2016再開祭 | 竹秋・壱

 

 

【 竹秋 】

 

 

「食、べ、たいなー」
謳うような節をつけ、あなたはねだるよう一同を見渡した。
ようやく寒の緩んだ春の宵。軒下の灯篭が照らす朧月の影。

シウルは困ったように俺を見る。
チホは興味津々でこの方を見つめ返す。
ヒドは関わるのは御免とばかりそっぽを向く。
そしてテマンが律儀に俺の横のこの方へ問い掛ける。
「何をですか、医仙」

その手に乗るから馬鹿を見るんだと、思わず怒鳴りそうになる。
良いかテマン。この方の飯の話に乗ったが最後、碌な事はない。

饅頭と言ったら饅頭、クッパと言ったらクッパ、酒と言ったら酒。
良くも悪くも猪突猛進、言い出したら絶対に退かず曲げず。
おまけに並の男程の量を平らげる。
細く平らな腹の、一体何処に収まるのか不思議になる大量の飯を。

饅頭なら自分の顔よりでかい物を両手に一つずつ掴んで齧りつく。
クッパなら横から匙を出せば、椀を手元に戻すまで心配げに睨む。
酒なら頑として酔っていないと言い張って、次々盃を空けて行く。

そして最後に膨れた腹を撫でて歩けないと駄々を捏ねるか、酔っていないと言いながら足腰が立たず、背負って帰る羽目になる。

つまり加減を知らんのだ。目が欲しいから口に入れ、飲める気がして盃を空ける。
赤子と変わらない。欲しいだけ喰って飲んでしまう。

しかしこの方はテマンからの問い声が返っただけで満足らしい。
「タケノコが食べたいの。典医寺の裏山に大きな竹林があるのよ」

テマンの声が此処に集う全員の総意だったかのように高らかに言って、この方は再び皆を見詰め直す。
「春といったらタケノコ、でしょ?ナムルもいいし、丸ごと焼いても美味しいし。
私は食べたことはないけど取れたてだったら、生で刺身みたいに食べるって聞いたこともあるし。
天ぷらも良いし、炒めるのも。第一冷蔵技術や保管技術がないから、今のこの時期しか食べられない。
最高のぜいたくだと思わない?」

甘えるように卓の下、この袖口を引く細い指。
「勝手に喰え」
ヒドはうんざりした顔で席を立ち、其処から鋭い眼でこの方を睨み
「ではな、ヨンア」
吐き捨てると踵を返し、振り返りもせず酒楼の門を出て行く。

「あ、ヒョン!」
「ヒドヒョン、待てって」
機嫌を損ねた兄貴分に慌て、シウルとチホが続いて席を立った。
その時ヒドと入れ替わりに湯気の立つ椀を盆に載せ、マンボが厨から出て来る。

「お前ら、何騒いでんだい」
「マンボ姐、ヒョンが」
「ああ、いないねえ。部屋に戻ったのかい」

マンボは盆を音を立てて卓に乗せ、東屋外をぐるりと見渡す。
「寒いからスジェビを拵えてやったのに。相変わらず気儘な男だよ」
「ヒョンは喰わないだろ」
「それにしたってああ酒ばっかりかっ喰らってちゃ体に悪いよ。何か喰わせなきゃ」
「気が向けばつまみは喰ってるんだから、良いじゃねえかよ」
「ヒドさん、ご飯は食べないんですか?」
「そうだねえ」

汁の椀を各々の前に置きながら、マンボは首を振った。
「口を動かすのが面倒臭いんだとさ」
「え?」
「面倒だって言うんだよ。噛んだり飲んだりするのが」
「・・・マンボ」

俺の低い声にマンボも喋りが過ぎたと気付いたか。
口を閉じるとふんと鼻から息を吐いて肩を竦める。
「死なないってことは、何かしら喰ってはいるってことさね」
「何か好きなものってないんですか?ヒドさんの好物」
「さあて。何を喰わせても美味いとは言わないね」
「これなら食べる、っていうのは?」

見た事か。この方が俺の兄者を黙って放って置く訳がない。
幾度も外へ誘い、飯に誘い、懸命に笑わせようとしている。
医官としても飯も喰わんと聞いた以上、見過ごす筈もない。
「これなら食べる・・・」

マンボは記憶を辿るように、その目を東屋の天井へ投げた。
「ああ、若布だ。若布は食べるよ」
「ミヨク?」

それを聞いて思い出す。

倭寇相手の多かった赤月隊の戦場は海辺が殆どだった。
敵が入江から離れ沖に錨を下ろした時は、明るいうちに敵の様子見にその船へ忍び寄る事もあった。
万一見つかった時を考え地元の漁師を装い、纏う襤褸の脛や懐に刀を忍ばせて。

ヒドは泳ぎが達者だった。重い刀を忍ばせても危なげなく海を渡った。
調息の達人で水中でも息が長く続いた。
目立たぬように敵の装備や人数を確かめ戻って来る時、何故か腰に結んだ命綱に下げた笊に必ず土産が入っていたものだ。

時には大きな栄螺や牡蠣や鮑、時には笊一杯の蟹や蛸、そして海藻。
「漁師の振りを」

最初は土産に困った顔をしていた隊長も、奴の言葉に俺達が歓声を上げて火を焚き始めると、ヒドに向け目を緩めていた。
きっと隊長は判ってた。
ヒドは漁師の振りをしたんじゃなく、皆に腹一杯喰わせてくれる為に、敵に見つかる危険を冒してわざわざ獲って来ると。

もしもその想いが奴の中に残ってるなら。
囲んだ焚火の記憶や温かさが残ってるなら。
だから若布が好きなんだとしたら、それは嬉しくて悲しい事だ。
だってそうだろ。二度と戻れない思い出だけで生きてるなんて。
その思い出だけが、お前にどうにか喰わせてるなんて。

そんな物思いを断ち切るように、横から声が上がる。
「ミヨクですね、分かりました」

何が分ったのかは判らない。
けれど俺の横、この方は頷きながら微笑むと、次は袖でなくこの掌を温かい指で包み込んだ。

 

 


 

春といえば、筍
筍のナムルは飲兵衛のお供!ウンスだって大好きなハズ。
だったら、行っちゃえ、筍狩り。
まずは、筍狩りで一騒動!
山のことならオイラにお任せ、山駆ける小猿テマン!
不本意ながら、筍狩りでも大活躍、蟷螂ヒドヒョン!
なんだかんだで、最後は、筍づくしで大宴会。
ハプニング満載の春の1日。
♪あるぅ日、森の中~♪♪ (にゃんこさま)

 

 

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