2016再開祭 | 夏茱萸・結篇【 ウンス 】

 

 

夏にあなたの膝に座る事は滅多にない。
でも最近あなたは晩ご飯が終わると、必ず私を膝に乗せるようになった。

私の体重を確かめるように抱っこして、ようやく安心した顔で少しだけ笑う、そんな夜が続く。
だけど今晩はいつもと違う。
「イムジャ」

あなたは風の吹き始めた夜の縁側に座ると、自分の膝をポンポン叩く。
居間から小走りに駆け寄ってその中に納まると、ウエストに手を回して眉根を寄せ不満そうな顔をする。

ここ数日そんな顔は見慣れてる。でもダイエットの成果で体は軽いし、心も晴れ晴れ。
それに当日まで言えないサプライズもある。夏だもの、それくらいいいわよね?
正直に打ち明けたら、 絶対また怒り出すだろうし。

そんな私の含み笑いにあなたが背中から首を伸ばして、膝の中の私の顔を覗き込む。
「軽過ぎです」
「そう?今までが重かったのよ」
「体調は」
「だーかーら、絶好調だってば!心配しないで」

それに嘘はない。
あなたもまるで視診するみたいに私のほっぺに軽く指先を当てると目の奥をじっと見て、渋々頷いた。
「明日の、支度は」
「え?」
「荷があれば負う。纏めて下さい」
そう言ったまま私を見つめ続ける黒い瞳。

「荷物なんて別に・・・タオルくらいでしょ?あ、お腹が空くのが心配なら、何かお弁当でも」
「・・・全て、揃っておりますか」
「うん。手軽にコンビニやデパートで買うわけにもいかないから、ちゃんと確認済みよ」

笑って伝えるとあなたは何故か黒い瞳を逸らして、言い辛そうにポツンと言った。
「び、きには」
「え?」

鋭いツッコミに、思わずその顔をもう一度見ちゃう。
どうして何も言わないのに、普段は女心に疎いのに、こんな時に限って勘が働くの?
観念したようにもう一度こっちを見るあなたに、私の方が思わず目が泳ぐ。
「うん・・・別に。ほら、ね」
「別に」
「そうよ。いろいろあるのよ、女性には」
「いろいろ」
「とにかくビキニはいいの。気にしないで?天界語は苦手なくせに、変な単語ばっかり覚えるんだから」

こんな曖昧なごまかし方で、上手に騙せるとは思えない。
だけど大切なデートを明日に控えて、今になって計画が挫折するなんて絶対にイヤ。
預けたままのほっぺを膨らませると、心外だって言うみたいにあなたが口を尖らせた。
「必死で」
「え?」
「憶えております」
「そうだったの?」
「・・・多少は気も紛れるかと」
「私のため?」

そう聞くと、頷くとばかり思い込んでたあなたは優しく首を振る。
「私じゃないの?」
「俺の」
「何であなた?天界語、苦手なんでしょ」
「倖せで」

倖せで。何が、って聞こうとして口を閉じる。分かる気がしたから。
私たちは今だって、お互いに知らない側面がたくさんある。
そして私たちは毎日出逢う。昨日まで知らなかったことに。
そのたびにもう一度、新しいあなたを知った気持ちになる。

あなたは高麗の夏の楽しさを教えてくれる。
私が先の世界の夏の楽しみを教えたいみたいに。
笑ってるあなたを見て幸せって思うように、あなたも笑ってる私を見てそう思ってくれる。

「私たちって」
「はい」
「鳥肌カップルって言われても、仕方ないかもね?」
「・・・鳥肌」

ちょっと前に流行した天界語に、あなたが首を傾げた。
「ううん、熱愛してるカップルをそう呼ぶの。気にしないで。
それより何でいきなりビキニなの?あなたは嫌がってるって思ってたのに」
「俺が」

あなたは大きな息を吐くと、決意したみたいにキッパリ言った。
「破って燃やしました」
「・・・はい?」
「探して、破って、燃やしました」
「そんなにイヤだったの?!」
「はい」
「そんなぁ!!」
「悔いはない。黙っていた事は詫びます」
「そんなにイヤだったんなら仕方ないわ。でも先に言ってくれれば素直に渡したのに」

私の反応があまりに予想外だったんだろう。
今度こそ本当にビックリした顔で、あなたが私をじっと見る。
「・・・それだけですか」
「うん。私の方こそ、ヨンアがそれほどイヤだって気づかなくて」
「イムジャ」
感動した呼びかけからは程遠い、低く唸るみたいな声。
「何を」
「え?」
「何か企んでは」
「さあてと、明日は早いから、もう寝ましょ!!」

これで却ってスッキリした。
黙ってたあなただって悪いんだもの。今夜は私も、少しくらい意地悪させてもらうわ。
元気良く膝から抜け出て、ほらほらって急かすように大きな手を引っ張って立ち上がらせる。
あなたは最後まで疑うような目つきで、私の顔をじいっと見た。

 

 

 

 

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3 件のコメント

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    ヨン素直だわ~
    先に白状しちゃうのね
    ま、せっかくのお出かけなのに
    ウンスの機嫌が悪くなるのはね…避けたい
    さすがウンス…
    うすうすビキニは 嫌がると
    違う物を 密かに用意してるのね

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