2016再開祭 | 竹秋・弐

 

 

「トギーーい」

駄目だ、あの呼び方の時は碌な事を考えてない。
私だってもう分かってる。ウンスはそういう人だってこと。

「トーギヤーー」

何!!

声が近づいて来るのに辛抱しきれず、薬室の部屋の戸を乱暴に開けて廊下に駆け出る。
指で尋ねると、廊下の先から近付いて来てたウンスは目を丸くした。
「どうしてそんなに怒ってるの?」
だって、返事できないのにずっと大声で呼び続けてるから!
「だからって怒らないでよ、トギに大切な質問とお願いがあるの」

ほら来た。大切なお願い。きっとまた困った事に違いない。
そして分かってる。どんな願いでも、もしも私が聞かなければ、次はキム先生だ。
そうやって誰かしら聞き入れる人を探すはず。ううん、聞き入れる人が現れるまでしつこく尋ねて回るはず。
私が聞き入れなかったら、他の忙しいみんなに迷惑が掛かる。

・・・何、お願いって。

私が仕方なく指で尋ねると、ウンスの顔が輝いた。
「あのね、竹なんだけど。薬園の裏山にすごくもさもさ茂った竹林があるじゃない?」
もさもさって言い方はどうかと思うけど、確かに収拾がつかないほど茂ってしまった竹林がある。
私はウンスに頷いた。
「あれって、あのままでもいいの?」

竹を全て切れば新しい竹林は出来るけど、あれほど育った竹を切るだけで、全員がかりで何日もかかる。
花が咲けば一気に枯れるけれど、いつ咲くのかは私にも分からない。
枯れた後は新しい林になるまで五年は掛かる。一番良いのは、今生えてる竹を一斉に切ることだけど。

指の説明で、どこまで通じたんだろう。
ウンスは何故かとても満足そうな、嬉しそうな顔をした。
「ふうん。全部切っていいのね。そしたら新しい林が出来るのね?」

典医寺を放っておく事も出来ないし、他にも用事がたくさんある。
だから仕方ないの。手が空いた時に少しずつ切ってくしかないよ。
古い竹が残ってると栄養を取られるから、筍も生えにくい。

「なるほどね。植物の神秘よねー、開花時期が決まってないなんて。桜や梅にはそんなことないのにね。
枯れる時期が分からないなら、それはもう思い切って、バッサリ切るしかないわよねー」
ウンスのその微笑みの方がよっぽど神秘。ううん、神秘を通り越して不気味だよ。
本当は正直に言いたいけど、絶対に臍を曲げるから、黙っておく。

「ねえトギ、そうやって伐採した竹も、薬草として使えるの?」
もちろん。ただあの竹林は、孟宗竹と淡竹が混ざってる。
生薬で主に使うのは淡竹。竹葉、竹筎、竹癧、葉から茎まで全部使える。
孟宗竹は竹筎としても使えるけど、食べ物に使う事が多い。
竹の中に米と水を詰めて蒸したら、ちゃんと炊けるし腐りにくい。節で切れば水筒にも使える。

「じゃあ切って準備してあったら、すごーく便利よね?」
・・・うん。何しろ伸びるのが早いし、伸びたら最後、回りの地面に陽が届かないくらい茂る。
ある程度で刈り取れれば、もちろん一番良い。そうすれば筍も生えやすいし。

「そうよね、竹の子は大切よね。それにあんなもさもさの竹林なんだから、全部スッキリ切らなきゃ。ね、トギ!」

ウンスは目を輝かせて、廊下の真中で私の手を握った。

 

*****

 

春の夕陽がすっかり落ちて、風も冷たくなった手裏房の酒楼。
ふわふわ淡くぼやけた月が黒い空の上に光ってる。

「事情が変わりました」

医仙はすごく難しい顔で、神妙な声でそう言った。

困ってるなら助けたい。俺に出来るなら何でもしたい。いつもなら、すぐにそう思えるのに。
もちろん医仙は大切だ。それはずっとずっと変わらない。
誰より大切な姉さんで母さんだ。
だって俺の命より大切な大護軍が、自分の命より大切にしてる人だから。

だけど今夜だけは許してほしい。それどころじゃない。
一体何が何だか分からずに黙って口を閉じたまま、みんなの顔を順に見る。

ヒドヒョンは本当に不機嫌そうに、眉の間に深い皺を二本くっきり刻んで、まぶたを固く閉じている。
シウルとチホがそんなヒドヒョンと医仙を、困ったみたいに見比べている。
そして大護軍はどうして良いか分らないみたいに、卓に肘を突いて、大きな手で額を押さえたままだ。

それでもそれだけなら、俺もここまであわてない。
今俺をあせらせてるのは、今まで手裏房に一度も来た事のない姿。
俺たちが囲む大きな卓の、医仙の横。
大護軍と反対側の横、気まずそうな顔でぽつんと座ってる小さな姿。

どうして来たんだよ。 くちびるだけで聞くと、指の声が返って来る。
だって、ウンスに来いって言われた。
何しに。
竹を切らなきゃいけないから、説明しろって。
「竹ぇ」

こらえ切れずに思わず大きな声を上げると、ヒドヒョンの目が開く。
シウルとチホが仰天したようにこっちを見て、肘を突いてた大護軍が押さえていた手から頭を上げる。
「竹がどうした」

大護軍の声に思わずくちびるを噛む。
そして医仙だけが目を輝かせながら、叫んだ俺とみんなに頷いた。

 

 

 

 

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