2016 再開祭 | 嘉禎・24

 

 

のどの渇きで目が覚める。
一瞬自分のいる場所が分からずに、何度も瞬きをする。

オレンジ色の室内ライト。窓の外の江南の夜景。
真っ白なプレスされたシーツ。頭の下の羽毛枕。
体にかかってるアッパーシーツ。快適な温度に調節されてるエアコン。

部屋の冷蔵庫から水を取り出そうと起き上がって、下着姿の自分にぎょっとする。
どうにかシーツを巻いて隠して、目をこすってあの人を探す。
「・・・ヨンア」

部屋の中はしんとしてる。窓の外は真夜中。ベッドサイドの時計は午前2時近く。
「ヨンア?」

部屋を見渡せばカウチの前のテーブルに乗ったままの紙袋。
その袋の横、テーブルに立て掛けられたままのあの人の剣。
「ヨンア」

もう一度呼ぶと答の代りに、バスルームですごい音がする。
「はい」
あの人が扉をたたき壊すような勢いで、そこから飛び出して来た。
濡れた体に、バスローブだけしっかり羽織って。

 

冷蔵庫から取り出したミネラルウォーター。
この人は疑うみたいに、そのボトルをじっと見つめる。
「お水よ、だいじょうぶだから」

キャップを開けて、ボトルをその鼻の先へ持って行く。
「ほらね。お酒の匂いしないでしょ?」
「・・・はい」

高い鼻を近づけて匂いを確かめてから、あなたは安心したみたいに頷いた。
まだ髪が濡れてる大きな手に、そのままボトルを手渡した時。
眠気もアルコールも一瞬で吹っ飛んで、私は氷みたいに冷たいその手を、力いっぱい握りしめた。
渡しそこねて転げ落ちたボトルの口から、床の上に中身が飛び散る。
あなたがそのボトルを瞬時に取り上げて、キャップを閉め直す。

「どうしました」
「どうしましたはこっちのセリフよ!!」
その頬に手を当てる。ああ、やっぱりここも。そして額も。
首筋も、手首も。冷たい。この指が触診するところが全部。
何してたの、この人。
慌てて濡れた黒髪を指でかき回す。冷たい。水をかぶったの?

「何してたの、お風呂の中で?!お湯の出し方教えたのに!!分かんないなら起こしてよ!!」
「頭を冷やしておりました」
「頭を?頭だけじゃないじゃない、全身こんなに冷たくなって!!」

その脈はいつもと変わらずに、しっかり取れるけど。
力強い脈にひとまずほっとして、目の前のあなたをじっとにらむ。
「驚いた。ほんとに驚いた!ヨンア、どうしたの?」
「ですから、頭を」
「はい?」

あなたは訳の分からない事を繰り返し、冷たい体に羽織ったバスローブをきつく合わせて、ウエストのひもをしめ直す。
それ以上何も言いたくないみたいな顔で。
「あのね、何が理由だか知らないけどこれだけは言わせて。良い?
お酒を飲んで、その後冷たい水に入るなんて、自虐行為もいいとこ。
体温の急変で循環機能の低下、血圧上昇、最悪は心臓麻痺。
水泳中の溺死者の60%は飲酒後だったっていう統計があるくらいよ。
どんなにあなたが健康でも、たとえ頭を冷やしたくても、絶対やっちゃダメなの。分かった?」

私の真剣な目に取りあえず気持ちは伝わった・・・と、思いたいわ。
何とも言えない表情で一瞬だけこっちを見てすぐ目をそらすなんて、この人らしくない。
「分かってくれた?」
「・・・はい」
「必ず守ってね?」
「・・・・・・」
「ヨンア、ちゃんとこっち見てよ」
「イムジャ」

この人は絶対に目を合わせないように、ベッドの上で顔をそむけて窓の方を見たまんま、ぼそりと言った。
「夜着を」

いつの間にかゆるくなってる、胸のアッパーシーツの結び目。
そこからちらちら見え隠れする胸元。
ベッドの上に置いてあったローブを探して、急いで掴んで羽織る。
「あのねえ、ヨンア」

私がローブを羽織ったのを確かめてから、あなたがやっと振り返る。
「はい」
「妻の下着姿に動揺する前に、もっと自分の体を考えてよ。あなたはあなただけのものじゃないの。
私の命よりずっと大切な人。高麗の柱でもあるの。お願いだからもう絶対しないで。ん?」

不満そうにとがりかけた唇をぎゅっと結んで、あなたはそっぽを向いて小さく頷いた。
「何で怒ってるのよ」
「怒ってなど」
「絶対怒ってる」
「あなたは」
「私は、何よ」
「酔って、可愛らしかった」
「え?」
「俺に張り付いて、甘えて駄々を捏ねて」
「そんな事したの?私が?」
「たまには酒も良いと思った」

あなたは腕を広げて、ローブ越しに私を抱きしめた。
「俺以外とは赦さん」
耳元で呟く不機嫌そうな、その小さな嫉妬に嬉しさが込み上げる。
「また酔ったら、おんぶしてくれる?」
「・・・抱いて走ります。一目散に」

あなたが私をだっこして、高麗の真っ暗い道を走る姿が目に浮かぶ。
あなたならほんとにしてくれる。だから安心して気がゆるむ。
「約束ね?」

私が立てた右手の小指を、黒い瞳がじっと見る。
「教えたでしょ、忘れちゃった?約束よ。最後にトジャンしないと」
親指も立てて振って見せるのに、この人は首を振った。
「天界で約束はしません」
「何で?!」
「あなたはおっしゃった。天界では約束を違える事など易いと。
最初に天界で立てた誓いも守れなかった。この名に懸け必ず帰すと。
ですから」
「ヨンア・・・」

ため息交じりで呼ぶと、真剣な目が返って来る。
こんな顔になったらこの人は絶対に聞かない。
これ見よがしに息を吐いても、そっぽ向いて無視してる。

あっそう。そういうつもりなわけね。
意地でも天界では、約束はしないわけね?

頑固なこの人のほっぺを両手ではさんで、不意打ちのキスをする。
そのまま鼻先をくっつけて覗き込むと、閉じるのも忘れたあなたの黒い瞳が、驚いたみたいにまん丸くなってる。
「天界流のトジャンよ!」

私がそう言って笑うと、冷たかったほっぺが温かくなった。
そのほっぺをはさんだ両手首が、大きな手でゆっくり握ってほどかれる。
「高麗流の返礼を」

さっきよりもっと怒ったような低い声で、あなたが短く言った。

 

 

 

 

7 件のコメント

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    さらんさん、こんばんは❤️
    妻の下着姿に動揺する男w
    ヨンかわいい❤️
    ウンスの甘えと擦り寄る行動に胸を鷲掴みされたのね|ω・ิ)ㄘラッ
    そして冷静になる為に何時間水浴びしてたの?w
    ウンスからの不意打ちキス!!
    高麗流の返礼ってどんな??
    イチャイチャ??(灬º Д º灬)照…♡

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    ヨンの涙ぐましい冷水シャワー(^3^)/
    ウンスも罪な女ですわ(笑)
    「高麗流の返礼を」って何?
    天界に来てからのヨン、大胆になってますねー❤
    さらんさん
    お話更新が待たれます(^3^)/

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    さらんさん♥
    ナヨナヨした植物系男子が多い現代に
    キリリとした美丈夫のヨンが紛れ込んだら
    全芸能人が束になってかかっても
    勝ち目はありません、きっと。
    これぞ天界デートという
    大人のデートを見せて頂き、
    ありがとうございます♥
    どこに身をおいても
    決して染まらぬヨンが
    頼もしくもあり、可愛くもあり(#^.^#)。
    ああ、今回もウンスが羨ましい~♥

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    現代での出来事の中でも、ヨンのぶれない心と言うか信念と言うか、本当にすごいです♡
    やっぱり、ヨンはステキです(//∇//)
    頑張ってるウンス、可愛い(*≧з≦)

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    むふふ
    酔った 奥さんに 
    可愛らしかったなんて… 惚れ直しちゃったかしら
    ( ´艸`) も~ 天界でも お水かぶっちゃうなんて
    遠慮しなくっても いいのに~ 
    か~わいい (〃∇〃)

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    さらんさん、こんばんわ♪
    さらんさんのお話の再開、本当に本当に喜んで毎朝毎晩喜んでいます(*´ω`*)
    ヨンア、だんだん乗り気になってきた!?
    せっかくのムーディーなホテル泊なのに、堅物ヨンア~(^_^;)と思ってたのに。
    明日の朝が楽しみで仕方ないです!

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    ヨンったら気持ちを静める為に,水シャワーかぶってたのかな( ´艸`)
    ヨンも,表面的には変わって無くても,ホロ酔いだったのかも。
    普段なら思っていても言いそうに無い,甘い言葉言うし(///∇//)
    天界流キスのハンコを不意打ちに貰ったら,ヨンは気持ちのセーブが出来ないですよね。
    小悪魔ウンスさんだわ~でも可愛くて良いですね(o^-')b

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