2016再開祭 | 竹秋・拾壱

 

 

今にも竹林を駆け抜けて飛び出して行きそうなテマンを眸で制す。
奴は歯嚙みしてその場に立ち尽した。
俺達までが飛び出して共に一斉に声の主を責めれば、却ってあの方が困るだろう。

怪し気。そう思う者があっても構わない。信じぬ者は何があっても信じぬ。
例えその目の前で見せようと、見る気がなければ見えないものだ。
内功という目に見えぬ力の持ち主は、時に羨望の、時に疑惑の標的となる。
信じる者は信じれば良い。信じぬ者が居てもどうでも良い。

あの方が言ってくれるだけで良い。
謝って下さい。
天界だの神の力だの天罰が何処まで真実かは判らん。
弁の立つ方の事だ。口から出任せという事も考えられなくはない。

それでも良いんだ。誰かが絶対に自分の味方になってくれる。
気味悪がることも同情でもなく、ありのままの自分を受け入れ側に居てくれる。
百の言葉よりその存在が救いになる、そんな時が確かにある。

あの方らしい物言いの声が、明るくなった竹林の中まで届く。
私のお兄さんに、謝って下さい。
あなたがそう言う理由も判るから。

俺もヒドも他人の目や雑言など気にする事はない。そんな下らぬ事で心を倦んだりしない。
嬉しいのはあなたの心が判るからだ。俺を、そしてヒドを、守ろうとして下さるのが判るから。

それで良いんだ。それだけで十分倖せだ。
きっと何も言わず戻って来るヒドにも、あなたの心は伝わっている。

竹林を広場へと戻る道の途中、竹林に立つ俺達の姿に奴は片眉を少しだけ上げて見せた。
そして声を交わし合う事もなく、広場に向かい林を奥へと戻る。

奴も判っている。あなたの心は伝わった。
そしてあの方だけではない。こうして怒りに震えるテマンもいる。
恐らく俺達の周囲の誰があの雑言を聞いても、聞いた奴は必ず相手に立ち向かっていくだろう。
そして俺やヒドは雑言を吐いた相手ではなく、後先考えん馬鹿どもを止めるのに苦労する事になる。

あの雑言を吐いた声が打って変わって詫びる声を聞きながら
「運ぶぞ」
纏めて縛った竹の束を担ぎ直して言うと、テマンは無言で頷いてその背にも竹の束を担いだ。

 

*****

 

「あ!!」

声が届く程近くに居たのは幸甚だった。
俺とテマンが竹を担いで歩き出せば、竹林の門口であの方とトギが林の中へ踏み入って来たところで。

「ヨンア、テマナー!ただいまー!」
俺達の立ち聞きは御存知ないか。若しくは知っていて素知らぬ顔をしているか。
あの方は先刻謝れと言った声とは別人のような長閑な声で、俺達の名を呼んだ。

しかしそんな事はどうでも良い。いつもなら振って下さる小さな両掌が塞がっている。
あなたがトギと一本ずつ把手を分け合いぶら下げる、黒鐵の大きな鍋。
おまけに危うげに左右へ揺れながら、もう一本の腕は大きな笊まで抱え込んでいる。
「止まれ!」

思わず大声で怒鳴ると、あなたは驚いたように足を止めた。
「な、なに」
「一体何です、その大荷物は」

俺もテマンも背負う竹のせいで即座には動けない。
責めるような声音に眸を見開き、あなたは照れたように笑んだ。
「すぐ分るわ。ヨンアたちこそ、その竹。すごい量ね」

この際竹などどうでも良い。
鉄の鍋に笊。そんな物を抱えて足場の危うい林の中を歩かせられるか。
鍋の中身すら判らない。羹であれば、零して火傷でもしたら如何する。
皇宮の中だ、ある程度は自由に動いても文句は言えんと黙認すれば、まさか鍋を抱えて戻って来るなど。

どうせ水刺房にもぐりこみ、くすねて来たに違いない。
水刺房の尚宮もこの方に頼まれて、喜び勇んで渡したのだろう。
そうやって皆を味方に付けて、一人勝手な事をする。
ヒドに呆れられても仕方ない。俺が許したのが悪い。

「置いて参ります。此処で待って下さい」
そう言い残すと俺とテマンは我先に竹林の門口へ駆け出す。
「動かずに!」

駄目押しに振り返って伝えると、担いだ竹が背中でぶつかり合い、乾いた大きな音を立てた。

 

 

 

 

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1 個のコメント

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    高麗の女人のように
    黙るなんて ないからー
    間違ってることは 言わないと
    そんな 物言うウンスに 惚れちゃったのよね
    ヒドも テマンも 納得でしょう。
    ヨンがウンスに首ったけなの♥
    なんて格好…
    さすがに 飛んでけないねぇ(笑)

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