2016再開祭 | 桔梗・参

 

 

ユ・ウンス 유은수

Daum、NAVER、Google、一通り検索エンジンで検索を掛ける。
並んだ検索結果に、手掛かりになりそうなものは一切ない。

ユ・ウンス+高麗 유은수+고려

検索キーワードの変更は、一気に検索結果の数が減るだけだった。

力尽きて、庁内の与えられたデスクの上にばたりと突っ伏す。

頭を抱えて呻きたくなる。どうして配属早々こんな目に。
文化財庁に就職が決まった時はラッキー!と叫んだのに、その最初の仕事がこんな謎解きだなんて。

突っ伏したまま、目の前の資料の山を薄眼で見る。
そこに並んだ印刷物のハングルの文字をぼうっと追う。

一つだけ、とても気になる事がある。
あのサイン。
은수 の은のチャウムの丸が、塗り潰されていた事。

あれは学生の飾り文字にとても似ている。
若い子達がチャウムのㅁやㅇをハートマークのように書くのに似ていた。
同期入庁の、いかにも考古学にしか興味ありませんよって顔の堅物君たちが、そんな文字の存在を知っているかはともかく。

1350年代から1380年代、高麗末期にハングルで書かれている、ありえない書簡。
既にその時代に、カムジャを知っていたとしか思えない一言。

トラジとカムジャ 도라지 와 감자

トラジ、桔梗だけならまだ判る。古来から漢方として用いた文献は残っている。
だけどカムジャだけは、どうしたって説明がつかない。

ジャガイモの伝来は中国経由1824年という説が有力で、実際に救荒植物として農民に普及したのは憲宗の時代。
在位が1834年から1849年だった事を考えても、その史実との齟齬はない。
今回の書が1605年のものなら、大きな発見だと思ったのに。
「ソンさん」

発見された最古のハングル書簡。
1490年の羅臣傑の文以来、こんなチャウムの書き方をしている書簡を見た事はない。
庁内のイントラネットで確認できる、現存するハングル書簡を出来る限り確かめた。
どの書簡もまるで印刷物のような四角四面のハングルが並んでいて、確かめるだけで頭がクラクラした。
「ソン・ジウさん」

机に突っ伏したまま眺めていた資料が見にくくなる。
結ばずに下したの髪の毛が視界を塞ぐように落ちて来る。
鬱陶しいけど、かき上げる元気も残っていない。
「ジウさん。ソン・ジウさん」

あなたは一体誰なのよ、ユ・ウンス。高麗時代に、一体何を知ってたの?まさかエイリアンとか?
「ジウさん」

そこで肩をそっと揺すられ、ギョッとして勢い良く起き上がる。
その瞬間ガツンと来た衝撃と大きな音。
周囲のデスクの先輩や同僚が椅子から立ち上がって、デスクのパーテーション越しに私のデスクを覗き込む。

「い、痛い・・・」
私が頭を抱えてもう一度デスクに突っ伏すのと
「・・・うう・・・」
担当教授が顎を抑えて、床にしゃがみ込む声がシンクロする。

頭と顎がぶつかった衝撃で飛んだ教授のメガネが、離れた床にポツンと落ちている
「申し訳ない。急に起き上がられるとは思いませんでした」
教授はしゃがみ込んだままそのメガネを指先で拾うと、ふうと息を吐きかけてホコリを払う。
その後スーツのポケットから出した皺っぽいハンカチで、丁寧にレンズを拭いた。

その間一言も話さない。不器用な人なんだろうか。
ようやくメガネを掛け直してから私の顔を確かめて立ち上がり
「頭は、大丈夫でしたか」
確かめる声に私がどうにか頷くと
「ではこれを持って、付いて来て下さい」
渡されたのは一昔前のビデオくらいのサイズの赤外線カメラ。

「・・・セキュリティルームですか?」
また一日中あの手紙とにらめっこだろうか?
カメラを受け通って頷き、デスクを立ちあがる私に首を振ると
「いえ。奉恩寺です」

それだけ残し顎を押さえて、教授はよろよろ先に歩き出した。

 

 

 

 

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