2016再開祭 | 秋茜・拾弐

 

 

「王様、右賛成がおいでです」
尚膳令監の御声に、立ち上がり御部屋を辞そうとする私を押し留めるように右の御手を挙げ、王様は鷹揚に御声を張られる。
「通せ」

側に置く、王様がおっしゃって以来何人めだろう。私が見知った顔、見知らぬ顔。
王様の御部屋に入って来ては、王様の部屋の隅で治療道具の匣を横に座る私を驚いたように見る。

今回のパク大監は、御部屋に通されるなり王様の御前に平伏して言った。
「王様。どうか私を罰して下さいませ」

こちらに背を向け平伏する大監の御顔は判らない。
ただ玉座におわす王様が、突然の声に眉を顰めたのが見える。
「何故余がそなたを罰するのだ。理由は」
「私を罰し医女は退出させて下さい。元はと言えば私の都営より連れて参った者です。
このままお側に置けば、いずれ王様の御名に傷がつきかねませぬ」

王様は大監の声に可笑しそうに御声を震わせる。
「口を開けば二言目には側に置く、側に置くと。余が医女を側女にしたと言いたいのか、右賛成」
「決してそんな事ではございませぬ、しかし、宮廷でも噂が立ち始めております」
「どのような噂だ」
「王様が侍医ではなく、首医女に御拝診を任せていると」
「成程」
「首医女とはいえ女人でございます。御聖体に触れる事は許されませぬ。それが宮廷法度で」

尖るような声の応酬の中、痺れを切らしたよう王様がパク大監に声を被せる。
「そなたが余に法度を説くのか、右賛成」
「滅相もございません王様、決してそのような」
「優秀な医女を取り立てたそなたを褒める事はあろうと、罰する理由はない。
また首医女は、確かにここで余を治療をしておる」
「王様!」
「ただし余の体、髪一本すら触れておらぬ。尚膳を始め、康寧殿付きの内侍も尚宮も全員が知っておる。
そうだな、尚膳」

続きの間に控えた尚膳令監始め、全ての方々が頷いた。
その方々のご様子を満足そうに確かめた後で、王様は再びパク大監と御目を合わせた。
「見たであろう。もしもあの者らが余を慮って偽りを申しておるなら、何れ綻びが生じる。
人の口に戸は立てられぬからな。その時には、噂通りだったと騒ぐが良い」
「王様・・・」
「余にも考えがあっての事。そなたが噂の火消しをしてくれれば済む事だ。
ところで他に話はないのか、右賛成。仲秋節の祭祀の準備は、滞りなく進んでおるか」

さすがの大監もそれ以上の御声なく、王様の前で口を噤まれる。
その頭の中で天秤が揺れるのが見えるようだ。
政にもご興味が薄く何かと御気の短かった王様が、今では御人が変わられたようになった。
全ての上奏の文に目を通され、勤政殿の御前会議にもご機嫌良く参上される。

私を排するべきか否か。そして天秤は考えるまでもなく、御自身の保身へ傾いたらしい。
私がここに居ようと、周囲には尚膳令監や尚宮様らの御目がある。
妙な振舞いがあれば王様のおっしゃる通り、そこからあっという間に噂が広まる。

まして私はご自身の駒。私の功労は結局ご自身の名を高めると判断されたのだろう。
恭しく王様へと頭を下げ
「畏まりました、王様。祭祀の準備の進み具合は、改めて御報告に伺います」

その後私に向けたパク大監の表情は、御部屋に入って来た時よりずっと険しさが消えている。
「ソヨン、誠心誠意王様にお仕えせよ。儂の分まで頼んだぞ」
掌返しの大監の猫撫で声に、王様は横を向くと咳払いと共に笑い声を誤魔化された。

その時控えの間から、再び尚膳令監の次のお声が掛かる。
「王様、内禁衛将がおいでです」
王様は嬉し気に頷かれると、まだパク大監がいらっしゃるのに
「通せ」
と即座におっしゃる。

その声で御部屋へ入った内禁衛将様は、王様の前に控えたパク大監に驚かれたように
「・・・右賛成大監もいらしたのですか。出直しましょう」
と、軍人らしい抑揚の少ない低い声でおっしゃった。

「いや、儂の話は丁度終わったところだ」
パク大監は最後に王様へと深く一礼すると
「それでは、王様」

そう言って退出される。その背を無言で確かめ、完全に気配が消えてから
「おっしゃる通りでした」
内禁衛将様は短く言って、王様へと頭を下げられた。

「禁衛把摠はこの二日で十四度、門を通っております。興礼門を四度、これは宮廷への出入りに。
そして宮中では王様の御前会議の日に勤政門を二度、嚮五門と玄武門を四度ずつ」
内禁衛将様の御声に、王様が満足そうに微笑まれた。

 

 

 

 

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