8年前に 見つかってて…
    普通じゃ考えられないこと
    そんなこと 有るわけないじゃないですかー!

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