「待たせた」
庵の入口からの低い声を久々に耳に、思わず笑みが浮かぶ。
相対していた村長が頷くと、椅子から腰を上げる。
声に続いて庵に踏み込む大護軍の御姿。
いつ見ても変わらない。必ず医仙を脇に、悠々と大きく。
こんな事を臣下の私が口にするのは赦されない。
ましてこの方は絶対に赦さない。けれど思いは止まらない。
迂達赤大護軍チェ・ヨン殿。
この方の纏うものこそ、私の理想とする真の王の気だと。
初めてお会いした時からだ。
生意気な口を聞いた私を罰するでも、相手にするでもなかった。
二度目にお会いした時には御婚儀の決まった医仙を脇に、真摯に声を掛けて下さった。
いつお会いしても、ご自身の立場以上の事には決して口を挟まず。
いつ言葉を交わしても、誤魔化す事も権威を振りかざす事も無く。
この村の民は、私が守る者たちだ。そして私は、王様の民だ。
民は長に全幅の信を置き、長は何があろうと民を見捨てない。
私が仕えるべきは王様だ。
けれど大護軍が居られねば、私は私の領で武器や防具を作る事を認めただろうか。
たとえ王命とはいえ、あの時工房を大きくする事を認めただろうか。
口実など幾らでもある。人手が足りぬ。鉄が足りぬ。炭が足りぬ。
だからどれだけ命じられようと、これだけしか作れない。
見ても判らぬ。作れない。新しい武器や防具など考えもつかない。
そう言おうと確かめる方法など無い。人の頭は覗けない。
私の守る民に無理を強いるには、相応の原則と道理が必要だ。
そうでなければ彼らに頭を下げ、無理を押して頼むなど絶対に出来ない。
ところがひとたび大護軍の頼みとならば、民が頭を下げに来る。
石を掘らせろ、炭を集めさせろ、新たな武器や防具を作らせろ。
大護軍が必要としているのだから、どうかそうさせて欲しいと。
村長は大護軍を迎え、これ程嬉し気に顔を綻ばせている。
鍛冶は工房で大護軍のおいでを、今や遅しと待っている。
そして私は久々に大護軍に顔を合わせ、誇らしさで胸が躍る。
私の民に、その民が選んだこの方に。
そしてこの方の守る高麗の民である己自身に。
「領主殿」
正面で対した大護軍が、私の顔を見て声を低くする。
「何か佳い事でもあったか」
人の頭は覗けない。私は微笑んで深く頷いた。
真に正しいものを選べる私の民、そんな村を治められる幸運な長がこの世に何人いるだろう。
仕えるだけで涙が出る程嬉しいと思える長に会える、そんな幸運な民がこの世に何人いるだろうと。
*****
「大護軍!!」
案内された工房の入口、小柄な影が大声で呼ぶ。
「さっさと歩くですだよ!!」
その大声に横のこの方が笑う。
小さな体がこの手に下げた荷を奪うように攫うと、俺だけを置いて走り出す。
「鍛冶さーん!」
「医仙!元気でしたかよ」
「はい!」
先に辿り着いたあの方と二人、工房前での大騒ぎに苦笑いを浮かべたチュンソクが頷いた。
「気が合うようですね」
「・・・どちらも風変わりな女人だからな」
俺の声に、逆脇のセイルが小さく笑う。
「医仙も此度、また新たな道具を御所望ですか」
「ああ。それも一つ二つではない」
「そうでしたか」
早速包みを示し、鍛冶に何やら話しているあの方。
頷きながら興味深げに、包みを開き覗き込む鍛冶。
「セイル殿」
「はい、大護軍」
「面倒かける」
「鍛冶や民が、自ら望んでやっています」
女人二人に向けて、セイルは穏やかに頷いた。
「・・・此度あの方は、厠の土も欲しがっている」
「厠の」
「ああ」
「それでもやるでしょうね、鍛冶のあの様子なら」
包みから取り出した赤錆だらけの道具を確かめる鍛冶。
その鍛冶に向け何かを頻りに訴えている様子のあの方。
「民が幸せなら、したいと思うなら、私は止める事はありません。
厠の土が必要なら、関彌中から集めて参ります」
「領主自らがか」
「勿論です。私は鉄が打てませんから」
判り切った事を何故聞く。そんな目で若き領主は俺を見る。
馬鹿は開京にだけ集まっている訳ではないらしい。
領主自ら肥桶を担ぐと宣言するなど。
首を振る俺の溜息に、チュンソクが堪え切れぬよう噴き出した。

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この二人のまわりには
どうも 同じような人が
集まってくると言うかなんというか…
縁があるのね~
気が合うって 大事よね
チュンソクも 警戒しっぱなしだったけど
巴巽村の人々と この二人の
やり取りを見ていれば もう ホッとするんじゃないかしら~
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誰からも愛される
ヨンとウンス。
素晴らしい家族に囲まれて
幸せな二人です(*^^*)
鍛治さん。
ウンスの道具に、興味深々ですね(笑)
鍛治さん~頑張ってくださいね❤
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馬鹿は開京にだけ集まっている訳ではないらしい…
ちょ!!ヨンさん、その言い方~!!笑っ
此処彼処にも大護軍の為、勿論医仙の為ににって思ってる人達が沢山居る。
真っ直ぐで信と義のある武人だからね!!
セイルだってその1人。
頭の中まで分からないねぇ…
相手はチェヨンですよー
粗方分かってると思いますが!笑
だってその証拠に溜息ついちゃってますヨン♪
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さらんさん、おはヨンございます♪
ヨンの味方が此処にも一人。
領主様、守るべき民や鍛治さんのいる村、そして崇める君主を持ちながらもヨンの人柄や類稀な総統力に惚れ込み力になりたいと思う気持ちがひしひしと伝わってきたすね。
勿論ウンスに出会って変わった事も多々あると思うけど、ヨンの本来の力が再び開花したんでしょうね。
ぶっきら棒で無口だけど、誰よりもウンスや王様や仲間、信頼した全ての人には信義を通し尽くそうとするヨンだからね。